2024年07月06日
クバ笠小
くば笠小
くばがさ ぐゎー
kubagasa gwaa
◯くば笠
語句・くばヤシ科の常緑高木。一般ではビロウと呼ばれる。日笠の他にはミノ、扇などを作る。聖地、拝所に多い。「久葉」とも書く。・ぐゎー①小さいものへの愛称②子どもの愛称③少量④蔑称などの用法がある。ここでは愛称に近い。
一、サヨサー 里前が 情きぬくば笠小 里前が 情きぬくば笠小 ちーいしてぃちーいしてぃ 眺みてぃ遊ばな 語らてぃ 遊ばなや くば笠小 ハーリヌヨーユーイヤサー 語らてぃ 遊ばなや
さよさー さとぅめーがなさきぬくばがさぐゎー さとぅめーがなさきぬくばがさぐゎー ちーゐしてぃ ちーゐしてぃ ながみてぃあしばな かたらてぃ あしばなや くばがさぐゎー はーりぬよーゆーいやさー かたらてぃ あしばなや
sayoosaa satumee ga nasaki nu kubagasagwaa satumee ga nasaki nu kubagasagwaa chii yishiti chii yishiti nagamiti 'ashibana katarati 'ashibana yaa kubagasagwaa haari nu yoo yui ya naa katarati 'ashibana yaa
['の記号は声門破裂音]
◯愛する彼の愛情であるくば笠。ちょっと置いて眺めて遊びたいな。仲良くなって遊びたいな、くば笠
語句・さとぅめー愛する彼氏。女性が男の恋人をいう語。・の。・ちー動詞の前について、「ちょっと〜する」「〜してしまう」・ゐしてぃ置いて。<yishiyuN いしゆん。すえる。置く。「ゐ」の発音に注意。声門破裂音がない「yi」。・かたらてぃ仲良くなって。「語ら」と当て字がされているが意味は「語る」よりも「仲間に入れる」。<かたらゆん。仲間に入れる。味方にする。この「かた」は味方の「かた」に近い。九州には「かたれー」といえば「仲間になれ」という意味の方言がある。
二、サヨサー 花染手巾や 前に結でぃ 花染手巾や 前に結でぃ 美らむぬや 美らむぬや くば笠 ソイソイ 女童遊ぶさや くば笠小 ハーリヌヨーユイヤサー 女童遊ぶさや
さよさー はなじゅみてぃーさーじや めーにむしでぃ はなじゅみてぃーさーじや めーにむしでぃ ちゅらむぬや ちゅらむぬや くばがさ そいそい みやらび あしぶさやー くばがさぐゎー はーりぬゆよー ゆいやさー みやらび あしぶさやー
sayoosaa hanajumitiisaaji ya mee ni mushidi hanajumitiisaaji ya mee ni mushidi churamunu yaa churamunu yaa kubagasa soisoi miyarabi 'ashibusa yaa kubagasa haarinu yoo yuiyasaa miyarabi 'ashibusa yaa
◯花染め手拭いを前に結び 美しいねえ くばがさ笠(で)娘は遊びたいねえ
語句・はなじゅみ「はなずみ」とも言う。「花染め手拭」は着物を織った残りの糸で女性が思いを込めて織ったもの。「手拭い」というが汗を拭く実用性より女性が男性に思いを伝える象徴的な「お守り」のようなもの。現代では文字通りの「手拭い」布のようなものを指している。・めーにむしでぃいわゆる「前結び」は頭の前で手拭いを結ぶ。粋な雰囲気がある。・みやらび娘。「美童」と当て字を使う場合があるが、本来は「女童」で、未婚の娘を指した。・あしぶさとても遊びたい。接尾語の「〜ぶしゃん」「ぶさん」は体言形「ぶしゃ」「ぶさ」で止めると「とても〜したい」となる。
三、サヨサー かんしてぃ 美らさやくば笠小 かんしてぃ 美らさやくば笠小 美らむぬや 美らむぬや かんしてぃうかさや恩義とぅ ふくしんや くば笠小 ハーリヌヨーユイヤサー 恩義とう ふくしんや
