2006年03月25日

ひんすー尾類小(かまやしな節)

ひんすー尾類小
ふぃんすーじゅりぐゎー
hwiNsuu jurigwaa
貧乏女郎
語句・ふぃんすー 貧乏。「ひんすー」ともいう。・じゅりぐゎー 女郎。別名に「かまやしな節」とも呼ばれる。

歌三線 嘉手苅林昌


一、北谷屋良村りんどあさぎ(りんどあさぎ)ひーたーちゃーがたい立ちょん(さよ)ウサ小カマ小くくりりよかまやしな
(繰り返しは以下省略)
ちゃたんやらむらりんど'あしゃぎ ふぃーたーちゃーがたいたっちょん(さよ)'うさぐゎーかまぐゎー くくりりよーかまやしな
chataN yaramura riNdo 'ashagi hwiitaa chiyaa ga tai tacchooN(sayoo)'usagwaa kamagwaa kukuririyoo kamayashina
北谷、屋良村、伝道の離れ座敷に羽織を着たものが二人たっている ウサちゃん カマちゃん気をつけなさい かまやしな(不明)
語句・あさぎ<あしゃぎ。「農村の比較的裕福な家の前庭にある離れ屋。」【沖辞】。・ひーたー <ふぃーたー。「羽織に似た、冬用の着物の名。そでは長く、すそは短い。」【沖辞】。羽織としておく。・ちやー<ちゆん 着る。 + やー。着た者。・くくりり<くくりゆん。気をつける。→気をつけよ。・かまやしな 不明。元歌と思われる「かまやしな節」も一番の最後が「かまやしな」になっている点が共通。ともに「かま」という女郎が登場する。「やしな」は「やしなゆん」(養う)から「やしなおう」「やしないたい」くらいの意味かもしれない。



二、ヒンスー尾類小呼び慣れて抱き慣れて 銭持ち女しじ高さぬ サーヨ銭持ち女しじ高さ お呼ばらん
ふぃんすーじゅりぐゎー ゆびなりてぃー だちなりてぃ じんむちうぃなごーしじだかさぬ さーよじんむちうぃなぐ しじだかさ 'うゆばらん
hwiNsuujurigwaa yubinariti dachinariti jiNmuchi winagoo sijidakasanu 'uyubaraN
貧乏女郎は呼び慣れて抱き慣れて 金持ち女は気位が高いので手が出ない
語句・しじだかさぬ<しじだかさん 「神々しい。神の霊力が高い。聖地などについていう。人についてはsiidakasaN」【沖辞】。ここでは「気位が高いので」くらいの意味だろう。(形容詞)の最後が「ぬ」ならば「・・なので」。・うゆばらん 及ばない。手が出ない、ことの隠喩。



三、馬車持ちやっちーたーに呼ばりりね イエ尾類小 砂糖小のくまきーちぢかすせ 呼ばりりや
ばしゃむち やっちたーにゆばりりねー 'えーじゅりぐわーさーたーぐゎーぬくまきーちじかすせーゆばりれーや
bashamuchi yacchitaa ni yubariinee 'ee jurigwaa saataagwaa nu kumakii chijikasusee yubariree ya
馬車持ち兄さん達に呼ばれたときには おい女郎ちゃん 砂糖のかけら[ちじかす]のだよ よばれたらね
語句・ゆばりりねー 呼ばれたときには <ゆばりゆん(呼ばれる、客に買われる)+ねー(ときには)・くまきー 砕けたかけら。・ちじかすせー 不明。「もらえる」くらいの意味か?「せー」は「・・のだよ」 si + ja > see



四、泡瀬の二才達に呼ばりりよイエ尾類小塩のなんちちちじかすせ呼ばりりよ
'あーしぬにせーたーにゆばりりよー'えーじゅりぐわー まーすぬなんちちちじかすせー よばりりよー
'aashi nu niseetaa ni yubariri yoo 'ee jurigwaa maasu nu naNchichi chijikasusee yubaririyoo
泡瀬の青年たちに呼ばれろよ おい女郎ちゃん 塩のおこげを[もらえる]のだよ 呼ばれなさいね 
語句・なんちち おこげ。海水を炊いて水分を蒸発させて塩を作るときにできるものだろう。



