2013年04月27日

昔染みなし節

昔染みなし節
んかし すみなしぶし
Nkashi suminashi bushi
昔心染めなす唄
語句・すみなし <すみゆん; 染める。+ なすん。 なしゅん; なす。 心を染める。林昌さんは六番で「しみてぃ」と歌っているので「んかししみなしぶし」と読むのかもしれない。



一、真夜中どぅやしが夢にうくさりてぃ 覚みてぃ恋しさや ありが姿 ヨーワンネ
まゆなかどぅやしが いみにうくさりてぃ さみてぃくいしさや ありがしがた よーわんね
mayunaka du yashiga 'imi ni 'ukusariti samiti kuishisa ya 'ari ga shigata yoo waNnee
真夜中なのであるが夢に起こされて 目覚めても恋しいのはあの人の姿  ねえ 私は
語句・あり あの人。「ama(あの方)、anuQcu(あの人)よりはぞんざいな形」【沖縄語辞典】。・わんねー 私は。 ちなみに「わん」(私)は後ろに付く語によって形がかわる。「わーが」(私が)。「わんねー」(私は)。「わんにん」(私も)。「わー」(私も)。



二、忘らていとぅむてぃ まくらとぅいかわち 二度とぅ うくさりる夢ぬ辛さヨーワンネ
わしらていとぅむてぃ まくらとぅいかわち にどとぅんうくさりるいみぬちらさ よーわんね
washiratei tumuti Makura tuikawachi nidutu 'ukusariru 'imi nu chirasa waNnee
忘れようと思って 枕を取り換えて 再び起こされる夢の辛さよねえ 私は
語句・てい と。 とぅむてぃと思って。



三、朝夕うみちみてぃ やしはてぃるびけい うちあきてぃ 胸ぬうむいはりら ヨーワンネ
あさゆうみちみてぃ やしはてぃるびけい うちあきてぃ んにぬうむいはりら よーわんね
'asayu 'umichimiti yashihatirubikei 'uchi'akiti Nni nu 'umui harira waNnee
一日中思い詰めて 痩せ果てるばかり 打ち明けて胸の思い晴らせたい ねえ 私は
語句・あさゆ 一日中。「朝と夕方」ではない。・びけい ばかり。くらいの。程の。・はりら <はりゆん;晴れる。 の未然形。自分の意思や、仲間への呼びかけを意味する。



四、梅桜でんし節来りば咲ちゅい 節ゆまちみそり 咲ちどぅさびるよーニーサン
んみさくらでんし しちくりばさちゅい しちゆまちみそり さちどぅさびる よーにーさん
'Nmi sakura deNshi shichi kuruba sacyui shichi yu machimisori sachi du sabiru yoo niisaN
梅桜でさえ季節が来れば花が咲くもの 時期をお待ちください 花が必ず咲きます ねえ兄さん
語句・でんし でさえ。・しち 季節。時期。「節」(せつ)に対応。・みそり <みそーり。 敬語の命令形。<みせーん;お…になる。 (たとえば、目を「みー」と発音するが、表記では「み」と書くことがある。このように歌の中では、長母音〔伸ばす母音〕を短く表記し、この場合3文字と数える。こういう表記法を詩的許容(poetic license)と言う。)・さちどぅさびる 必ず咲きます。「どぅ」は強調の助詞で、その後の語尾を連体形にする「係り結びの法則」が働くので、「あびーん」という丁寧の敬語が「「あびる」になる。・にーさん うちなーぐちの辞書にはないが、ふつうの「お兄さん」の意味だろう。(ちなみにうちなーぐちで「にーさん」は「遅い」「まずい」の意)。



五、節待ちゅる間や 年や寄い詰みてぃ 寄いちみる年やしらね無蔵や ヨーニーサン
しちまちゅるいぇだや とぅしやゆいちみてぃ ゆいちみるとぅしやしらねんぞや よーにーさん
shichi machuru yeda ya tushi ya yuichimiti yuchimiru tushi ya sirane Nz(y)o ya yoo niisaN
時期待つ間に歳を取ってしまって 取ってしまった歳は知らないでしょう 貴女は ねえ兄さん
語句・しらね <しらねー <しゆん;知る。の否定形しらん、の質問形 しらに+や が融合して「しらねー」。 知らないよね、知らないでしょう? ・んぞ 「男が恋する女を親しんでいう語。恋人(女)」【沖縄語辞典】。女性から男性に向けては「里」(さとぅ)。しかし、稀に歌の中では性別に関わらず「恋人」に向かっていう時もある。



六、一人うみちみてぃ んにうちゆ染みてぃ いらなくがりゆる やみぬ蛍 ヨーワンネ
ひちゅいうみちみてぃ んにうちゆしみてぃ いらなくがりゆる やみぬふたる よーわんね
h(w)ichui 'umichimiti Nni'uchi yu simiti 'irana kugariyuru yami nu hutaru yoo waNnee
一人思い詰めて 胸の中を(あなたで)染めて 言わないで焦がれてる闇の蛍 ねえ私は
語句 ・いらな いわないで。 <ゆん[言う]の未然形 いら。の否定形 




「平成の嘉手苅林昌」に収録。
昔染みなし節

「染みなし節」は有名だが、こちらの「昔染みなし節」はこのアルバムを開くまで知らなかった。

冒頭の歌詞は「世宝節」でも使われているし、六番はその「染みなし節」の歌詞とよく似ている。

メロディーも、聞きなれた曲にはない。

嘉手苅林昌先生の即興だろうか、そこはわからない。

しかし、いい曲、歌、歌詞である。


さて内容について、いくつか不明なところも多い。


「昔」とついているが「昔の」という意味か、「昔染めた」という意味かわからない。


四番は敬語が使われているから「女性」の気持ちであることはわかる。

そして五番は「無蔵」(んぞ)とあるので「男性」である。

その四番と五番だけに「よー兄さん」とあって、それ以外の「よーわんね」とは違っている。

通常、私は囃子言葉は訳さないで良いと思っている。
それはいくつかの理由があるが、今回はどうも歌詞の内容と関連がありそうなので、訳の中に織り込んでみた。


私の解釈では

女性の想いを寄せる男性が、その思いを抱え夢にまで見、枕も変えたがそれでも夢を見て、やせはてているところに

女性が「いつかは時期がきますよ、お待ちください」と言ったところ、男性は「それでは歳をとってしまうよ」と応えて最後の歌詞になる。

一人思い詰めて胸の中を(あなたで)染めて 言わないで焦がれてる闇の蛍 ねえ私は


この「闇ぬ蛍」を使った琉歌を「琉歌大成」(清水彰) で調べるといくつかでてくる。

その中に

思い身にあらば事のよしあしも言やな焦がゆみ闇の蛍

つらさ身にあまてことのよしあしも言やな焦がれゆみ闇の蛍


この「言やな」を「言らな」と言い換えた歌詞だろう。


youtubeで嘉手苅林昌さんのこの歌が聴ける。








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Posted by たる一 at 09:53│Comments(0)ん行
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