2005年11月06日

谷茶前

谷茶前
taNcha mee 
たんちゃめー
谷茶の前
語句・たんちゃめー 谷茶前の浜、が正式な呼び名である。「の浜」が省略されている。



一、谷茶前の浜に(よー)スルル小が寄ててんどー(ヘイ)(ナンチャマシマシ ディアンガ ソイソイ)
たんちゃめーぬはまに(よー)するるぐぁーがゆてぃてぃんどー(へい)(なんちゃましまし でぃー あんぐぁー そいそい)
taNchamee nu hama ni yoo sururugwaa ga yutitiN doo (hei naNca mashimashi dii aNgwaa soi soi)
谷茶(の)前の浜に きびなごが集まっているぞー
語句・するるぐぁ 「小魚の名。きびなご。体長10センチたらずで、かつおの釣り餌に用いられる」【沖縄語辞典(国立国語研究所編)】(以下【沖辞】と略す)。・なんちゃましまし でぃあんぐぁーそいそい 囃し言葉。囃し言葉は拍子を揃えたりするものも多い。また昔の囃し言葉が伝搬する間に別の語句と入れ替わったりもする。この場合「なんちゃ」は「たんちゃ」と歌われる曲もある。「ましまし」は「むさむさ」とも。「でぃーあんぐぁー」は意味がはっきりしているので変化がほとんど見られない。「でぃー」は「さあ」であり、「あんぐぁー」は平民の「お姉さん」だ。「そいそい」は「やくしく」(約束)となったりもする。



二、スルル小やあらん大和ミズンど やんてんどー 
するるぐぁーやあらん やまとぅみじゅんどぅ やんてぃんどー
sururugwaa ya 'araN yamatu mijuN du yaNtiN doo
きびなごではない ヤマトミズン(ニシンの一種)だぞ
語句・やまとぅみじゅん 鰯。「(奄美以南に分布する)鰯の一種」【琉球語辞典(半田一郎)】(以下【琉辞】)。



三、兄達や うり取いが あん小や かみてうり売いが  
あふぃーたーや 'うりとぅいが あんぐぁーや かみてぃ'うり'ういが
'ahwiitaaya 'uri tuiga 'angwaaya kamiti 'uri 'uiga
兄さんたちはそれを採るために 姉さんたちは頭に乗せて売るために
語句・あふぃーたー 兄さん達。「あふぃー」は「平民の兄さん」。「あっぴー」とも言う。ちなみに士族は「やっちー」。・とぅいが 取りに。「が」は「〜しに」の意味。したがって、この後に「いちゅん」(行く)が省略されている。・かみてぃ頭に載せて。<かみゆん。 「頭上に載せる」【琉辞】。



四、うり売て戻いぬアン小が 匂いぬしゅらさ
'うり'うてぃもぅどぅいぬ 'あんぐぁーが にうぃぬしゅらさ
'uri 'uti mudui nu 'angwaa ga niwi nu shurasa
それを売って戻った姉さんの 匂いのかわいらしいことよ
語句・しゅらさ かわいらしいことよ!<しゅーらーさん。「かわいい」【琉辞】。形容詞の体言止め(〜さ)は「とても〜なことよ!」という感嘆の意味がある。



五、うり取ゆる島や 謝名と宇地泊
'うりとぅゆるしまや じゃな とぅ 'うちどぅまい
'urituyuru shima ya jana tu 'uchidumai
それを採る村は 謝名と宇地泊
語句・しま 「島」つまりアイランドではなく村などの地名を指す。・じゃなとぅうちどぅまい



(コメント)
沖縄は北部、西海岸の恩納村谷茶(たんちゃ)。そこに伝わる漁村ののどかな男女の風景を歌にしたもの。

明治初期に舞踊の名人といわれた玉城盛重が谷茶に伝わる古謡を元に振り付けをして人気を博した。

最初は女の手踊りだけだったが、やがて女がバーキ(竹籠)を、男がウェーク(櫂)を持って踊る雑踊り(ぞう うどい zoo udui)と言われる現在の型が生み出されて行く。

三線では三下げ(さんさぎ saNsagi)で、沖縄音階ほぼ100%の曲。
早弾きで、タッタタ、タッタタのリズムで弾くことで躍動感に満ちている。

(注意点)
・谷茶前 地名は「谷茶」のみで「前」は、「前の浜」(meenuhama)という慣用の語句。

・谷茶は恩納村と本部町にある。一般的には恩納村が発祥とされているが本部町だとする説もある。

・ヤマトミズン、ニシンの一種であるが、明治初期はこの部分は「スク」であったようだ(仲宗根幸市氏)

