2007年12月16日

孝行口説

孝行口説
こーこー くどぅち
kookoo kuduchi

唄 嘉手苅林昌 登川誠仁

(歌詞は「The Rough Gaide to the MUsic of Okinawa」ライナーノーツ 大須賀 猛訳 と実際に歌われている歌詞を参照した)


(口説)
うゆす世間に居る人や 貴ひん貧富ぬ差別なく 親になさらん 人はなし
'うゆす しきんに'うるふぃとぅや ちしんひんぷぬさびちなく 'うやになさらんふぃとぅわなし
'uyusu shikiN ni 'uru hwitu ya chishiN hiNpu nu sabichi naku 'uya ni nasaraN hwitu wa nashi
およそ世間にいる人は 貴賎貧富の差別なく親に(から)生まれない人はない
語句・ちしん 辞書にはない。大和口の移入であろう。 「貴賎」kiseN→chishiN。 また「貧富ひんぷ」「差別さびち」も同様。・なさらん 生まれない <なしゅん 生む。の受動態。 なさ + らん 否定→生まれない。その前の「に」があるため直訳すると「親に生まれない」、「親に生まされない」、つまり「親から生まれない」と解釈する。 ちなみにラナーノーツでは「親でないよな」と訳されている。それではやや意味が変わるのではないか?


(口説囃子)
いやいや いやりる事さみ  口説の主取い 親になさらん人や居らんさ
'いや'いや 'いやりぐぅとぅさみ くどぅちぬぬしどぅい 'うやになさらんふぃとぅや'うらんさ
'iya 'iya 'iyarigutusami kuduchi nu nushi dui 'uya ni nasaraN hwitu ya 'uraNsa
ヤアヤア 言われること[通り]であるぞ 口説の主(題)を取り 親に(から)生まれない人はないよ


やくと ようよう 親に孝行ゆたしくしりてん 昔の聖人 書物の数々 和歌ぬおふむに 念仏さまさま いましみさりしが
やくとぅよーよー 'うやにこーこーゆたしく しりてーん んかしぬしーじん しゅむちぬかじかじ わかぬ 'おーむに にんぶちさまざま 'いましみさりしが
yakutu yooyoo 'uya ni kookoo yutashiku shiriteeN Nkashi nu shiijiN shumuchi nu kajikaji waka nu 'oomuni niNbuchi samazama 'imashimi sarishiga
だから親に孝行(することを)よろしく知っても 昔の聖人、書物の数々、和歌の概ね、念仏さまざま(で)戒めされているが
語句・しりてーん 知っても  <しゆん(知る)命令形 + てーん ・・しても したところで 。 さてライナーノーツには「すんてやい」とあるが登川誠仁氏は「しりてーん」と唄っている。安富祖工工四には「しゆれてやり」とあり、これは「知れと」と訳すことができる。 てぃやい 【旧かな “てやり”“ト言イアリ”〔連用形〕の縮約で、−ndichi〔接続形〕と対応;cf.-jai 】(琉)  ・おーむに おおむね 概ね 安富祖工工四には「おほむね」とある。ライナーノーツの「対訳」には「文句」とあるが、これも意味が違う。どうして「おほむに」「おおむに」が「文句に」となるのだろうか。


時にゆってや すむち腹だち 大いに勘違え 怒りにまかしてぃ 親に愚痴し 兄弟といさかい あさましむぬさみ
とぅちにゆってぃや すむちはらだち 'おおいにかんちげー 'いかいにまかしてぃ 'うやにぐちっし ちょーでーとぅ'いさかい 'あさましむぬさみ
tuchi ni yutti ya sumuchi haradachi 'ooini kaNchigee 'ikai ni makashiti 'uya ni guchisshi choodee tu 'isakai 'asamashi munusami
時によっては、そむき腹を立て大いに勘違いし怒りにまかせて親に愚痴(を)して兄弟と争い あさましいものであるぞ
語句・すむち そむき <すむちゅん 背く


胸にうみすみ 天罰恐れれ 恐るしむぬさみ 我ぬん口説になぢいてぃ はやさは 右の人達 みすくちかりり
んにに'うみすみ てぃんばち'うすりり 'うとぅるしむんさみ わぬんくどぅちになじーてぃはやさわ みじりぬちゅぬちゃーみしくちかりり
Nni ni 'umisumiti tiNbachi 'usuriri 'uturushimuNsami wanuN kuduchi najiiti hayasawa mijiri nu chunuchaa misiku chikariri
胸に思い染めよ(胸に刻め)天罰恐れよ 恐ろしいものであるぞ 私も口説(を)利用して囃すので、右の人たちよくよく聞きなさい 
語句・うみすみ 胸の思い染めよ→胸に刻め <うむゆん 思う +すみゆん 染める 命令形。・わぬん 私も <わぬ(「わみ」より古い文語(沖) 私 + ん も ・なじーてぃ 利用して <なじきゆん 口実にする かこつける ・はやさわ はやす。歌詞には「話す」とあるが、何度聴いても「はやさわ」と聞えるので。 ・みしく 「つぶさに 慎重に よく」(琉)  


