2005年12月23日

チョンチョンキジムナー

チョンチョンキジムナー
ちょーんちょーんきじむなー
chooNchooN kijimunaa
語句・ちょーん 来ている。<ちゅん。来る。の活用形。・きじむなー <きじむん。「邪神の一種。木の精。背は小さく、akagaNtaa(あかちゃけたおかっぱ頭)をしているという。漁がうまく、魚の目玉だけを食い、また、人家に火をもらいに来るという。kizimuNに関してはさまざまな民話がある。」【沖縄語辞典(国立国語研究所編)】(以下【沖辞】と略す)。他に「キジムナー火」(きじむなーびー)と呼ばれ「夜山中などで見える、線香のような小さな火をいう。」【沖辞】。


原案 川上進行 照屋林助
作詞 照屋政雄
(滑稽民謡集より)
(歌詞、ひらがな表記、ローマ字表記、意味 「'」は声門破裂音)


一、 キジムナー小の家やまーやがチョーバン石のすばどーや(すばどーや) がじゅまる木の中にどあんど
きじむなーぐゎーぬ やーやまーやが ちょーばんいしぬ すばどーや がじゅまるぎーぬなかにどぅあんどー
kijimunaagwaa nu yaa ya maa yaga choobaN'ishi nu suba dooya gajumarugii nu nakani du 'aNdoo
キジムナーちゃんの家はどこだい?京判石の側だよ カジュマルの木の中にあるのだよ
語句・やー 家。・まーやが どこか?・ちょーばん 「一升枡」【沖辞】。チョーバン石とは一升枡のように四角い石の事。

ちょんちょんちょん・・・・・キジムナーがチョーンチョン
chooN chooN chooN ・・・・・kijimumaa ga chooN chooN
来てる 来てる 来てるよ・・・・キジムナーが来ているよ
(※ 囃子は繰り返し。以下省略。)



二、 キジムナー小が呼びが来ね まじゅん行かや カーマデ 月の夜や 海かいどーや
きじむなーぐゎーがゆびーがちーね まじゅん'いかやカマデーちちぬゆーや'うみかいどーや
kijimunaagwaa ga yubii ga chiinee majuN 'ikaya kamadee chichi nu yuu ya 'umikai doo ya
キジムナーちゃんが呼びにきたならば 一緒に行こうねカマデー(人の名前)月の夜は海にだよ
語句・ゆびーが 呼びに。・ちーねー <ちー。来た。+ねー。場合には。ならば。・まじゅん 一緒に。・いかやー 行こうね。いか<いちゅん。行く。の希望、呼びかけ。行こう。+やー。同意を求める。・かまでー 子どもの名前。・ちちぬゆー 月の夜。・うみかいどーやー 海+かい。(に)+どーやー(だよ)



三、 キジムナー小や力持ちやさ 魚取り上手の海ヤカラー 魚取てもうきてまぎ家つくらな
きじむなーぐゎーや ちからむちやさ 'いゆとぅいじょうじぬ 'うみやからー 'いゆとぅてぃ もーきてぃ まぎやーちゅくらな
kijimunaagwaa ya chikaramuchi yasa 'iyu tui jooji nu 'umiyakaraa'iyu tuti mookiti magiyaa chukurana
キジムナーちゃんは力持ちだよ 魚とりが上手い海ヤカラー 魚を取って儲けて大きな家を作りたいね
語句・じょーじぬ 上手な。・いゆ 魚。・うみやからー 海の猛者。・まぎーやー大きな家。・ちゅくらな。作りたい。



四、 キジムナー小と海かい行ちね 魚んグヮサグヮサグヮッサラコ 大魚ややーむん 目の玉やありがむん
きじむなーぐゎーとぅ'うみかい'いちねー'いゆんグヮサグヮサグヮッサラコ 'うふ'いゆや'やーむん みんたまーや'ありがむん
kijimunaagwaa tu 'umikai 'ichinee 'iyuN gwassa gwassarakoo 'uhu'iyu 'yaamuN miNtamaa ya 'arigamuN
キジムナーちゃんと海に行く時は 魚がどっさどっさ 大きな魚はお前のだ 目の玉はあれ(キジムナー)のものだ
語句・かい に。・いちねー 行けば。・やーむん お前のもの。



五、 キジムナー小が取ったる魚小や マクブ タマンに イラブチャー カタカシミーバイ トゥルバイ カーバイ
きじむなーぐゎーがとぅったる'いゆぐゎーやマクブ タマンに イラブチャー カタカシ ミーバイ トゥルバイ カーバイ
kijimunaagwaa ga tuttaru 'iyugwaa ya makubu tamaN ni 'irabucaa ka katakashi miibai turubai kaabai
キジムナーちゃんが取った魚はマクブ タマンにイラブチャー カタカシミーバイ しょんぼりしている
語句・まくぶ べら科の魚 「鯛に類する上等な魚」【沖辞】。・たまん鯛の一種。「makubuとともに魚のうちでもっとも美味とされるもの」【沖辞】。・いらぶちゃーアオブダイの一種。・かたかし「赤みを帯びた黒いあるふれた魚で、干物にすることが多い」【沖辞】。・みーばい「目張(めばる)」【沖辞】とあるが、ミーバイはハタ科で、メバル(フサカサゴ科)とは違う種類。メバルは沖縄の海にはいない。美味しい魚。・とぅるばいかーばいturubaikaabai このような魚がいるわけでなはく、とぅるばい'おーばい turubai 'oobai (さびしげにぼんやりしているさま)
を、ミーバイの「バイ」にひっかけている。


