2025年04月14日

かいされ 4

 かいされ 4
語句・かいされー 一説によると「八重山のしゅうら節(赤馬節のチラシ)から」本島に流れてきたという(普久原恒勇氏)。新崎善仁氏も「八重山民謡の考察」の中で「しゅうら節」との類似性を論じている。「かいされー」という言葉は「かいしゃーん」(清らか、美しい)という八重山語にも類似するが、そういう用法も言葉も存在しない。本島の「~ならば」という意味で「かいしゃーん」の形容詞の語尾を「れー」にしたようにもとれる。



情けある露ど花の上や降ゆる 真実の思の仇になゆみ
なさき'あるちゆどぅ はなぬ'うぃやふゆる しんじちぬ'うみぬ 'あだになゆみ
nasaki 'aru chiyu du hana nu 'ui ya huyuru shiNjichi nu 'umi nu 'ada ni nayumi
情けがある露は花の上にふるもの 真実の愛は徒になるか?
語句・うみ 思い。<うみー 'umii 思い。・なゆみ なるか?<なゆん なる。 その動詞の「終止形の語末の-nを-mに変え、これに疑問助詞(-)iを添えて作られる」【琉】。動詞だけでなく形容詞でも疑問文を作ることができる。


かじまやに立てば風の物云くと 汝った門に待たわ 出じて来よや
かじまやにたてぃば かじぬむぬゆくとぅ いったじょにまたわ んじてぃくよや
kajimaya ni tatiba kaji nu munu yu kutu 'itta jo ni matawa 'Njiti ku yo ya
十字路に立ったら噂になるので おまえの家の門にまつから出てきてよね
語句・かじまや 十字路。もともとは「かざぐるま」の意が転じた。・かじぬむぬゆくとぅ 直訳で「風がものを云うから」、転じて「噂になるから」。ゆくとぅ<ゆん 云う。 +くとぅ ・・なので。・いった おまえの家。「やー」(おまえ)の複数形で「お前たち」の意味もある。・ ば。・・ならば。


如何な思らわん 我家の門に立つな 廻て家の後の久葉の下に
'いかな'うむらわん わやぬじょにたちゅな みぐてぃやぬくしぬ くばぬしちゃに
'ikana 'umurawaN waya nu jo ni tachuna miguti ya nu kushi nu kuba nu shicha ni
どんなに思っていてもうちの家の門に立たないで 廻って家の後ろのクバの下に(待て)
語句・わん 「〔未然形について〕(・・し)ようとも」【琉】。 <わ ば。+ん 強調 も。 



久葉の下やれば淋しさゆあむぬ くちゃばしる開けて入れてたぼれ
くばぬしちゃやりば さびしさゆ'あむぬ くちゃばしる'あきてぃ'いりてぃたぼり
kuba nu shicha yariba sabisisa yu 'amunu kuchabashiru 'akiti 'iriti tabori
クバの下ならさびしいので 寝室の雨戸を開けて入れてください
語句・くちゃ寝屋。 「若夫婦が寝室として使う部屋」【沖】。・ばしる 雨戸。<はしる 雨戸。連濁のため「は→ば」。



くちゃばしる 開けて入りぶしゃやあしがもしか親兄弟に知らばちゃすが
くちゃばしる'あきてぃ'いりぶしゃや'あしが むしか'うやちょでにしらばちゃすが
kuchabashiru 'akiti 'iribusha ya 'ashiga mushika 'uyachode ni shiraba chasuga
寝室の雨戸開けて入れたいけれど もし親兄弟に知られたらどうするの?
語句 ・くちゃばしる 寝室の雨戸。<くちゃ。寝室。裏座敷。+<ばしる<はしる。雨戸。繰り戸。


親やりば何やが兄弟や何やが今咲かぬ花のな何時咲ちゅが
'うややりばぬやが ちょでやぬやが なまさかんはなぬな'いちさちゅが
'uya yariba nu yaga chode ya nu yaga nama sakaN hana nu na 'ichi sachuga
親だから何だ? 兄弟だから何だ? 今咲かない花がいつ咲くというのか?
語句・ぬやが <ぬー 何。+や やん ・・である。下略形の「や」 (ここまででて「何である」)+ga 疑問の終助詞。→何であるか? それがどうした!くらいの意味。返答を期待しているわけではない。・ <なー もう。「もはや」のニュアンス。