・三番、「うりとぅいが」「うりういが」のそれぞれの後に「いちゅん 'icuN」が省略されている。「・・を採り・・を売り」とリズム良く歌えるようにしてある。

・四番「しゅらさ」は舞踊曲の場合で、民謡では「ひるぐささ」(臭さ)であるという(仲宗根幸市氏 島うた紀行 第1集)
魚を一日中頭に乗せて売っていたら魚臭くなるでしょうね。

いろいろな歌詞もあるし、時代によりそれも変わる。
民謡の運命(さだめ)である。

人々の口を介して、いいものが残り、変えられてよいものになる。
時代の好みに合わせて変わり、人々は、よくないものは捨てていく。

捨てられたものは戻ってこない。
新しい歌詞が加えられて、元の姿は、見えなくなる。

谷茶前もそういう運命をたどり、今日私たちに、進化した姿を見せてくれるのである。

(歌碑)

昔の谷茶前の歌碑は、少しわかりにくい行きずらい場所にあった。




現在は浜の近くにできたという。(私自身はまだ見たことがないのでFacebookの友人からお借りした)



次回はこの歌碑の歌詞を取り上げたい。

(2018年2月11日 加筆修正)


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Posted by たる一 at 11:31│Comments(10)た行沖縄本島
この記事へのコメント
たるーさん、こんにちは。じんじんさんのところではよくお見かけしてましたがこちらのブログでは初めましてです。
>・tiN がわからない。
とのことですが、たるーさんの訳どおり「〜している」で良いように思います。
Posted by ふーちゃん@なら at 2005年11月06日 22:10
ふーちゃん@ならさん
コメントありがとうございます。
じんじんさんにもいろいろ教えていただきました。

yaNtiNというのがどうも、腑に落ちないのです。
これだと、「・・・だ」のあとに「している」になって
よくわかりません。
でもいわれるとおりかもしれませんね。
Posted by たるー at 2005年11月07日 21:52
ふーちゃん@ならさんのご意見のように、「tiN」は「テ」と「ゆん'yuN」がくっついたものであると、胤森さんから手紙をいただきました。

琉球語事典によると
「て(引用)+'yun と(って)いう。」

そういえば久高万寿主にも「とぅめーてぃてぃんどー」というのがありました。

ご指摘ありがとうございました。
Posted by たるー at 2005年11月20日 22:43
國吉美奈さんの谷茶前をききました。 …いつもながら、解説、ありがとうございます。
Posted by てるお at 2008年11月02日 22:21
てるおさん
コメントありがとうございます。
>國吉美奈さんの谷茶前をききました。
お名前を私はまだ存じませんがすばらしい歌だったのでしょうね〜
Posted by たるー(せきひろし) at 2008年11月04日 08:27
よかったぁ~  再開していただいて・・・
心配してました。
新曲を 手がける時 必ず、拝見させて頂いてましたので。

敬遠していた早弾き曲のひとつ、何度も挫折を経験いた後、頑張りました。
まだ、楽しむまではいきませんが、何とか 弾けるようになりました。
謝名、宇地泊はどのあたりでしょうか?
島?地名?
谷茶の近くかな?
Posted by あーちゃん at 2010年03月18日 23:09
ご活用ありがとうございます。
「うのみ」にされないで、ひとつの参考になさってくださると幸いです。

「しま」は、アイランド(島)ではなく、村、地名だとご理解ください。
実際にどこをさしているのか、私にもわかりません。
が、現在の宜野湾市に両方の地名があります。
すこし離れていますね。

楽しめるようがんばってください。
Posted by たる~ at 2010年03月25日 14:45
たる一さん、
おはようございます。
沖縄民謡のことを詳しく勉強されているお方だと思いました。タルーさんの研究会の貢献は、琉球文化を次の世代への素晴らしい贈り物となるでしょう。

私は沖縄生まれ19才まで、沖縄は旧具志川市(現在うるま市)で育ち、32年間アメリカでした。去年沖縄に戻り今年の末には又アメリカかも知れません。最近、沖縄民謡に興味を持ち出した私ですが、たるーさんと良い交流で来たら良いなと望んでいます。私のプロファイルはFBでもどらんになれますよ。ヨロシクお願い致します。
Posted by Isao Nago at 2011年12月18日 13:44
Isao Nagoさん

コメントありがとうございます。

いろいろな人生があるのですね。

FBにはぜひ行ってみたいと思います。

ありがとうございました!
Posted by たる一たる一 at 2011年12月22日 00:01
三下げにすると七の音が変だなと思ってつまづいておりました。

七のポジションは七と八のあいだくらいでしょうか??

とりあえず歌を覚えようと思ってこのブログに行き着いたのですが、知れて良かったです!
Posted by えみっち at 2015年10月19日 00:31
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