2008年10月18日

丘の一本松

丘の一本松
[おかのいっぽんまつ]
([ ]は大和口)


作詩 上原直彦
作曲 普久原恒勇


(セリフ)
(主) ぬーがひゃーくまー うふとぅるばいし遊どーてぃ 物ぬ喰まりーねー 皆遊ぶんどーひゃー おーい
ぬーが ひゃー くまー 'うふとぅるばいし 'あしどーてぃ むぬかまりーねー んな'あしぶんどー ひゃー おーい
nuu ga hyaa kumaa 'uhuturubaishi 'ashidooti munu kamariinee Nna 'ashibuNdoo hyaa ooi
何だお前!ここでまったくぼんやりして 遊んでいておまんま食べられるなら皆遊ぶんだよ 違うか?
語句・ひゃー 野郎。やつ。・うふとぅるばいし まったくぼんやりしている様子をして <'うふ 大。 + とぅるば<とぅるばゆん 「ぼんやり[ぽかんと]する。」(琉)。 +し <しゅん。する。 ・ねー ・・なら ・おーい 「おお」は「目下の年長者に対する肯定の返事」(琉)。に疑問の「い」がついて「そうです よな?」から「違うか?」くらいの意味。


 
(良助)フン!やな主小や 人ぬ面見じゅし とーまじゅーん しぐゴー口な!
ふん やなすーぐゎー や ふぃとぅぬちら んじゅし とーまじゅーん しぐ ごーぐちなー
huN yana suugwaa ya hwitu nu chira Njushi too majuuN shigu googuchi naa
ふん!嫌なお父様だ!人の顔見るやいなや すぐ苦情だね! 
語句・んじゅし <んじゅん 見る。 +し ・・して。 ・とー さあ。・まじゅーん 一緒に。 「とー まじゅーん」で「・・するやいなや」くらいの意味か。・ごーぐち 苦情。


(主)ぬーやん!
ぬーやん
nuu yaN
何だ 
語句・。やん ・・である。


(良助)ぬーんあらん!
ぬーん 'あらん
nuuN  'araN
何でもない 


(唄)
北谷桑江ぬ前ぬ 村はじし 渡久地小ぬ カンジャー屋よ
ちゃたんくぇーぬめーぬ むらはじし とぅぐちぐゎーぬ かんじゃーやーよー
chataN kwee nu mee nu mura hajishi tuguchigwaa nu kaNjaa yaa yoo
北谷桑江の前の村はずれ 渡久地生まれの鍛冶屋だよ 
語句・はじし はずれ。 ・ ・・生まれ


親子揃りとーてぃ 古金打ちゃい 馬ぬ爪くまちゃい 見事なむんさみ
'うやっくゎすりとーてぃ ふるがに'うちゃい 'んまぬちみくまちゃい みぐとぅなむんさみ
'uyakkwa suritooti hurugani 'ucchai 'Nma nu chimi kumachai migutuna muN sami
親子揃って古金打ったり 馬の爪はかせたり 見事なものであるぞ
語句・くまちゃい はかせたり。 <くぬん 履く。 →くま + ちゃい ・・したり。


アネ! 良助 評判どー 村中他島までぃ 音ぬ立っちょんどー
'あね [りょうすけ] [ひょうばん]どー むらじゅう たしままでぃ 'うとぅぬたっちょんどー ([ ]は大和口)
'ane  [りょうすけ] [ひょうばん]doo murajuu madi 'utu nu tacchoN doo
あれ! 良助 評判だぞ 村中 他島まで 評判が広がっているぞ


(セリフ)
(主)やな童たーが くさ物言しーねーくさぶくるる タタチいぇーさりーんどーひゃー
やなわらばーたーが くさむにーしーねーくさぶくる るたたちぇーさりんどーひゃー
yana warabataa kusamunii shiinee kusabukuru ru tatacheesariN doo hyaa
嫌な子ども達はませた言い方すると ませたせいで叩かれるんだぞ おまえ!
語句・くさむにー ませた言い方。・くさぶくるる ませたせいで。<くさぶくる <くさぶっくぃゆん ませる。こまっしゃくれる。 + る=どぅ ・・のために。


(良助)あんしぇーんちゃ いち迄んわらび 鼻たりてー居らんてぃん 鼻だやーわらばーなー我んねー
'あんしぇー んちゃ 'いちまでぃん わらび はなたりてぃうらんてぃん はなだやーわらばー なー わんねー
'aNshee Ncha 'ichimadiN warabi hanataritiuraNtiN hanadayaa warabaa naa waNnee
そうすると なるほど いつまでも子ども。鼻タレてはいなくても鼻タレ子どもね 私は。
語句・んちゃ なるほど。 ・はなだやー 鼻タレ。