いかんところや つくづく 言うしけーゆし 望ましものさみ  サーサ ハイヤ
'いかんとぅくるや ちくじく 'いうしけーゆし ぬずましむぬさみ さーっさ はいや
'ikaNtukuru ya chikujiku 'iyushi keeyushi nuzumashimunusami saassa haiya
いけない所ははつくづく 言うこと(のように)変えること(が)望ましいものであるぞ (囃子言葉)
語句・いゆし 言うこと <ゆん 言う いゆ+し 活用語の下略形に付いて・・すること→言うこと ・けーゆし 変えること <けーゆん 変える +し 


(口説)
親や我が身のくとなりば 本を忘れる道はなし まじや十月になるまでん
'うややわがみぬくとぅなりば むとぅゆわしりるみちやなし まじやとぅちちになるまでぃん
'uya ya waga mi nu kutunariba mutu yu washiriru michi ya nashi maji ya tutuchichi ni narumadiN
親はわが身のことなれば 祖先を忘れる道はなし まずは十月(十日;妊娠期間)になるまでは

(口説囃子)
なるほどあんさみ 鴉の鳥さえ 親ぬ御恩や うくゆんでるある 人間生まれてぃ ふんし失なて 親といちけて
なるほどぅ'あんさみ がらしぬとぅいさい 'うやぬぐいんや 'うくゆんでぃるある にんじん'うまりてぃ ふんし'うしなてぃ 'うやとぅ'いちけてぃ
naruhudu 'aNsami garashi nu tuisai 'uya nu guiN ya 'ukuyuNdi ru 'aru niNjiN 'umariti huNshi 'ushinati 'uya tu 'ichiketi
なるほどその通りであるぞ カラスの鳥さえ親の御縁は報いるものだ 人間(に)生まれて本心失って親と(に)言い返して 
語句・がらし カラス ・うくゆんでぃるある <うくゆん 送る 贈る 何か頂いたものに返すという意味でとらえるとご恩に報いるという意味もでてくる。+んでぃ ・・と + る=どぅ + ある<あん 連体形 ・ふんし 辞書には「風水 土地などの吉凶、家相・地相など」(琉)しかない。安富祖工工四には「本心」と振り仮名がある。本心としておこう。


妻子思ゆる鳥畜生にん ゆふどうとうゆさ あねる者ぬる あぬ世行じから えんま王にん 御咎み受きゆさ
とぅじっくわ'うむゆるとぅいちくしょーにん ゆふどぅ'うとぅゆさ 'あねるむんぬる 'あぬゆー'んじから 〔えんま〕おーにん 'うとぅがみ'うきゆさ
tujikkwa 'umuyuru tui chikushooniN yuhudu 'utuyusa 'anerumiNnuru 'anuyuu 'Nji kara 〔eNma〕'ooniN 'utugami 'ukiyusa
妻子思う鳥畜生にもよほど劣るよ あのような者こそあの世行ってから閻魔王にもおとがめ受けるよ

赤鬼 黒鬼 青鬼集まて 鉄棒がらがら 目はい口はい かち喰ゎー喰ゎー すてぃ
'あか'うに くる'うに 'おお'うに'あちまてぃ てぃちぼーがらがら みーはいくちはい くゎちくゎーくゎーしてぃ
'aka'uni kuru'uni 'oo'uni 'achimati tichiboo garagara miihaikuchihai kwachi kwaakwaa shiti
赤鬼 黒鬼 青鬼集まって 鉄棒がらがら 目(を)剥き口を開け 怒って食べかからんばかりにして
語句・みーはいくちはい <みーはい 驚いて目をみはる ・くゎちくゎーくゎー 怒って <くゎちくゎち 大いに立腹するさま <くゎーくゎー 食べようとするさま 


ちるじぬ山にや 取って投げられ わぢり河に きって落とさり あさましむぬさみ
ちるじぬやまにや とぅってぃなぎらち わじりがーらにきっち'うとぅさり 'あさましむぬさみ
chiruji nu yma niya tuttinagirari wajiri gaara ni kicchi 'utusari 'asamashimunusami
針の山には取って投げられよ 三途の川には切って落とされよ あさましいものであるぞ
語句・ちるじぬやま <ちるじ けづめ 鳥類の攻撃用の爪→針の山 ・わじりがーら 「後世に入ってはじめに渡る熱湯の沸き立つ川 三途の川にあたるもの」(沖)  


