2014年02月22日

黒島節

黒島節
くるすぃま ぶすぃ
kurushïma bushï
黒島の歌
語句・くるすぃま 沖縄県八重山郡竹富町。形がハート形なのでハートアイランドとも呼ばれる。昔は「フスィマ」「サフスィマ」(つぃんだら節)と呼ばれた。
現在は畜産が盛んだが、昔は造船も行われていた。Wikipediaによると「蔡温の時代、八重山で強制移民が行われたが、この島もその対象となり、たびたび西表島や裏石垣(石垣島北部地方)への移民が行われた。この島の民謡として有名なチンダラ節は1732年に黒島の宮里部落から裏石垣の野底に強制移民が行われた際、連れて行かれた恋人の男を思って女が歌ったものと伝えられる。」。「すぃ」や「shï」の発音は中舌母音という八重山地方などに特有の発音で、詳しくは「鷲の鳥」の解説を参照の事。

歌詞参照「八重山古典民謡工工四 下巻 大濱安伴著」


一、我が島ぬ上なか 此ぬ島ぬ上なか ウヤキ ユバナウレ スリ ユバナウレ サースリ ユバナウレ
ばがーすぃまぬ ういなか くぬすぃまぬ ういなか うやき ゆばなうれ すり ゆばなうれ さーすり ゆばなうれ
bagaa shïma nu 'naka kunu shïma nu 'ui naka uyaki yubanaure suri yubanaure saa suri yubanaure
(囃子は以下略)
我々の黒島の上に この村の上に
語句・ばが 「我々の。私たちの」(「石垣方言辞典 宮城信勇著」 以下【石辞】と略す。)・すぃま 【石辞】 には①島②村、国、③郷里とある。本島方言の「しま」と同様、いわゆるアイランドという意味の島というより、故郷、村の方が多く使われる。・ういなか うえに。上に。「うい」は本島方言の「'wii」(うぃー)に対応。


二、弥勒世ば給られ 神ぬ世ば給られ
みるくゆーば たぼられ かんぬゆーばたぼられ
mirukuyuu ba taborare kaN nu yuu ba taborare
五穀豊穣の時代をくだされ 神の世をくだされて
語句・みるくゆー 「弥勒菩薩の世。豊穣平和の世。理想的な世とされている。」【石辞】。・ を。【石辞】にはないが、古語の「をば」の「ば」に対応していると思われる。参考「格助詞「を」+係助詞「は」からなる「をは」が濁音化した形。」Weblio古語辞典。・たぼられ くだされて。賜り。<たぼーるん 賜る。くださる。の受け身。連用形。


三、今年世ばなをらし 来夏世ばみきらし
くとぅすぃゆーばなをらし くなつぃゆーばみきらし
kutushï yuu ba naorashi kunatsï yuu ba mikirashi
今年は実り豊かで 来年の夏を実り多くならせて
語句・なおらし 実らせ。【石辞】のはない。不明であるが、「のーるん」「稔(みの)る」【石辞】の使役化「のーらせ」と関連するのだろうか。・みきらし これも【石辞】になく不明であるが、「みぅーなるん」(実を結ぶ。実現する。「実になる」の意)【石辞】と関連あるのだろうか。


四、願うだむてぃ給られ 手ずるむてぃ給られ
にごーだむてぃたぼられ てぃーずるむてぃたぼられ
nigooda muti taborare tiizuru(tiizïrï)muti taborare
願ったほどに頂戴し 手を合わせ祈ったほどに下さり
語句・むてぃ 「①〜するからには。」「②〜に応じて。見合うように」【石辞】。ここでは②。・てぃーずる 手を合わせて。【石辞】には「tiizïrï」(てぃーずぃるぃ)とあり、中舌母音のある発音になっている。


五、今年世や 勝らし 来年ぬ世や ゆくだら
くとぅすぃゆーや まさらし えんぬゆーや ゆくだら
kutushï yuu ya masarashi 'eN nu yuu ya yukudara
今年の世は去年より優って豊作で 来年の世はもっと良くなるだろう
語句・えん 来年。本島方言では「やーん」。・ゆく さらに。一層。【石辞】には「ゆくん」は悪い時に使う、とあるが、本島方言にはその区別はない。おそらく、その「ゆくん」との関係があるのではないか。・だら <だらー。「推量、意志などを表す」「①〜だろう」「②〜しよう」【石辞】。本島方言の動詞の語尾「ら」に対応。

八重山古典音楽安室流保存会の工工四では

一、我が島ぬ上なか 此ぬ島ぬ上なか スリ ユバナウレ サースリ ユバナウレ
二、今年世ばなをらし 来夏世ばみきらし
三、昔ゆば給られ 神ぬ世ば給られ
四、願うだむてぃ給られ 手ずるむてぃ給られ

と、若干の違いがある。


(コメント)
黒島で生まれた祝儀歌。
正月の綱引き行事の時に歌われていた「正月ゆんた」を作り直して今は「黒島節」と呼ばれているという。

喜舎場永珣著の「八重山島民謡誌」には、全く別の歌詞が載っている。
それについては次回。

また、琉球舞踊の「松竹梅」(揚作田節、東里節、赤田花風節、黒島節、下原節、浮島節)のなかにある黒島節の歌詞も全く異なっている。
それについてもまた触れたい。


(2014年2月10日 黒島にて。筆者撮影)


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Posted by たる一 at 18:30│Comments(1)か行八重山民謡
この記事へのコメント
こんにちは。
3番の歌詞「なをらし・みぎらし」を「良い世にしてください・願いがかないますように」とおそわりました。しかし、ぼくも違和感がぬぐえません。
なぜなら夜雨節の2番の歌詞「稲粟んなおらし。麦豆んみぎらし」を、「稲粟をみのらせてください、麦豆のできも良いようおねがいします」と解釈するからです。
すると黒島節の3番もたるーさんが考えるように、作物の実りを願っているように思います。
まあ、広く言えば一番の希望の豊作という「願いをかなえてください」なのかもしれませんけど。むつかしいですね。
Posted by コロリ at 2022年04月07日 16:15
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