2005年12月28日

嘉手久節

嘉手久節
かでぃくーぶし
kadikuu bushi
語句・かでぃく 奄美大島の嘉徳(かとく)から来ていると言われる。古典曲の「本嘉手久節」や「昔嘉手久節」が「大島町嘉徳村から出た歌である」(小濱光次郎氏)と言われているからである。しかし明確な根拠はない。


一 嘉手久(ヨウ)思なびが(ヨウ)
かでぃくー(よー)'うみなびーが(よー)
嘉手久の愛する鍋が
語句・うみ 愛する。<うむゆん。愛する。・なびー 意味は鍋。女性の名前。

ハーイヤーテントゥルルン テンシトゥリトゥテン ちゃがもーやー もーいぬちゅらさや テントゥルルン テンシトゥリトゥテン 
haa'iyaa teNtururuN teNshiturituteN chaaga mooya mooi nu churasaya teNshiturituteN
◯(囃し言葉と三線の擬音)どうだい 踊りの美しいことよ!
※囃し言葉 以下省略)


あやふじょの煙草
'あやふじょーぬたばく
'ayahujoo nu tabaku
縞模様の煙草入れの煙草を
語句・あや「縞。着物などの縞をいう」沖縄語辞典(国立国語研究所編)】(以下【沖辞】と略す)。また、美しいものにも使う。(例)あやはべる。美しい蝶。・ふじょー 「[宝蔵]女持ちのたばこ入れ。宝珠のような形に縫った袋物である」【沖辞】。


つぃけてうさぎらば
ちきてぃうさぎらば
chikiti 'usagiraba
火を付けて差し上げますので
語句・うさぎらば <うさぎゆん。「さし上げる」【沖辞】。


ふちゃいたぼれ
ふちゃいたぼり
huchaitabori
吹かしてください
語句・ふちゃい <ふゅん。タバコなどを「吹く」。・たぼり〜してください。



二、七葉ある煙草
ななふぁ'あるたばく
nanahwa'aru tabaku
七枚葉の煙草は
語句・ななふぁ「1本の茎に七枚の葉のある大変よくできたもので、しかも風味のよい煙草」(「琉歌大観」島袋盛敏著)


頭髪にきざて
かしらぎにちじゃてぃ
kashiragii ni chijadi
髪の毛のように刻んで
語句・かしらぎー 「頭髪。髪の毛」【沖辞】。・ちじゃてぃ< ちじゃぬん。刻む。


里と畑どない
さとぅとぅはるどぅない
satutu harudunai
貴方と畑は隣同士


行逢わでもの
'いちゃわでむぬ
'ichawa demunu
出会うのだから
語句・いちゃわ <いちゃゆん。いちゃいん。出逢う。・でむぬ 文語で「であるから」「なので」【沖辞】。



(コメント)

現在では「唐船ドーイ」と並ぶ、カチャーシーの代表曲。
カチャーシーは「かちゃーすんkachaasuN かき混ぜる」からできた語。

いわゆる本土にも阿波踊りなどに「ぞめき」(騒ぐ)という踊り方をあらわす言葉があり、仲宗根幸市氏にいわせると、本土、奄美、沖縄と太平洋の黒潮文化がこの「ぞめき」でつながっているという(仲宗根幸市著「カチャーシーどーい」ボーダーインク)。

さて、この「嘉手久」も、そのつながりを示唆するように、題名そのものが奄美の地名だというし、煙草がテーマであるから
八八八六の琉歌形式の各八や六ごとにハヤシが入り、琉歌としては2番までしかないのに。歌は4×2の8番までとなる。

訳を整理して並べてみる。

嘉手久節

嘉手久の愛するナベちゃんの縞模様の煙草入れの煙草を火を付けて差し上げますので吹かしてください

七枚葉の煙草は髪の毛のように刻んで 貴方と畑は隣同士 出会うのだから

主人公はこの愛する鍋(うみなびー)だろうか。女性用の煙草入れにいれた刻み煙草をキセルにつめて火をつけて彼氏に渡して「吹かしてね」それを細かく刻んで。
あなたとは畑は隣同士みたいね。こんなに会うのだから。

「琉歌大観」(島袋盛敏著)によると、「嘉手久節を始め発生地は大島東間切東嘉徳村である」(P121)とある。

また「いちゃわでむぬ」の解釈は
「会いたいものだ」(P16)

という点も参考にしたい。

カチャーシーの曲は、その歌詞の意味などは実はそれほど重要ではない。

もちろん言葉の持つリズム感やユーモラスな雰囲気、また妖しさもあり、皮肉もあるから、言葉の意味がまったく無意味ではない。

むしろ、その歌者がどの歌詞をもってくるか、それは十分個性を主張する。

この「嘉手久」の場合、歌詞はほとんどこの歌詞で歌われる。

もちろんん別の琉歌を入れる場合もあるが少ない。

逆に唐船ドーイで「嘉手久」の歌詞が歌われる場合もある(知名定男さんと登川誠仁さんの最近のCD)。




同じカテゴリー(か行)の記事
コロナ節
コロナ節(2020-11-27 13:57)