五、糸満アッピ達に呼ばりりね イエ尾類小 鰹の腹ごう切らりんどグルクン小の頭切らりんど呼ばりれよ
'いちまん'あっぴたーにゆばりりねー'えーじゅりぐわー かちゅーぬはらごーちらりんどーぐるくんぐぁーぬちぶるちらりんどーゆばりれーよー
'ichimaN 'appitaa ni yubaririnee 'ee jurigwaa kachuu nu haragoo chirariNdoo gurukuNgwaa nu chiburu chirariNdoo yubariree yoo
糸満の兄さんたちに呼ばれたときは おい 女郎 カツオのはらごを切ってもらえるぞ グルクンの頭を切ってもらえるぞ 呼ばれなさいね
語句・かちゅー かつお。・はらごー かつお節を作る時に内臓を出すために切り取られる三角形の部分。腹皮(はらかわ)とか腹身(はらみ)とも呼ばれるらしい。僅かにしかとれないことと、非常に美味しいらしい。



六、くぬよな童ん持たちゃんな立てたんな持ちぶさすたくと持たちゃんて 立ちぶさすたくと立てたんど ナビアンマ
くぬよなわらびんむたちゃんなーたてぃたんなーむちぶさすたくとぅむたちゃんて たちぶさすたくとぅたちたんどーやーなびー'あんまー
kunuyoona warabiN mutachaNnaa tatitaNnaa muchibusasutakutu mutachaNtee tachibusasutakutu tatitaNdoo yaa nabii 'aNmaa
このような子どもも(客を)持たせたのだな (客待ちに)立たせたのだな 持ちたと言ったから持たせたって 立ちたいといったから 立ったのだよね ナビー母さん
くぬよーな このような。・むたちゃんなー 持たせたのだな。<むちゅん(動)持つ の終止形 +なー な? 意訳は「客を持たせたのだな?、お客を待つために立たせたのだな?」となるだろう。・持ちぶさすたくとぅ 持ちたいと言ったから。・たちぶさすたくとぅ 立ちたいと言ったから。持ちぶさ・立ちぶさ<持ちぶしゃん 持ちたい・立ちぶしゃん 立ちたい。すたくとぅ すた(すんの過去形)+くとぅ(ので)



七、ウマニー達やスクチな者大事な者 イットゥガヨーにも夫持たちスクチなウマニ
'うまにーたーやすくちなむんでーじなむん 'いっとがよーにんうぅとぅむたちすくちな'うまにー
'umaniitaa ya sukuchina muN deejinamuN 'ittugayoo niN wutumutachi sukuchina 'umanii
奥さん達は粗忽な者大変な者 おはじき(する子ども)にも夫持たせ 粗忽なもの
語句・うまにー 奥さん。・すくちな 「U+2460粗忽。 そそっかしいこと。U+2461こっけいなこと。ひょうきんなこと」【沖辞】。「粗忽」とは「軽薄なこと」「軽はずみなこと」。・でーじ 大変。大きな事態。・いっとぅがよー「おはじき。女児の遊戯の名」【沖辞】。ここでは、おはじきを使うような小さい子どもの意味。



八、隣のウスメーゆくスクチャ孫しかさん嫁しかち スクチナウスメー
とないぬ'うすめー ゆくすくちゃー 'んまがーしかさん ゆみしかち すくちな'うすめー
tunai nu 'usumee yuku sukuchaa 'Nmagaa sikasaN yumi sikachi sukuchina 'usumee
隣のおじいさんは誘惑する人 孫をあやさないで嫁をあやし とんでもないおじいさん
語句・うすめー おじいさん。 ・ゆくすく <ゆくしゅん 横取りする。誘惑する。 ・んまがー 孫。・しかさん あやさず。 <しかすん(あやす)の否定形。
 