やくとぅ人の達 親に孝行ゆたしく しみそり サーッサ ハイヤ
やくとぅちゅぬちゃー 'うやにこーこーゆたしくしみそーり
yakutu chu nu chaa 'uya nu kookoo yutashiku shimisoori (囃子略)
だから人々よ 親に孝行をよろしくしてください

(口説)

親ぬ生き目ぬ時なかい 深く孝行や なさなしょてぃ 死後にくやでぃん 益はなし
'うやぬ 'いちみぬとぅちなかい ふかくこーこーやなさなそてぃ しぐにくやでぃん'いちわなし
'uya nu 'ichimi nu tuchi nakai hukaku kookoo ya nasanasooti shigu ni kuyadiN 'ichi wa nashi
親が生きている時に深く孝行はなさないでいて (親の)死後に悔やんでも益はない
語句・いちみ 「現世に生きていること また現世 この世」(沖) ・なかい ・・に の中に 

嘉手苅林昌と登川誠仁の「孝行口説」である。
古典にもあるが、さらに長い。
それを一般民衆にもわかりやすく、面白く唄っているのがこれである。

以前にも書いたが「口説」は大和の民謡に一分野にあった「口説」(くどき)の影響を受けている。
初めにできたのが1764年に屋嘉比朝寄が江戸に上京する慶賀使の無事を祈ってつくった「上り口説」。

その「上り口説」も、口説と、それを解説補完する「囃子」とに分かれる。
大和の「口説」も
「七五調の12音節を1コトとし、5コトで1小節になり、三味線の間奏が入ります。単調な節の繰り返しでおよそ100コトで1段が構成されています。三味線の伴奏は一定の同じ旋律を繰り返して弾きます。」(ゆうざんさんHPより)
つまり、この「孝行口説」のように嘉手苅林昌さんが口説を歌い、あと単調な唄持ちの繰り返しで「囃子」を歌うのは伝統的な大和の口説形式であるといえる。

さらに大和口からの移入だろうと思われる語句は多い。
「貴ひん」「貧富」「差別」「聖人」「和歌」「おふむ」「念仏」・・・

手元にある「孝行口説」の歌詞では安富祖流工工四にあるが、このCDのものよりさらに長い。
そして内容は、主に母子の関係を歌ったものだ。
CDのように「閻魔大王」や鬼は登場しない。

話は変わるが、誠小さんがBS2の番組で歌ったときは
この孝行口説に越来節と組みあわせて面白おかしく歌われていた。

CDのライナーノーツの訳、それに採譜(歌詞)には疑問が多かった。
大意に違いはないものの、想像意訳が目立った。残念である。

一番主題に近い「親になさらん人やおらんさ」。
当初「親になれない人はいないよ」と解釈しつつ、しかし「子供がいなくて親にならない人はいくらでもいる」から、どうも普遍性を欠く主題だと半信半疑になっていた。
「なさらん」を「なゆん」(なる)ではなく「なしゅん」(生む)と考えてみた。
前の助詞「に」の用法を調べたら、「najuN(なる)、nasjuN(する)などを用いて『…になる』『…にする』などの意を表す場合には、普通助詞を用いない」とある。
さらに使われる例として「ujani kanasha sarijuN(親にかわいがられる)」も挙げられている(沖縄語辞典)。
これらのことから、「親になれない」ではなく「親に生まされない」つまり「親から生まれない」と解釈した。

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Posted by たる一 at 12:03│Comments(1)か行
この記事へのコメント
「親になさらん人やうらんさ」について以下のように変更し解説を加えました。

一番主題に近い「親になさらん人やおらんさ」。
当初「親になれない人はいないよ」と解釈しつつ、しかし「子供がいなくて親にならない人はいくらでもいる」から、どうも普遍性を欠く主題だと半信半疑になっていた。
「なさらん」を「なゆん」(なる)ではなく「なしゅん」(生む)と考えてみた。

前の助詞「に」の用法を調べたら、「najuN(なる)、nasjuN(する)などを用いて『…になる』『…にする』などの意を表す場合には、普通助詞を用いない」とある。
さらに使われる例として「ujani kanasha sarijuN(親にかわいがられる)」も挙げられている(沖縄語辞典)。
これらのことから、「親になれない」ではなく「親に生まされない」つまり「親から生まれない」と解釈した。
Posted by たるー(せきひろし) at 2008年11月05日 09:02
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