2009年05月29日

すーり東

すーり東
すーりー'あがり
suurii 'agari
語句・すーりー 囃子言葉。「それ」と表記されている古典本もある。「sore→(三母音化)→suri」・あがり 東。「すーり東うち・・・」の歌の「すーり東」だけをとって題名にしたもの。


一、スーリ東 うち向かて飛ぶる綾蝶(すーりさーさー しゅらさ はいや)
すーりー'あがり うち'んかてぃ とぅぶる 'あやはびる(すーりーさーさー しゅらっさ はいや)
suurii 'agari uchi'Nkati tuburu 'ayahabiru (suurisaasaa shurassa haiya)
さあ 東に向かって飛んでいる美しい蝶よ
語句・あやはびる 「蝶の美称。美しい蝶。」【沖】。「はべる」ともいう。(沖縄語にはかなり珍しい短母音の「e」が含まれている語句。)

  
二、スーリ先じゆ待て蝶 伝い我ね頼ま
すーりまじゆ まてぃはびる  'いやい わねたぬま
suuri majiyu mati habiru 'iyai wane tanuma
さあ しばらく待て蝶よ 伝言を私は頼みたい
語句・まじゆ まず。しばらく。<まじ まず。+ ゆ 「強意の虚辞」【琉辞】。・いやい 「伝言。ことづて。言い遣りの意」【沖】。八重山では「いやり 'iyarï」。


三、スーリ東 明がりば 墨習が行ちゅん
すーり'あがり 'あかがりば しみなれが'いちゅん
suuri 'agari 'akagariba shiminare ga 'ichuN
さあ 東が明るくなったので 学校に行く
語句・しみなれ 学校。<しみ 学問。+なれー 習い。 ・ に。



四、スーリ東頭結うて給れ 我親加那志
すーりあがり かしらゆてぃたぼり わうやがなし 
suuri 'agari kashira yutitabori wauya ganashi
さあ (東) 頭を結ってください 私のご両親様
語句・あがり この歌詞の「東」に意味はない。元の琉歌は「東明がりば墨習が行ちゅん 頭結て給れ 我親加那志」。これを上、下句にわけて歌われるが、下句は打ち出しが「スーリ頭」になるのが自然。しかし「スーリ東」と歌われる。下の六番も同様。


五、スーリ東 立雲や世果報しにゆくゆい
すーりあがり たちぐむや ゆがふしにゅくゆい
suuri 'agari tachigumu ya yugahu shinyukuyui
さあ、東の立ち雲は豊年満作を準備しており
語句・しにゅくゆい 準備しており <しにゅくゆん  苦労して準備すること 「・・ゆい」という形になるのは「弱変化の連用形」【琉辞】。



六、スーリ東遊びしにゆくゆる 二十歳美童
すーり'あがり 'あしびしにゅくゆる はたちみやらび
suuri 'agari 'ashibi shinyukuyuru hatachi miyarabi
遊びを準備する二十歳娘
語句・あしび 「遊び;(仕事を休んで行う)祭事などの歌舞[演芸];歌・三線や踊りを楽しむこと。」【琉辞】。もちろん「毛遊び」(もーあしび)などの庶民の遊びから神事などの公式な行事も含まれる。ここでは「豊年祭り」を意味していると思われる。


七、スーリ何がし綾蝶 紅葉に宿る
すーり ぬがし'あやはびる むみじばにやどぅる
suuri 'agari nugashi 'ayahabiru mumijiba ni yaduru
さあ どうして美しい蝶は落ち葉に止まるのか
語句・むみじ 落ち葉。「紅葉〔沖縄では紅葉する木は(櫨[はぜ]以外には)ほとんど無い〕;落葉;〔比喩的に〕落命」【琉辞】。つまり「紅葉(もみじ)」ではなく落ち葉。これは下句(八番)を見ればわかる。
 

八、スーリ東頼む花ぬ上や 嵐やたみ
すーりたぬむはなぬ'うぃや 'あらしやたみ
suuri tanumu hana nu 'wi ya 'arashi yatami
さあ 頼りにする花の上は嵐であったのか?
語句・たぬむ 頼りにする。<たぬむん 頼む。頼りにする。あてにする。・うぃ 上。<'
うぃー 'wii ←ヤマトゥンチュは発音に注意したい。「ういー」(3文字)ではなく「うぃー」(2文字)。琉歌では「うぃ」(1文字)。・やたみ だったのか?<やん ある。過去形 やた +み 疑問。



九、スーリ無蔵や牡丹花 我身や綾蝶
すーりんぞやぶたんばな わみや'あやはびる
suuri Nzo ya butaNbana wami ya 'ayahabiri
さあ 貴女は牡丹花 私は美しい蝶