(主)あったいめー いゃーやれー 三十なてぃん 五十なてぃん 鼻だやーてー フン!
'あったいめー 'やーやれー さんじゅーなてぃん ぐんじゅーなてぃん はなだやーてー ふん
'attimee 'yaa yaree saNjuu natiN guNjuu natiN hanadayaatee huN
あったりまえ!お前なら 三十になっても 五十になっても鼻タレよ ふん
語句・あったいめー おそらく大和口の「当たり前」「あったりめー」の沖縄口であろう。 ・やれー ・・であれば。・てー よ。文末助詞。 


(唄)
主や頑固主小 子上ったむん ゴーグチヒャーグチ するうちなかいん
すーやぐゎんくーぐゎー っくゎー'あがったむん ごーぐちひゃーぐちする'うちなかいん
suu ya gwaNkuugwaa kkwaa 'agattamuN googuchihyaaguchi suru 'uchinakaiN
お父さんは頑固もの 子はさらに上 不平不満言い合いするうちにも
語句・あがったむん <あがゆん 「それより上を行く悪さ」のように使う。父さんより頑固者という意味。


打ちゅる鍬ヒーラー 汗はい水はい 打っちゃいたたちゃい うみはまらんでー
'うちゅるくぇーひーらー 'あしはい みじはい 'うっちゃいたたちゃい 'うみはまらんでぃ
'uchuru kwee hiiraa 'ashihai mijihai 'ucchai tatachai 'umihamara Ndi
打つ鍬(クワ) へら 汗水流して 打ったり叩いたり 励もうと
語句・あしはいみじはい <あし 汗 + はい<はゆん 出る。 「みじはい」も同じ。・うみはまらんでぃ <うみはまゆん 励む。 + んでぃ ・・と。


アネ! 良助 主どーひゃー 親るやっさい にじーるすんどー ゲーんすなよーやー
'あね [りょうすけ] すーどーひゃー 'うやるやっさい にじーるすんどー げーんすなよーやー
'ane [りょうすけ] suu doo hyaa 'uya ru yassai nijii ru suNdoo geeN suna yoo yaa
おい!良助 お父さんはな お前 親であるから 辛抱するんだぞ 反抗するなよねえ
語句・にじー 辛抱。<にじゆん 辛抱する。語幹に「i」が付いて名詞化。・げー 反抗。


(セリフ)
(良助)やな頑固主小や いかなしとぅん曲らんどぅあくとぅや! 家ぬ金どぅんやれー たっぴらかしどぅんしーねー曲ゆんてー
やなぐゎんくーぐゎーや 'いかな しとぅん まがらん どぅ 'あくとぅや やーぬかにどぅんやれー たっぴらかしどぅんしーねー まがゆんてー
yana gwaNkuugwaa ya 'ikana shituN magaraN du 'akutu ya yaa nu kani duN yaree tappirakashi duN shiinee magayunntee
嫌な頑固もんだ どんな姑でも曲がらない悪い者だ! 家の金属でも 叩いて平たくすれば曲がるんだって


(良助)やぐとぅんでち どぅーぬ親たっぴらかする訳にん いかんあい まーがらんち安売し ちゅーがやーなー
やぐとぅんでぃち どぅーぬ'うやたっぴらかするわちぇーにん 'いかん'あい まがらんち やし'ういしちゆが やーなー
yagutu Ndichi duu nu 'uya tappirakasuru wachee niN 'ikaN 'ai magaranNchi yashi'ui shichiyuga yaa naa
だからといって自分の親を叩いて平たくする訳にもいくまい? 曲がらんといって安売りできるかねえ


(唄)
ウマ馬喰 マチャーウンチュー 又すくちなむん ガージュー馬小 うち売てぃ 若馬買いがどー
'んまばくよー まちぇーうんちゅー またすくちなむん がーじゅー'んまぐゎ 'うち'うてぃ わか'んまこーいがどー
'Nmabakuyoo machaa uNchuu mata sukuchinamuN gaajuu 'Nmagwa 'uchi'uti waka'Nma kooiga doo
馬の売買する人 マチャー(松;名前)おじさん 又おどけ者 頑固者の馬を売って若い馬買うためによ
語句・がーじゅー 頑固者。・こーいが 買うために。<こーゆん 買う。 語幹 こー +い(名詞化) + が ・・のために。→買うことのために。


ぬーが馬小 うすてぃんすびちん 動ちんさんある
ぬーが'んまぐゎ 'うすてぃんすびちん 'んじゅちんさん'ある
nuu ga 'Nmagwa 'usutiNsubichiN 'NjuchiNsaN 'aru
なぜ馬は押しても引いても動かないでいるのか
語句・うすてぃんすびちん <うしゅん 押す。 + すびちゅん 引きずる。(すんちゅん とも言う) ・んじゅちん <んじゅちゅん 動く。 +ん=強調。


