2009年01月17日

情の唄

情の唄
なさきぬ'うた
nasaki nu 'uta
情けの唄


作 伊良波 尹吉


一、(女)思いある仲どぅ まちぶいんすゆる ぬがし思里や面ぬ変わてぃ 我思いん徒なすみ
'うむい'あるなかどぅ まちぶいんすゆる ぬがし'うみさとぅやちらぬかわてぃ わ'うむいん'あだなすみ
'umi 'aru naka du machibuiN suyuru nugashi 'umisatu ya chira nu kawati wa 'umuiN 'ada nasumi
思いのある仲だからこそ離れられない どうして貴方はお顔色が変わって 私の思いも徒労に終わらせるの?
語句・まちぶいん 「巻きつく。つき纏う」「離れられない関係」(琉)。



二、(男)思い徒なする我やまたあらん 義理にちながりる無蔵とぅ我や 思いるまま自由ならん
'うむい'あだなする わんやまた'あらん じりにちながりるんぞとぅわんや 'うむいるままじゆならん
'umi 'ada nasuru waN ya mata 'araN jiri ni chinagariru Nzo tu waN ya 'umui ru mama jiyu naraN
思いを徒労に私は絶対しない (しかし)義理に繋がれた貴女と私は 思いのまま自由にならない
語句・また いわゆる再びという意味の「又」と理解するとこの意味がわからなくなる。沖縄語で「また」は「またさん」(形。完全である)からきた接頭語「また」(全き。完全な)の意味もある。つまり「また あらん」で「絶対にしない」。
じり 義理。さまざまな意味に解釈できるが、親が結婚に反対しているとか、すでにそれぞれ婚姻関係をもっているとか、それによって二人の仲が引き裂かれるおそれがあるという「義理」と解釈する。



三、(女)昔ふり者ぬ言ちぇる事守てぃ 義理てぃしや何やが 染みてぃたぼり 我思いん徒なすみ
んかし ふりむんぬ'いちぇるくとぅまむてぃ じりてぃしや ぬやが すみてぃたぼり わん'うむいん'あだなすみ
Nkashi hurimuN nu 'icheru kutu mamuti jiri tishi ya nu ya ga sumititabori waN 'umuiN 'ada nasumi
昔、馬鹿者の言うことを守って 義理というものは何なの?(心を)染めてください 私の思いも徒労に終わらせるの?
語句・ふりむん 「(何かに心奪われた酔狂な)馬鹿(者)」(琉)。 ・てぃし 「・・ということ(もの)」(琉)。



四、(男)ありん捨てぃららん くりん投ぎららん あひゃんがれ二人 染みてぃんだな 思いるまま自由ならん
'ありんしてぃららん くりんなぎららん 'あひゃんがれ ふたい すみてぃんだな 'うむいるままじゆならん
'ariN shitiraraN kuriN nagiraraN 'ahyaNgare hutai sumiti Ndana 'umuirumama jiyunaraN
あれも捨てられない これも投げられない どうにでもなれ二人 染めてみたい 思いのまま自由にならない
語句・あひゃんがれ <あひゃんがれー。 どうにでもなれ。 「あっぱんがれー」ともいう。 ・すみてぃんだな 染めてみたい。 <すみゆん 染める。+ んんじゅん 補助動詞で「・・してみる」。(見る、という動詞でもある)



五、(女)里行逢てぃからや 思ぬ端々に 情ねん鳥や唄てぃ呉るな 思いるまま自由ならん
さとぅ'いちゃてぃからや 'うみぬはしばしに なさきねんとぅいや'うたてぃくぃるな 'うむいるままじゆならん
satu 'ichati kara ya 'umi nu hashibashi ni nasakineN tui ya 'utati kwiruna 'umui ru mama jiyu naraN
貴方と出会ってからは(私の)思いの隅々に 情け(心)のない鳥は歌ってくださるな 思いのまま自由にならない
語句・はしばし すみずみに。 ・なさきねんとぅい 情け心のない鳥。 周囲の人間を比喩しているのだろう。



六、(女)(男)干瀬に居る鳥や 満潮恨みゆい 我や暁ぬ鳥どぅ恨む 思いるまま自由ならん
ふぃしにうるとぅいや みちす'うらみゆい わんや'あかちちぬとぅいどぅ'うらむ 'うむいるままじゆならん
hwishi ni uru tui ya michisu 'uramiyui waN ya 'akachichi nu tui du 'uramu 'umui ru mama jiyu naraN
干瀬に居る鳥は 満ち潮を恨む(ように)私は明け方(を告げる)鶏こそ恨む 思いのまま自由にならない
語句・ふぃし 「干潮時に現れる洲、礁原」(琉)。あまりにも琉歌ではよく出てくるので「干瀬」とそのまま訳に記す。

作は伊良波 尹吉。

想像だが、沖縄の人にとっては、「好きな歌」の結構上位になるのではないかと思う。
情感があって、男女のかけあいにはぴったり。

内容も、「義理」にしばられた世間のなかで、強い愛にむすばれた二人の先が見えない苦しみ。

この歌詞は嘉手苅林昌のCD「唄遊び」に収録されているもので、三線が知名定男、唄は嘉手苅林昌と崎山千栄子と書かれている。

しかし三線の音は複数聞えるし、嘉手苅林昌が三線を弾かないということは考えられない。
そして、あの「竹を割ったような」弾き方の三線の音もちゃんと入っている。したがって、知名定男は連り弾き(ちりびち)であろう。

また。歌詞カードと実際の唄は違うところがいくつかある。

四番。林昌。「思いるまま自由ならん」→「思いるまま染みなしよ

五番。崎山千栄子。「里行逢てぃからや」→「里行逢てぃ語る
同上         「唄てぃ呉るな」→「唄てぃ呉たみ

五番の歌い替えは意味が変わる。

里行逢てぃ語る 思ぬ端々に 情ねん鳥や唄てぃ呉たみ 思いるまま自由ならん
貴方と出会って語る思いのすみずみに 情けのない鳥は歌ってくれたか?(あげたか?) 思いのまま自由ならない




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Posted by たる一 at 12:33│Comments(0)な行
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