六、 キジムナー小がうとぅるしむんや アカチチミコカと手八ち ナンドゥルフィンドゥルタックヮイムックワイ
きじむなーぐゎーが'うとぅるしむんや 'あかちちみーこかとぅてぃーやーち なんどぅるふぃんどぅる たっくわいむっくわい
kijimunaagwaa ga 'uturushi muN yasa 'akachichimiikoka tu tiiyaachi naNduruhwiNduru takkwai mukkwai
キジムナーちゃんは怖いものは 夜明けの鶏とタコ ツルツル ベタベタ(が苦手)
語句・うとぅるしむん 怖いもの。・あかちちみこか夜明けのメスの鶏。kokaは鳥の鳴き声か? ex.kookorookoo は、しゃもの鳴き声。・てぃーやーちー手が八本 だから タコ。・なんどぅるふぃんどぅるツルツルすべりやすいさま。・たっくゎいむっくゎいくっつく様。


七、 キジムナー小がうふぁするばすね フィーやフィんなよカーマデ 深海やらわん うっちゃんぎらりんど
きじむなーぐゎーがうふぁするばしゅねー ふぃーやふぃんなよーかーまでー ふか'うみやらわん 'うっちゃんぎらりんどー
kijimunaagwaa ga 'uhwa surubashu nee hwii ya hwiNnayoo kamadee huka'umi yarawaN 'uccaNgirariN doo
キジムナーちゃんがおんぶする時はね おならはするなよカーマデー 深い海だろうが 投げ飛ばされるぞ
語句・
・ばしゅ bashu 場合 時。 平民語で ばすbasuともいう。
・やらわん yarawaN であろうが


八、 キジムナー小と友小ないね 旅かい行ちゅしんただどーや 唐旅やらわん アメリカやらわん
きじむなーぐゎーとぅどぅしぐゎーないねーたびかい'いちゅしん ただどーや
とーたびやらわん アメリカやらわん
kijimunaagwaa tu dushigwaa nainee tabikai 'ichusiN tada doo yaa tootabi yarawaN アメリカyarawaN
キジムナーちゃんと友達になったらね 旅に行ってもタダなんだよ 中国旅行だって アメリカ旅行だって
語句・ないねーなったら。・いちゅしん行っても。'ichusiN 行く 'ichu(行く)shi(こと)N(も)。


九、 キジムナー小と遊ぶるうちに やがて夜ん明きゆらど ウスや満しが早くな急がに
きじむなーぐゎーとぅ'あしぶる'うちに やがてぃゆーん'あきゆらどー 'うしゅやみちゅしが ふぇーくなー'いすがに
kijimunaagwaa tu 'ashiburu 'uchini yagati yuuN 'akiyura doo 'ushu ya michushiga hweeku naa 'isugani
キジムナーちゃんと遊ぶうちに やがて夜もあけるだろうよ 潮は満ちたが早くやめて急がないか
語句・あきゆら明けるだろう。akiyuN明けるの推量。



(コメント)
今年は照屋林助さんという沖縄民謡界の巨星が落ちた。
とても残念な出来事だった。
一度もお会いしたことがなく一度は拝見したいと思っていてなくなった方は林昌さんに続いて二人目。
友人からいただいたテレビ番組で追悼特集をやっていて、彼の造詣の深さ、芸の多様さ、人間の暖かさには驚く。

たしか今年のはじめあたりに広島市内で照屋政雄さんのライブでこの歌を聞いた。照屋政雄さんは自称この林助さんのお弟子さんだ。
林助さんらが作った歌を、この政雄さんが歌うととても味がある。

私もときどきライブなどでこの歌を歌わせていただく。

ウチナーグチの歌詞でありながらヤマトンチュもノリノリになれるめずらしい曲の一つだ。
会場の雰囲気を変えるにはこの早弾きの五のフラットと七の繰り返しは人の心をくすぐる。
その理由はこの音階がヤマトの民謡や歌謡曲に使われる音階に近いからだ。
五木の子守唄、二見情話でフラットを使うと、もの悲しい雰囲気をつくりだすのに、この曲はなぜか不思議な明るさがある。

