2014年04月08日

かいされー (3)

かいされー
語句・かいされー 八重山口の「かいしゃ」(美しい)から来ていて、「美しければ」(kaisha +ri+ba)という歌詞から来ている、という説がある。沖縄語辞典、琉歌大成にはない。


歌三線 嘉手苅林昌


一、風や北吹ちゃ小 歌小流ちゃしが 風ぬ持ち流し 無蔵が聴ちゅみ
かじやにしぶちゃーぐゎー うたぐゎーながちゃしが かじぬむちながち んぞがちちゅみ
kaji ya nishibuchagwaa 'utagwaa nagachashiga kaji nu muchi nagachi Nzo ga chichumi
風は北風 それに歌を流したが 風が持って流して 彼女は聴くまい


二、歌声聞ち分ち 出ぢてぃ来らやしが 今でぃ来んむぬやちゃーさがやー 来んどあがや
うたぐぃー ちちわかち んじてぃ ちゅらやしが なまでぃくんむぬや ちゃーさがやー くんどぅあがやー
'utagwii chichiwakachi 'Njiti churayashiga namadi kuN munu ya chaa sa ga yaa kuN du 'aga yaa
歌声を聞き分けて出てくるだろうけれど 今になっても来ないからどうしようか 来ないってあるかね
語句・んじてぃ 出て <んじゆん。出る。・なまでぃ 今まで。・むぬ から。・ちゃーさがやー どうするかねえ。<ちゃー どう。+ さ する。+ が 疑問の助詞。+やー ねえ。


三、花やてぃん里前 枝かじね咲かんで 情きある枝に頼てぃ咲ゅさ
はなやてぃんさとぅめ ゆだかじねーさかんでー なさきあるゆだにたゆてぃさちゅさ
hana yatiN satume yuda kaji nee sakaN dee nasaki 'aru yuda ni tayuti sachusa
花だって、あなた 枝毎(全部)には咲かないよ 情けのある枝に頼って咲くよ
語句・ゆだ 枝。「ゐだ」ida とも言う。・かじ 「ごと。たび。ごとに。たびに。」例として「っちゅかじ」(人ごとに)「ちねーかじ」(家、家庭ごとに)【沖縄語辞典】。・ねー には。<に+や 融合して。否定形に。


四、別りてぃや行ちゅい 何志情きさびが 唄に声かきてぃ 情きさびら
わかりてぃやいちゅい ぬーしなさきさびーが うたにくいかきてぃ なさきさびら
wakariti ya 'ichui nuu shinasaki sabiiga 'uta ni kui kakiti nasaki sabira
別れて行くのに 何を別れの情けにしましょうか 唄に思いを込めて情けにしましょう
語句・さびーが しますか?<さ する。+あびー <あびゆん します。敬語。+が 疑問の助詞。・くいかきてぃ 直訳では「声を掛けて」だが、歌の世界では「想いを込める」ということに使われることが多い。


五、里が張てぃ呉てるムンジュルぬ笠小 かんでぃわん涼さ 縁がやたら
さとぅがはてぃくぃてる むんじゅるぬかさぐゎ かんでぃわんしださ ゐんがやたら
satu ga hatikwiteeru muNjuru nu kasagwaa kaNdiwaN shidasa yiN ga yatara
貴方が作ってくれたムンジュル(麦わら)笠 こんなにも涼しい!二人は縁があるのかしら
語句・はてぃ 「傘を作る」【沖辞】。・むんじゅる <むんじゅるー 麦わらで編んだ笠。「むんじゅる」・かんでぃわん こんなにも。<かん こう。かく。+でぃ<んでぃ の省略。と。+わん わも。強調。


六、雨やちょん降りば 雨になじきゆい さやか照る月に 何なじきゆが
あみやちょんふりば あみになじきゆい さやかてょるちちに ぬーなじきゆが
'ami ya chooN huriba 'ami ni najikiyui sayaka tiru chichi ni nuu najikiyuga
雨さえも降れば雨に口実をつけるのに あかあかと照る月になんの口実をつけようか
語句・ちょん <ちょーん 「すら。さえ。」【沖辞】。・なじき 口実。何の口実かは、この歌詞ではわからない。・さやか あかあかと。


この曲に決まった歌詞はない。

歌われる嘉手苅林昌さんも、歌う度に歌詞が変わっている。
林昌先生は、ステージのリハーサルで歌った歌詞は本番では決して歌わなかったというエピソードがあるくらい無数の歌詞を持っていらっしゃった。

宮古根のチラシ(続けて歌う事)での「かいされ」もあるし、このように単独でうたわれることもある。

曲を楽しむというより、もう「語り」に近いとおもう。

歌詞の上句と下句を変えたり、人の作った琉歌をわざといれたり、即興も飛び出したりして、聴く人々にも楽しみを与える技も昔の歌者ならではだろう。

ただ、モノマネして最近の人が歌うのも聴くが、これほどワクワクさせる技量を備えた方の「かいされ」は、なかなか聴けなくなっているのではないだろうか。


歌詞が違うが、かいされ、林昌先生の歌を貼っておく。






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Posted by たる一 at 16:44│Comments(2)か行沖縄本島
この記事へのコメント
いつも参考にさせていただいています。私は琉球舞踊と三線を習い始めて2年目です。CDやDVDで練習していますが、歌詞がわからないときはいつもこのブログで歌詞を学び、踊りや三線の練習に役立てています。ところで、今度私の先輩が玉城節子さんのDVDから学んで「恋の花」を踊ることになりました。恋の花の歌詞はこのブログで入手しましたが、つなぎで出てくる(いろいろ調べてみたら)「加良山節」というのが探しても、さがしても歌詞がなく困っています。私は海外在住でこのような情報の入手がほぼインターネットに限られていてどうしたもんかと迷っています。もしこの「加良山節」の歌詞をご存知でしたらブログに載せていただけませんでしょうか。どうぞよろしくお願いいたします。
Posted by Etsuko at 2015年05月30日 11:01
Etsukoさん
コメントありがとうございます。

とりあえず、べつのところに書いたもの貼り付けます。
また、後日とりあげますね。

八重山民謡、川良山節(かーらやまぶすぃ)

1、川良山ぬ上なか(ヨーホー ユイサ)白雲ぬ立ちゅらば ヨーホー サーンゾサイ カヌサイ ヨーホー
(川良山の上の方に 白雲が立ったなら)

2、白雲で思ゆな ぬり雲で思ゆな 
(白雲と思って下さるな 乗り雲と思って下さるな)

3、とぅばらーまで思より かなしゃまで思より
(私と思ってください 可愛い乙女と思って下さい)

4、川良山ぬねぬらば 山道ぬねぬらば 
 (川良山がなければ 山道がなければ)

5、肝ぬだみ思いから 山道んかぬさどぅあるぃ
 (好きな人を思いつめて通うと 険しい山道も可愛い恋人のようなものである)

6、川良山やさずぃなぎ 山道や布なぎ 
 (悪道の川良山の山道でも 布の長さしかない)

まるで「白雲節」と似ているが背景にある歴史は過酷。

人頭税のための村分け(シマバギ)によって引き裂かれた恋人が相手を想う歌。

女はマラリア地獄の村に。通った川良山は悪い谷道。狭い薄暗い山道を通った二人。

現在はその道の名前をつけたスーパーなどがあるだけ。
Posted by たる一たる一 at 2015年06月04日 09:59
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