九、城間ナーカのご主人のせる事や 世々万代まで沙汰残し 沙汰残てたぬまさや
ぐしくまなーかぬぐしゅじんぬせるくとぅや ゆーまんでーまでぃさたぬくち さたぬくてー たぬまさや
gushikuma naaka nu gushujiN nu serukutu ya yuumaNdee madi satanukuchi satanukutee tanumasaya
城間のナーカのご主人のしたことは 代々万代まで噂を残して 残して頼もしいことだね
語句・さたぬくち 噂を残して。



十、寒さそーしに着物くして やーさそーしに物呉ゆんで やーさそーしねー物呉ゆる さた残ち
ふぃーさそーしに ちんくしてぃ やーさそーしに むぬくぃゆんでぃ やーさそーしねーむぬくぃゆる さたぬくち
hwiisasoshini chiNkushiti yaasa sooshini munu kwiyuNdi yaasa soosinee munukwiyuru satanukuchi
寒くしている人に着物を着せて ひもじい人に食べ物をあげると ひもじいときは食べ物をあげるといううわさを残して
語句・ふぃーさそーしに 寒くしている人に。 ふぃーさ(寒い)+そー(している)+し(人)に。 ・やーさそーしに ひもじい人に。やーさ(ひもじい)+そー(している)+し(人)に。



十一、南風原外間の嫁カマド かかんの緒にも銭くんち 足とのかじぐと ジンジンし 沙汰残し
ふぇーばるふかまぬゆみかまどぅかかんぬ'おーにんじんくんち'あしとぅぬかじぐとぅじんじんしさたぬくち
hweebaru hukama nu yumi kamadu kakaNnu 'ooniN jiNkuNchi 'ashitunukajigutu jiNjiNsi satanukuchi
南風原外間の嫁カマドは 下裳の緒にも節約し 足音が風をきるようにジンジン(銭、銭)と音がする噂を残し
語句・かかん 下裳 女が腰から下につける着物(cf.取納奉行節)。・じんくんち 銭我慢。つまり節約。・あしとぅぬかじぐとぅ 足音が風をきるように。
直訳は「足音が風のように」「銭(じん)銭(じん)し」




沖縄の封建時代、琉球王朝時代に那覇に栄えた遊郭。那覇には辻、渡地、仲島の遊郭があった。辻が高級で、中島は首里那覇相手、渡地は田舎相手。

地方の貧困な家から少女が身売りされるシステムもあった。それを統括する母代わりのジュリアンマー(女郎母)。当然女郎を人身売買するシステムもあった。女郎は三線も弾き芸者もかねた。その中から優秀な唄者が出たり、歌の発展も寄与した面も否定できない。しかし、華々しい琉球王朝をささえた庶民の暮らしを映し出す鏡でもあり、そこには貧困にあえぐ人々の涙や思いが渦巻いていただろう。

恩納ナビーと並んで称される吉屋チルーという琉球時代の女流詩人は読谷に生まれ8歳のとき那覇仲島へ遊女として身売りされた。このように大半が地方の貧困層、つまり士族以外の平民の娘が身売りさせられた。女郎は琉球では「ジュリ」と呼ばれた。遊郭は自治制度があり女性だけで管理され、ジュリアンマー(女郎の抱え親)と呼ばれる人々が母子関係を結び、歌や三線、舞踊などの芸事を教えていった。

遊郭は各地にあったが、尚真王の時代、羽地朝秀(1617ー1675年)が1672年、辻、仲島に遊郭を公設した。背景には薩摩藩からの指示があったと推測されるが、遊郭の管理を王府として行う事で風紀の乱れを防止しようとした。そして琉球王朝が廃藩置県で沖縄県となり、太平洋戦争で米軍によって空襲を受けるまで辻、仲島の遊郭は存在し続けたのである。

沖縄語辞典(国立国語研究所編)には「辻」の項でこうある。

「[辻]那覇にあった遊郭の名。本土人・中国人・首里・那覇の上流人を相手とした高級な遊郭であった。那覇にはciizi,nakasima[中島],wataNzi[渡地]の三つの遊郭があり、ciiziが高級で、nakasimaは首里・中島相手、wataNziはいなか相手と、それぞれ、客の層が違っていた」