このキジムナーの間に「ゲゲゲの鬼太郎」を入れると曲調が似ているのに驚く。どちらが先だったのだろうか。。同じ妖怪もので、しかも共通するものもある。

キジムナーは沖縄に住み、子どもなどにしか見えないいたずら好きの妖怪である。赤い顔、赤い髪、子どものような姿。かわいらしいが、寝ている上に乗って苦しい思いをさせたり、キジムナー火といって火の玉が見えたり、ガジュマルの木に住んでいて見え隠れするらしい。

よく聞く話はこうだ。
漁師のカマデーはある日キジムナーと知り合いになる。すると魚がたくさん採れだす。キジムナーは左の目の玉をよこせ、ほかはやるという。片目の魚を売ってカマデーは大きな家を買う。しかし、カマデーの妻が毎夜毎夜怪しいキジムナーと出かける夫をみて心配し、キジムナーの苦手なニワトリとタコを用意してキジムナーを怖がらせる。すると、家が焼けて財産はなくなってしまう。
というような話だったと記憶している。

沖縄の島によっても呼び名が違い、様相も違っている。
宮古島では マジムン
八重山諸島では マンジャービー
本島 本部では シェーマ(セーマ)
国頭村ではブナガヤー
東村ではキジムナー
似たような伝説は奄美大島などにもある。



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Posted by たる一 at 06:39│Comments(9)た行沖縄本島
この記事へのコメント
宮古のお化けにもいろいろあります。一般的にはマズムヌと言いますが、宮古北部の島尻地区ではとくに泥だらけのお化けをパーントゥといいます。(カミの化身らしいですが)。

なお離島では「マズムヌ」はかなりひどい悪口です。もちろん年配の方でも人前では言いません。「バカヤロウ」の最上級くらいですか。言葉の意味は文脈により変わります。
Posted by gabaizu at 2005年12月23日 21:22
gabaizuさんコメントありがとうございます。
マジムンは宮古ではマズムヌと発音するのですね。

気をつけないといけない言葉がありますね。
私はヤマトンチュがおふざけ半分で島の言葉を使うときに十分に気をつけないといけないと思っています。
言葉の歴史を知らずに軽々しく言葉を使うことです。
沖縄の文化に親しんでいるようで、おもちゃにすることは侮辱にもつながる。それは自分への戒めでもあります。
Posted by たるー at 2005年12月23日 22:07
曲が50曲になりました。(たぶん・・笑)

ずっとずっと気になっていたことが、ここにきて
噴出したようにでてきました。

自分が島唄を歌うかぎり知りたい、理解したいという気持ちが強く、強くありました。
それに火がついたのは、胤森さんの研究でした。
最初はすべて彼にお任せで訳していただき、それを覚えるような繰り返し。
しかし、だんだん興味も深まり、辞書を買い自分で。
それが10月になるとほとんど病気のように島唄のことばかり考えています。

しかし、やっぱり島うたはいいですね。
Posted by たるー at 2005年12月24日 01:02
 補足です。

「うゔぁー、マズムヌ」という時がだいたいそういう悪口になります。...が、もちろん言葉の強さや状況によりけりですし他の集落では正反対の意味にならないともかぎりません。茶化していう場合がそうです。
 例えば「フリムヌ」という言葉だってかなり悪い言葉ですが、おばあとかが照れ隠しにいう場合もあり、またある地域ではあることばを『日常会話で言う』けれども別な地域では『ヤクザことば』になることもあります。
 沖縄語で日常語でも、宮古ではとんでもない言葉に聞こえるとか、宮古島内でもある言葉は卑猥に聞こえる言葉とか、です。
ややこしいですね。

 
Posted by gabaizu at 2005年12月24日 23:04
gabaizuさんコメントありがとうございます。
フリムン、も気をつけたい言葉ですね。
こういう他者を(あるいは自分を)さげすむ言い方を面白がって使う人が本土には多いようです。
状況によっては誤解を与える場合があります。
微妙な言葉はほかにもありますね。
宮古の言葉、ほんとに詳しいですねえ。
Posted by たるー at 2005年12月25日 00:10
自称師匠(笑)の解説、ありがたく読ませていただきました。

これを読むまで理解半分。勉強になりました。

私もこれから三線修行いたします。
ちょくちょくお邪魔させていただきます。

Posted by lotus55 at 2006年01月04日 11:45
lotus55さん
今年もよろしくです。
三線修行がんばってくださいね。

どんどんご意見お願いします。
Posted by たるー at 2006年01月06日 00:13
はじめまして。私は今年の夏に沖縄に引っ越して来て、最近、前からずっとやりたかった三線を始めました。
なんとなく弾けるようにはなったのものの、やっぱりうちなー口の歌詞が難しくて・・・意味もあまりわからないので、なかなか覚えずらくて・・・。
だから、とても参考になりました!!ありがとうございました。
またお邪魔させてもらいますね!
Posted by yukari-na at 2007年11月13日 02:52
yukari-naさん はじめまして
三線をはじめた頃は、私も意味もわからず
覚えずらかったですが、
意味、文法をすこしわかってくると覚えるのも楽しくなります。
がんばってくださいね。
Posted by たるー at 2007年11月13日 23:04
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