十、スーリ花ぬ ゆらりゆみ我が忍で行ちゅさ
すーりはなぬ ゆらりゆみ わがしぬでぃ'いちゅさ
suuri hana nu yurariyumi wa ga shinudi 'ichusa
さあ 花が寄ることはできまい 私が忍んで行くよ


十一、スーリ花に来て止まる春ぬ綾蝶
すーりはなにちてぃとぅまる はるぬ'あやはびる
suuri hana ni chiti tumaru haru nu 'ayahabiri
さあ 花に来て止まる 春の美しい蝶



十二、スーリ我肝うみとぅまり無蔵が心
すーりわちむ 'うみとぅまりんぞがくくる
suuri wachimu 'umi tumari Nzo ga kukuru
さあ 私の心留めておけ 貴女の心
語句・うみとぅまり 留めておけ。<うみとぅまりゆん 思いを留める。命令形。




個人的な話で恐縮だが、昨日「新良幸人」さんのライブにでかけた。
そこで彼のお得意「胡蝶の唄」を聴いた。

「貴女は花、私は蝶、ふたりは結婚を近いあったけど、向こうの両親に反対されているの。でも・・・」
可笑しくも、みごとなストーリー展開で「胡蝶の唄」をステージで解説してくれた。

この「スーリ東」と「胡蝶の唄」は兄弟のような唄。

でも、だから、「スーリ東」なのではない。
私も「広島エイサー琉風会」の地謡でよくこの「スーリ東」を歌っているが、まだ解説をしていなかった。

そこで「スーリ東」、そしてそれにつながる唄を調べてみたい。


題名「すーり東」とは

一番の囃子「すーり」と歌詞の頭「東」をあわせて、題名になったもの。
唄の題名のつけかたには

①囃子言葉由来と思われるもの (デンサー節、ジントヨー節、スンサーミなど)
②一番の歌詞の歌いだし(唐船ドーイ、嘉手久、アッチャメー小、すーり東など)
③唄のテーマや地名(上り口説など口説類)
などがあるが、この曲は歌いだしであろう。

構成

琉歌の上句、下句で、一番、二番という構成。

したがって一番、二番をあわせると(【】は文字数)

東うち向かて【8】 飛ぶる綾蝶【8】 先じゆ待て蝶【8】 伝い我ね頼ま【8】

これはサンパチロク(8 8 8 6)という琉歌構成より2文字多い。
普通の琉歌なら、最後の6文字の字足らずを補うため、繰り返しをする場合が多いが
ここでは上句と同じ8文字なので繰り返しが不要。おそらく、文字数からみると「わね」(2文字)
が後から挿入されたのではないだろうか。

三番、四番も同様に文字が多いが、こちらは

東明がりば【8】 墨習が行ちゅん【8】 〔東〕頭結うて給れ【11】 我親加那志【6】

下句に「東」をいれると字あまりになっている。意味も「東」にはない。
「東」は「スーリ」との関係で後から入ってしまったものだろう。

六番も同様に、「東」が入っている。
これも「東」に意味はなく
字数をみると
遊びしにゆくゆる【8】 二十歳美童【7】
となって最後が字あまりである。
しかし、これは
「美童」を「みやらび」と4文字で読んでいるためで、「みゃらび」と読めば3文字となり合計6文字となり
問題はない。「琉歌大成」にある琉歌では

あがり立つ雲や世果報しによくゆり 遊びしによくゆる 二十めやらべ
agari tatsu kumuya shinyukuyui asibi shinyukuyuru hatachi myarabi

下線にあるように「みゃらび」と読ませているようだ。

蝶について

蝶は「【古語でhabiru,haberuとも】;はべる『混効験集』」【琉辞】。
つまり、はべる haberu」「はびる habiru」どちらでもよいわけだ。
ちなみに『混効験集』は沖縄で最も古い辞書だ。

沖縄に限らないが蝶は「無くなった人の魂」、あの世とこの世を繋ぐものというとらえかたがあるという。
そして、新良幸人さんの解説にもあるように、自分を蝶、貴女を花にたとえ恋の比喩ともなる。

古典の「蝶小節」や八重山の「胡蝶の唄」もみてみたい。




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Posted by たる一 at 14:50│Comments(2)さ行
この記事へのコメント
おはようございます。

おもしろいブログ見つけてしまいました。
これからよろしくお願いします。

いろいろ発見できました(*^。^*)
ありがとうございます♪
Posted by テーピングアドバイザーの松田です☆OKINAWATEX☆ at 2009年06月10日 07:33
テーピングアドバイサーの松田さん(でよろしいでしょうか?)

はじめまして。

面白いとお褒めいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。
Posted by たるー at 2009年06月15日 23:21
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