あみぬふてぃはりてぃ かゆいたるさとぅや とぅじぶりがしちゃら あてぃんねらん
'あみぬふてぃはりてぃ かゆいたるさとぅや とぅじぶりがしちゃら 'あてぃんねらん
'ami nu huti hariti kayuitaru satu ya tujiburi ga shichara 'atiNneraN
雨が降って晴れても 通ったあの人は 妻惚れをしたのかしら 音沙汰もない
語句・とぅじぶり <とぅじ 妻。+ぶり<ふりゆん 惚れる。・がしちゃら <が 疑問の助詞。 +しゅん する。・あてぃ 「(目〔心〕)当て;心当たり;思慮;音沙汰」【琉】。


姉小達やでかし いな夫も持ちゅい 我んね今童酒ど盛てる
'あんぐゎーたーやでぃかし 'いなうとぅんむちゅい わんねなまわらびさきどぅむてーる
'angwaataa ya dikashi 'ina utuN muchui waNne nama warabi saki du muteeru
姉さんたちはうまくやった 早くに夫を持つか 私は今は子ども 酒も盛っているだけ
語句・でぃかし <でぃかしゅん 「でかす、成功する。」【琉】。・いな 「最早、かくも早く」【琉】。・むてーる盛っている。<むてーゆん 茂る。「たくさんある」くらいの意味。 (「むてぃる」と読むと動詞は「むゆん」(盛る)しかなく、しかし活用が不自然。前の「むちゅい」と掛けて、「むてーゆん」の連体形「むてーる」だろう。)(参考)「琉歌大成」には「むてぃ ある」という歌が載っている。「子どもだから婚約のお酒があるだけ」という訳。(しかし7文字になり不自然)。


諸手打ちまわち 抱き足らぬ腰 抱ち余ち余所の抱かわちゃすが
むるてぃ'うちまわち だちたらんがまく だち'あまちゆすぬ だかわちゃすが
muruti 'uchimawachi dachitaraN gamaku dachi 'amachi yusu nu dakawa chasuga
両手をすっかり回しても抱き足らない(手が回りきらないほど大きな)腰 抱き余して他人の腰を抱いたらどうするか


加那がかながなとう我身かなさすれば 我身もかながなとかなさすしが
かながかながなとぅ わみかなさすりば わみんかながなとぅ かなさすしが
kana ga kanagana tu wami kanasa suriba wamiN kanagana tu kanasa sushiga
愛するあなたが優しく私を愛してくれたら 私も優しく愛しますのに


里が志情の我身にすんくだれ 三回ある帯の二回いなとさ
さとぅがしなさきぬ わみにすんくだれー みまーいあるうびぬ たまいなとさ
satu ga sinasaki nu wami ni suNkudaree mimaai 'aru 'ubi nu tamai natosa
貴方の情けが私には損(くだれー不明)三回まわる帯が二回しかまわらなくなった(太った)


我んね否さしが アンマどやくと 御根引の夜やアンマいもれ
わんね'んぱさしが 'あんまがどぅやくとぅ うにびちぬゆるや'あんま'いもれ
私は拒否したのだけど 母さん(が決めた)のせいだから 初夜は母さんがいらしてね


好かぬ妻起くち物食まなゆいか にじて寝んじゆしど腹の薬
しかんとぅじ'うくち むぬかまなゆいか にじてぃにんじゅしどぅ わたぬくすい
嫌いな妻を起こして何か食べるよりも がまんして寝ることのほうが腹の薬だ



解説
「かいされ」をとりあげるのは四回目になる。
それほど多くの歌詞が出てくるウタである。

遊びウタである。即興でも歌われ、その場その場の雰囲気で作り変えられたりもするから、ほぼ「会話」に近いウタである。
ただしきちんとした琉歌形式(八八八六文字)はまもられているから、ナークニーなどの即興性の曲にも使われることがある。
聞けば、愛情のもつれや、男女の嫉妬、妬み、親子間の意識のずれなどを無造作にならべて会話しているようにも見える。

「かいされー」がどこからきたのか、どうして本島のみを中心にしてうたわれているのか。
など謎は多い。いつか、とりあげてみたいテーマである。


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Posted by たる一 at 09:57│Comments(0)か行さ行沖縄本島
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