2017年07月12日

恋かたれー 2

恋かたれー 2
くいかたれー
kui kataree
恋約束
語句・かたれー (一緒になる)約束 「かたれー」には「①仲間となること。仲間入りを約束すること。②男女の一緒になる約束」【沖縄語辞典(国立国語研究所編)】(以下【沖辞】と略す)の意味がある。「語り合い」というならば、「いかたれー」の方が近い。「琉歌大成」(清水彰)を調べてみたが「恋語れ」という語句は一つもみあたらなかった。ということは比較的新しい造語か。


唄三線 嘉手苅林昌 (CD「唄遊び」1975年)


一、我んねひゃー じょーに 立てぃてぃヨ 寝んだりみ ちくしょー 面影やたたにヨ 夢ん見だに
わんねーひゃー じょーにたてぃてぃ よー にんだりみ ちくしょー うむかじや たたによー いみん んーだに
waNnee hyaa joo ni tatiti yoo niNdarimi chikushoo umukaji ya tatani yoo imiN Nndani
私をあいつは門に立てさせてよくも寝られたもんだ 私の面影は立たないかい?私の夢は見ないかい?
語句・わんねー私は。・ひゃー 「野郎。やつ。人をののしる時いう」【沖辞】。・じょー「門」や「広い道路」「馬場」などの意味がある。門の場合は「鍵」(じょう)から来た語。・にんだりみ 寝られたのか?・ちくしょー 「畜生。また、畜生のような者」【沖辞】。・たたに たたないか。・んーだに 見ないか。



(囃子)
知らすなよや他人に 知らすなよ二人が仲(囃子)
しらすなよやゆすにしらすよなたいがなか
shirasuna yoo ya yusu ni shirasuna yoo tai ga naka
知らせるなよ 他人に 知らせるなよ 二人の仲(を)
(以下、囃子は略す)



二、いかな想らわんヨ 我みぬじょーに立とぅな みぐてぃ家ぬ後ぬヨ 久場ぬ下に
いかな うむらわん よー わみぬ じょーにたとぅな みぐてぃやーぬくしぬよー くばぬそちゃに
ikana umurawaN yoo wami nu joo ni tatuna miguti yaa nu kushi nu yoo kuba nu shicha ni
いかに私を愛してるからと言ってうちの門に立つな 廻って家の後ろの久場の木の下に
語句・いかな「〔文〕いかなる。どのような」【沖辞】。・うむらわん 愛していても。「うむゆん」は「愛する」。「わん」は「~しても」。



三、みぐてぃ 家ぬ後やヨ うとぅるさぬ 無蔵ヨ 庭ばしる開きてぃヨ 入りやならに
みぐてぃ やーぬくしやよー うとぅるさぬ んぞよー にわばしるあきてぃよー いりやならに
miguti yaa nu kushi ya yoo uturusanu Nzo yoo niwabashiru akiti yoo iri ya narani
廻って家の後ろは怖いので 庭の雨戸を開けて入れてもらえないか
うとぅるさぬ 怖いので。<うとぅるさん。怖い。・んぞ 男性から愛しい彼女を呼ぶ時の代名詞。・にわばしる 庭に向かってある表戸の雨戸。「はしる」は「雨戸」。・いりやならに 直訳すれば「入れることは できるか」。



四、むしか親兄弟にヨ 知りる うぬ時や 名護ん 山原んヨ あいるさびる
むしか うやちょーでーに よー しりる うぬとぅちや なぐん やんばるんよー あいるさびる
mushika uya choodee ni yoo shiriru unu tuchi ya naguN yaNbaruN yoo airu sabiru
もしも親兄弟に仲が知られた、そのときは名護も山原もありますよ
語句・むしか もしも。文語調。・あいるさびる ありますよ。「ある」の文語調で強調した表現。<あ<あん。ある。+る<どぅ。強調。+さびる<さびーん。です。「どぅ」の係り結びで連体形になる。



五、山原や行きばヨ あわりどや しぐく みるかたやねらんよ 海とぅ山とぅ
やんばるや いきば よー あわりどぅや しぐく みるかたやねらんよー うみとぅやまとぅ
yaNbaru ya ikiba yoo awari duya shiguku mirukata ya neeraN yoo umi tu yama tu
山原は行くとみじめだぞ とっても 見るところもない 海と山(しかない)
語句・あわり 「①あわれ」「②あわれ。つらいこと。みじめさ。苦労」【沖辞】。・しぐく 「至極。ひどく。非常に。」【沖辞】。



「恋かたれー」は2007年8月年にも訳をしているのだが、嘉手苅林昌先生の「恋かたれー」にはいろいろな歌詞が乗るので気になって、これを取り上げた。(以前の「恋かたれー」はこちら

この曲は「知らすなよーやー他所に知らすなよー二人が仲」という囃子が必ず入り、男女の親兄弟にも隠した逢瀬をめぐるやりとりが歌詞になることが多い。

上にも書いたが「かたれー」は「語らい」と狭く理解される方が多いようだが、「語る」ならば「いかたれー」を使い、「かたれー」ならば男女の約束や仲間になることという意味の受け取る方が自然である。

林昌先生が歌われるこの歌詞では若干ユーモラスなやりとりにも聞こえる。
琉球王朝時代から平民の男女交際のあり方は男性による通い婚であったが、未婚の頃なら約束を決めて男性が女性の家や女性たちが夜なべをして働く場所に迎えに行くという形がとられた。モーアシビは公然たる男女交際の場所でもあった。大正期頃からモーアシビは厳重に取り締まられ、通い婚も減少したので、この歌はそれ以前の男女交際の様子を反映したものだと言えよう。

なかなか彼女の家の前で待っていても出てこない彼女に不満をもらす。
どんなに愛してるって言っても家の前に立たないで裏に回ってと注文つける彼女。
裏は怖いから表の雨戸を開けて中に入れてくれ、と要求するも、親兄弟が知ったらどうするか、と言いかけて名護や山原に逃げる手もあるわね、と肝っ玉がすわっているのは女性のほうか。すると山原に逃げてもみじめだよ、と男性が。

最後の5番はそれ自体琉歌集にも載るほどの有名な琉歌である。

山原が「海と山」しかないというのは「自然や人情の豊かな山原」という現在の私たちの印象とは食い違うのだが、当時はそういう印象だったのだろう。


「嘉手苅林昌 唄遊び」に収録されている。



【このブログが本になりました!】
恋かたれー  2

書籍【たるーの島唄まじめな研究】のご購入はこちら



同じカテゴリー(か行)の記事
コロナ節
コロナ節(2020-11-27 13:57)

茅打ちバンタ
茅打ちバンタ(2020-03-14 11:00)

下り口説
下り口説(2017-08-22 07:25)

かいされー (3)
かいされー (3)(2014-04-08 16:44)

くいちゃー踊り
くいちゃー踊り(2014-03-16 10:51)


Posted by たる一 at 16:19│Comments(0)か行沖縄本島
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。