本土人とは主に薩摩藩の役人で、中国人とは冊封使のことである。それ以外、商人なども含まれる。遊郭で展開された琉球芸能は表に出ることがほとんどなく記録も非常に少ない。それでも琉球古典音楽や舞踊、さらには地方の祭祀や芸能も含め、琉球芸能の重要な部分を構成していたと言われている。琉球王朝の文化である古典音楽も含め遊郭の中で展開された芸能との関わりは無視できない。


▲「琉球交易港図屏風」(浦添市美術館蔵)に、18世紀頃の辻の遊郭とジュリの姿が描かれている。
鳥居の左横の村が辻村で、その周囲の派手な着物をまとった人々がジュリだ。この図屏風にはあちこちに薩摩藩の船や武士が描かれている。当時の関係の深さをうかがい知ることができる。
この絵図の解説はここに詳しい。

この唄には、それでもユーモアを込め、また淡々とその状況を映し出している。どう受け止めるか、それは私達一人一人。

唄は現実を映す鏡でもある。


同じカテゴリー(か行)の記事
コロナ節
コロナ節(2020-11-27 13:57)

茅打ちバンタ
茅打ちバンタ(2020-03-14 11:00)

下り口説
下り口説(2017-08-22 07:25)

恋かたれー  2
恋かたれー 2(2017-07-12 16:19)

かいされー (3)
かいされー (3)(2014-04-08 16:44)


Posted by たる一 at 12:21│Comments(6)か行は行沖縄本島
この記事へのコメント
11番
南風原外間の嫁カマド かかんの緒にも銭くんち 足とのかじぐと ジンジンし 沙汰残し

「ジンジンし」というのは誤字?と思って別の歌詞にあった「銭(ジン)残ち」を採用しましたが、知名さんのCDを車で聞いていて「ハッ」としました。
知名さんも「ジンジンし~」と歌うのですが、、、

カマドさん、歩くたびに「銭 銭」(じん じん)と音がして。 という意味があるのに気がつきました。
そのほうが歌としては面白いですね。
 
Posted by せきひろし(たるー) at 2006年03月27日 06:19
すこし加筆し修正しました。
Posted by たる一たる一 at 2010年10月06日 18:07
たるーさん、はじめまして。

この曲は、タイトルの意味を知って、ビックリした曲です・・・

私は女性だけど(女性だから?)この歌はとても好きです。
大事に歌って行きたいと思っています。

ところで、「ちぢかすせ」の部分は、手元の歌詞では「続かすせ(発音は、ちぢかすせ)」となっていました。
私の手元にある歌詞が正式な歌詞かどうかの確認も取っていないのですが、「無くならないようにしなさいよ」という意味でしょうか?

う~ん、あんまり学問的でなくてゴメンナサイ!
Posted by いじゅん at 2015年02月04日 01:25
いじゅんさん、コメントありがとうございます。

ちじかすー続かせる。

確かに素直にとると、そうですね。

検討してみます。
Posted by たる一たる一 at 2015年02月04日 08:57
たるーさん
毎度、歌詞の意味など
解りやすく記載して下さり
ありがとうございます(*^_^*)

あまり自信がないので、
1説として聞いてほしいのですが

1番の最後「かまやしな」は
催し物の、通称だと聞いたことがあります。

各地であった、お祭りやお芝居には
それぞれ通称がついており
それが劇だったのか、芝居なのか、解りませんが
おそらく北谷で行われていた
催し物「かまやしなー」ではないかと聞きました。


北谷のベテラン民謡歌者に詳しい方がいます
問い合わせると 詳しい事が聞けるかもしれません。
Posted by チビちゃん at 2015年06月20日 09:40
「かまやしなー」てすが、私的には、「構うなよ」という意味に聞こえます(これだと前後で、意味が通じます)

実家の近所の家のアダ名が「カマーヤーキ(構い屋の家=おせっかい)」という意味だったので、「かまーやしなー」=「(危ないから)構うんじゃないよ」と思っております。
Posted by 名無し at 2016年04月29日 19:48
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。