さよさー かんしてぃ ちゅらさや くばがさぐゎー かんしてぃ ちゅらさや くばがさぐゎー ちゅらむぬやー ちゅらむぬやー かんしてぃ うかさや うんじ とぅ ふくしんやー くばがさぐゎー はーりぬよーゆいやさー うんじ とぅ ふくしんやー
sayoosaa kaNshiti churasa ya kubagasagwaa kaNshiti churasa ya kubagasagwaa churamunu yaa churamunu yaa kaNshiti wukasa ya wuNji tu hukushiN yaa kubagasagwaa haarinuyoo yuiyasaa wuNji tu hukushiN yaa
◯かぶせて美しいのはくば笠。美しいものだ。かぶせて滑稽なのは恩義と埃だ。
語句・かんしてぃ被せて。かぶせて。<かんしゆん。かぶせる。かぶらせる。・うかさや 滑稽なのは。<うかしゃん。滑稽な。ukashaN←声門破裂音がないのでwukashaNとも。+や。〜は。・うんじ恩義。こちらも声門破裂音がない。・ふくしん 埃。粉塵のようなもの。辞書には見当たらない。
四、サヨサー 沖縄育ちぬくば笠小 沖縄育ちぬくば笠小 働ち者 働ち者 雨風うきてぃん 意地りどぅ 第一や くば笠小 ハーリヌヨーユイヤサー 意地りどぅ 第一どー
さよさー うちなーすだちぬくばがさぐゎー
うちなーすだちぬくばがさぐゎー はたらちむん はたらちむん あみかじうきてぃん いじりどぅ でーいちやー くばがさぐゎー はーりぬよーゆいやさー いじりどぅでーいちどー
sayoosaa 'uchinaa sudachi nu kubagasagwaa 'uchinaa sudachi nu kubagasagwaa hatarachimuN hatarachimuN 'amikaji 'ukitiN 'ijiri du deeichi yaa kubagasagwaa haarinuyoo yuiyasaa 'ijiri du deeichi doo
◯沖縄育ちのくば笠は働き者。雨風受けても意気地こそ第一だ。
語句・いじり意気地。気力。「いじ」とも言うが、こちらは意地、意気地、に加え勇気や怒りという意味も含まれる。
(「くば笠小」カセットテープ)
解説
作詞・作曲は比嘉恒敏氏。「艦砲ぬ喰え残くさ」という人気高い沖縄民謡を生み出した人物。その娘さんたちはデイゴ娘というグループで、このウタを唄い継いでいる。
沖縄戦では4人に1人の県民が亡くなったが、その庶民を「艦砲射撃の食い残し」とし、圧倒的な米軍の攻撃に抵抗することもできずに逃げ回ったという沖縄県民の悲劇、惨劇を描いている。それはすなわち第二次大戦で沖縄を「捨て石」にした日本への怒りが込められている。
その比嘉恒敏氏が作詞・作曲をした「くば笠小」もまた沖縄県民に愛されている民謡の一つだ。
筆者は今帰仁のある方のお宅を訪問している時に、三番の「恩義とふくしん」の「ふくしん」について意味を尋ねられた。
すぐに 嘉手苅林次師匠に尋ねると「埃のことだ」と教えられた。さらにグループでいご娘さんの比嘉けい子さんに直接お話しする機会があり、お聞きすると師匠同様に「埃」だと伺った。比嘉けい子さんによれば「ふくしん」以外にも地域によって言い方が変わるという。
琉球語辞典(半田一郎)には「ふくい」(埃[ほこり])、「ふくちち」(ごみ、埃[ほこり]」の二つがある。
くば笠の美しさ、彼氏からもらったくば笠に愛着を持つ娘の気持ちを優しくうたいながらも、「かぶらせて可笑しいのは恩義と埃だ」と人生の教訓までも辛口で織り込んでいる。比嘉恒敏さんが子どもたちに伝えたかった「ゆしぐとぅ」(教訓)の一つなのだろう。
「語って」と理解しがちな「かたらてぃ」の訳にも注意したい。詳しくは一番の語句解説を参照。