アネ! 主よー 歩っかんしが 年やとぅいるむのー あらんさやー馬小
'あね すーよー 'あっかんしが とぅしやとぅい る むのー 'あらんさやー 'んまぐゎ
'ane suu yoo 'akkaNshiga tushi ya tui ru munoo 'araNsa yaa 'Nmagwa
ほら お父さんよ 歩かないが年はとるものではないですよね 馬(は)


(セリフ)
(主)主がゴー口するいぇーだー かしまさーあてぃん あびらちょーてぃ とぅらせー良助
すーがごーぐち するえーだー かしまさー'あてぃん 'あびらちょーてぃ とぅらせー [りょうすけ]
suu ga googuchi suru yeedaa kashimasaa'atiN 'abirachooti turasee [りょうすけ]
お父さんが苦情を言う間は うるさくても言わせておいてくれ 良助
語句・いぇーだー 間は。<いぇーだ 間。+や は。 融合して長母音。 ・かしまさー <かしまさん うるさい。・あびらちょーてぃ <あびゆん 叫ぶ。わめく。ほえる。声高に話す。 言わせて。・とぅらせー <とぅらしゅん 補助動詞で・・・してやる。また接続形に付いて命令形で・・しておくれ。→あびらちょーてぃ(わめく の接続形) + とぅらし (しておくれ)+よ 融合→ とぅらせー →言わせてくれ。


(良助)主よー今からーくぬ一本松とーゐぬむん 主やシミ縄かきてぃ まちとーちゅさなー
すーよー なまからーくぬ[いっぽん]まちゃーとぅ いぬむん すーやしみなわかきてぃ まちとーちゅさなー
suu yoo nama kara kunu [いっぽん]machaa tu inumuN suu ya shiminawa kakiti machitoochusa naa
お父さんよ 今からこの一本松と同じように お父さんはシメ縄をかけて 祀って(待って?)おいてよね
語句・いぬむん 同じもの、・・と同様に。<いぬ 同じ +むん もの。 ・まちとーちゅさ
<まちゆん 祀る。 → まちとー 祀っていて + うちゅん ・・しておく。→ うちゅ していて (まちゆん ではなく まちゅん かもしれない。待っていておいてよね)


(主)あんしとぅらしぇー!
'あんしとぅらしぇー
'aNshiturashee
そうしておくよー


(唄)
年小とぅったる一本松 物知りむん 金あちさるうちうてぃ 打てぃわるたむちどー
とぅしぐゎとぅったる[いっぽん]まちゃー むぬしりむん かにー'あちさる'うち'うてぃ 'うてぃわる たむちどー
tushigwa tuttaru [いっぽん]machaa munu shirimuN kanii 'achisaru 'uchi 'uti 'utiwaru tamuchi doo
年を取った一本松は物知り者 金属は熱いうちに打って 打ってこそ長持ちさせろよ
語句・わる ・・ばこそ <わ ば。 + る=どぅ こそ ・たむちゅん <たむちゅん 長持ちする。命令形。


主がぬらいし あんまーが語ゆし 親まさいん子ぬ
すーがぬらいし 'あんまーがかたゆし 'うやまさいんっくゎぬ
suu ga nuraishi 'aNmaa ga katayushi 'uya masaiN kkwa nu
お父さんが叱って お母さんがさとして 親より勝る子どもが
語句・ぬらいし <ぬらゆん 叱る。


アネ! 良助なー 一ちばい ん孫んみしりよーや 主がしかすんどー
'あね [りょうすけ]なー ちゅちばい 'んまがん みしりよーやー すーがしかすんどー
'ane [りょうすけ] naa chu chibai 'NmagaN mishiri yoo yaa suu ga shikasuN doo
ほら 良助 もうひと頑張り 孫を見せろよね お父さんがあやすよ
語句・しかすん <しかしゅん あやす。


芝居は大宜見小太郎作。
沖縄県の「Wonder Okinawa」の「沖縄の芝居」によると

「昭和16年の終りごろ、大阪で初演。大阪で見た芝居『丘の一本杉』を沖縄風にアレンジし北谷方言でやったところ、大ヒットにつながった。」

題名が大和口であることが、本土の芝居をモチーフにしていることを示している。

親子の葛藤は、先祖崇拝、儒教の影響が強い沖縄であっても近代化していくうちに
どうしてもぶつかる問題。
頑固な親と、反発する子ども。その葛藤をユーモラスに描いていく。

テーマソングは作詩が上原直彦 、作曲は普久原恒勇と名コンビ。
オリジナルでは三下げだが、本調子でも親しまれている。




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