茅打ちバンタ
茅打ちバンタ(2020-03-14 11:00)

下り口説
下り口説(2017-08-22 07:25)

恋かたれー  2
恋かたれー 2(2017-07-12 16:19)

かいされー (3)
かいされー (3)(2014-04-08 16:44)


Posted by たる一 at 10:43│Comments(6)か行沖縄本島
この記事へのコメント
初めてコメントします☆

大分で唄三線してる えはしょ と言います。よろしくお願いしますm(__)m



嘉手久が奄美の地名と書いてあるこの解説を見てずっと気になって、地図を探したんですが嘉手久は見つからずじまい…

今日ふと思ったんですが、嘉手久って奄美大島にある嘉徳(カドク:元ちとせさんの故郷)じゃないですかね??
シマウタで“嘉徳なべ加那”っち言う唄があって、歌詞は

嘉徳なべ加那や
如何ゃしゃる生まれしちが
親に水汲まち
居ちゅてぃ浴むぃろや

なべは気高いノロで美人だったという説が現在支持が高いらしく、嘉徳にはなべ加那のお墓もあるそうです。


嘉徳のなべ
嘉手久のナビー


まぁ僕のかってな推測ですけど(笑)
Posted by えはしょ at 2008年03月29日 08:26
えはしょさん
コメントありがとうございます。
故郷宮崎の隣、大分と聞いて嬉しいです。
さて嘉手久ですが
その名前では地名見つからないようですね。
おっしゃられるように
それに似た土地名があるのかもしれません。

嘉徳なべ加那、との関係も十分疑うに価値があるかもしれませんね。
ご紹介の歌詞も琉歌とのつながりを感じます。
推測や想像をどんどん膨らまして歌と歌の関係に想いをはせるのも
歌にかかわるものの楽しみのひとつなのでしょうね。
Posted by たるー at 2008年03月30日 08:25
ロスで歌三線しています。
嘉手久の歌詞
本当に貴重な情報
ありがとうございました。
Posted by RJ at 2010年10月19日 17:05
RJさん

ロスからいらっしゃいませ。
お役に立てて嬉しいです。

今後ともよろしくおねがいします。
Posted by たるー at 2010年10月20日 21:48
カーデクー、嘉徳、なべさん、ほとんど大島の歌が元歌と思います。
古典では、くにやー(大島の古仁屋)節、赤木名節、諸屯など、沖縄県内に限らず、奄美大島を北限として、各シマの歌が、沖縄風のシンプルな弾弦法に変化して全体が出来上がってますよね。
薩摩侵攻しばらく後にまとめられた古典曲集は、古琉球時代の歌も多く含められていたからかと推測します。

あと先生の島唄という漢字ですが、沖縄本島の歌も集落のシマなら、シマ唄になりませんか?
また、ほとんど沖永良部までで、シマ唄を括って、徳之島以北を切捨てますと、片方の肺だけで全部を語ることになるのは、別に沖縄県の委託事業ではあるまいので、県境や沖縄施法にこだわるくくりはどうしてかなあ、宮沢さんや、国立劇場などでの、奄美大島まで含めたシマ唄のくくりと、先生の違いがどうしてなのか不思議ですので、よければ私も大それたことを言ってますので、お時間のある時に教えてください。
また個人情報でもありますので、詳しくは自己紹介できませんが、祖父母が徳之島で、自身は琉球古典中心の那覇在住の者です。
Posted by リュウ at 2024年01月21日 16:11
リュウさん、コメントをありがとうございます。 奄美が琉球の支配下になった15世紀頃からの奄美のウタが琉球にも影響をあたえたのでしょうね。 シマウタ、しまうた、島うた、島ウタ、島唄。。いろいろありますが、漢字がすべて当て字で、「しまうた」「シマウタ」がもっとも意味を表しているとは思います。 昔は琉歌も神歌も遊びウタも、「うた」でしたし。 本来奄美の「村のウタ」という意味の「しまうた」からきている表現ですが、現代ではだんだんその意味も変化し、それとは区別する意味で、流行歌などもふくめて沖縄のウタを表現する言葉として「島うた」「島唄」という漢字をつかっています。 仲宗根幸市さんなどが「島うた紀行」で、北は奄美から南は与那国まで 広くウタを収集され解説されています。宮沢さんや多くの研究者もそういう視点でまとめられています。 しかし、私の手法でウタの語句まで分解して意味を理解するためには私が奄美語についてもっと深い理解ができたら可能だったかもしれませんが、現実にはそういう括りができていないということです。 八重山も宮古も本島ー首里語からはかけ離れてはいますが、琉球王朝時代の交易も多く言語の共通性はまだ私にも理解できますが、奄美のウタにつかれている語句(だけでなく音階、三線の奏法、発声なども)がかなり薩摩ー本土の影響もあったり、独自の発達をしているように見えます。 厚かましいのですが、奄美のしまうたを含めて、リュウさんのご研究で、私の浅学を補ってくださるとうれしいと思うばかりです。
Posted by たる一たる一 at 2024年01月22日 18:04
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。