くばがさ ぐゎー
kubagasa gwaa
◯くば笠
語句・くばヤシ科の常緑高木。一般ではビロウと呼ばれる。日笠の他にはミノ、扇などを作る。聖地、拝所に多い。「久葉」とも書く。・ぐゎー①小さいものへの愛称②子どもの愛称③少量④蔑称などの用法がある。ここでは愛称に近い。
一、サヨサー 里前が 情きぬくば笠小 里前が 情きぬくば笠小 ちーいしてぃちーいしてぃ 眺みてぃ遊ばな 語らてぃ 遊ばなや くば笠小 ハーリヌヨーユーイヤサー 語らてぃ 遊ばなや
さよさー さとぅめーがなさきぬくばがさぐゎー さとぅめーがなさきぬくばがさぐゎー ちーゐしてぃ ちーゐしてぃ ながみてぃあしばな かたらてぃ あしばなや くばがさぐゎー はーりぬよーゆーいやさー かたらてぃ あしばなや
sayoosaa satumee ga nasaki nu kubagasagwaa satumee ga nasaki nu kubagasagwaa chii yishiti chii yishiti nagamiti 'ashibana katarati 'ashibana yaa kubagasagwaa haari nu yoo yui ya naa katarati 'ashibana yaa
['の記号は声門破裂音]
◯愛する彼の愛情であるくば笠。ちょっと置いて眺めて遊びたいな。仲良くなって遊びたいな、くば笠
語句・さとぅめー愛する彼氏。女性が男の恋人をいう語。・の。・ちー動詞の前について、「ちょっと〜する」「〜してしまう」・ゐしてぃ置いて。<yishiyuN いしゆん。すえる。置く。「ゐ」の発音に注意。声門破裂音がない「yi」。・かたらてぃ仲良くなって。「語ら」と当て字がされているが意味は「語る」よりも「仲間に入れる」。<かたらゆん。仲間に入れる。味方にする。この「かた」は味方の「かた」に近い。九州には「かたれー」といえば「仲間になれ」という意味の方言がある。
二、サヨサー 花染手巾や 前に結でぃ 花染手巾や 前に結でぃ 美らむぬや 美らむぬや くば笠 ソイソイ 女童遊ぶさや くば笠小 ハーリヌヨーユイヤサー 女童遊ぶさや
さよさー はなじゅみてぃーさーじや めーにむしでぃ はなじゅみてぃーさーじや めーにむしでぃ ちゅらむぬや ちゅらむぬや くばがさ そいそい みやらび あしぶさやー くばがさぐゎー はーりぬゆよー ゆいやさー みやらび あしぶさやー
sayoosaa hanajumitiisaaji ya mee ni mushidi hanajumitiisaaji ya mee ni mushidi churamunu yaa churamunu yaa kubagasa soisoi miyarabi 'ashibusa yaa kubagasa haarinu yoo yuiyasaa miyarabi 'ashibusa yaa
◯花染め手拭いを前に結び 美しいねえ くばがさ笠(で)娘は遊びたいねえ
語句・はなじゅみ「はなずみ」とも言う。「花染め手拭」は着物を織った残りの糸で女性が思いを込めて織ったもの。「手拭い」というが汗を拭く実用性より女性が男性に思いを伝える象徴的な「お守り」のようなもの。現代では文字通りの「手拭い」布のようなものを指している。・めーにむしでぃいわゆる「前結び」は頭の前で手拭いを結ぶ。粋な雰囲気がある。・みやらび娘。「美童」と当て字を使う場合があるが、本来は「女童」で、未婚の娘を指した。・あしぶさとても遊びたい。接尾語の「〜ぶしゃん」「ぶさん」は体言形「ぶしゃ」「ぶさ」で止めると「とても〜したい」となる。
三、サヨサー かんしてぃ 美らさやくば笠小 かんしてぃ 美らさやくば笠小 美らむぬや 美らむぬや かんしてぃうかさや恩義とぅ ふくしんや くば笠小 ハーリヌヨーユイヤサー 恩義とう ふくしんや
さよさー かんしてぃ ちゅらさや くばがさぐゎー かんしてぃ ちゅらさや くばがさぐゎー ちゅらむぬやー ちゅらむぬやー かんしてぃ うかさや うんじ とぅ ふくしんやー くばがさぐゎー はーりぬよーゆいやさー うんじ とぅ ふくしんやー
sayoosaa kaNshiti churasa ya kubagasagwaa kaNshiti churasa ya kubagasagwaa churamunu yaa churamunu yaa kaNshiti wukasa ya wuNji tu hukushiN yaa kubagasagwaa haarinuyoo yuiyasaa wuNji tu hukushiN yaa
◯かぶせて美しいのはくば笠。美しいものだ。かぶせて滑稽なのは恩義と埃だ。
語句・かんしてぃ被せて。かぶせて。<かんしゆん。かぶせる。かぶらせる。・うかさや 滑稽なのは。<うかしゃん。滑稽な。ukashaN←声門破裂音がないのでwukashaNとも。+や。〜は。・うんじ恩義。こちらも声門破裂音がない。・ふくしん 埃。粉塵のようなもの。辞書には見当たらない。
四、サヨサー 沖縄育ちぬくば笠小 沖縄育ちぬくば笠小 働ち者 働ち者 雨風うきてぃん 意地りどぅ 第一や くば笠小 ハーリヌヨーユイヤサー 意地りどぅ 第一どー
さよさー うちなーすだちぬくばがさぐゎー
うちなーすだちぬくばがさぐゎー はたらちむん はたらちむん あみかじうきてぃん いじりどぅ でーいちやー くばがさぐゎー はーりぬよーゆいやさー いじりどぅでーいちどー
sayoosaa 'uchinaa sudachi nu kubagasagwaa 'uchinaa sudachi nu kubagasagwaa hatarachimuN hatarachimuN 'amikaji 'ukitiN 'ijiri du deeichi yaa kubagasagwaa haarinuyoo yuiyasaa 'ijiri du deeichi doo
◯沖縄育ちのくば笠は働き者。雨風受けても意気地こそ第一だ。
語句・いじり意気地。気力。「いじ」とも言うが、こちらは意地、意気地、に加え勇気や怒りという意味も含まれる。
(「くば笠小」カセットテープ)
解説
作詞・作曲は比嘉恒敏氏。「艦砲ぬ喰え残くさ」という人気高い沖縄民謡を生み出した人物。その娘さんたちはデイゴ娘というグループで、このウタを唄い継いでいる。
沖縄戦では4人に1人の県民が亡くなったが、その庶民を「艦砲射撃の食い残し」とし、圧倒的な米軍の攻撃に抵抗することもできずに逃げ回ったという沖縄県民の悲劇、惨劇を描いている。それはすなわち第二次大戦で沖縄を「捨て石」にした日本への怒りが込められている。
その比嘉恒敏氏が作詞・作曲をした「くば笠小」もまた沖縄県民に愛されている民謡の一つだ。
筆者は今帰仁のある方のお宅を訪問している時に、三番の「恩義とふくしん」の「ふくしん」について意味を尋ねられた。
すぐに 嘉手苅林次師匠に尋ねると「埃のことだ」と教えられた。さらにグループでいご娘さんの比嘉けい子さんに直接お話しする機会があり、お聞きすると師匠同様に「埃」だと伺った。比嘉けい子さんによれば「ふくしん」以外にも地域によって言い方が変わるという。
琉球語辞典(半田一郎)には「ふくい」(埃[ほこり])、「ふくちち」(ごみ、埃[ほこり]」の二つがある。
くば笠の美しさ、彼氏からもらったくば笠に愛着を持つ娘の気持ちを優しくうたいながらも、「かぶらせて可笑しいのは恩義と埃だ」と人生の教訓までも辛口で織り込んでいる。比嘉恒敏さんが子どもたちに伝えたかった「ゆしぐとぅ」(教訓)の一つなのだろう。
「語って」と理解しがちな「かたらてぃ」の訳にも注意したい。詳しくは一番の語句解説を参照。