2009年01月09日

あら不思議宮古根~かいされ (沖縄狂歌)

あら不思議宮古根 
[あら不思議]なーくにー
'ara hushigi naakunii
語句・あらふしぎ 文字通りの「あら不思議」という意味だろう。ちなみに「あら」には「初めての」という意味があるが。また「不思議」はウチナーグチでは「ふしじ」と発音。この唄では多様な人生の理不尽さを表しているように思えるのであえてこのまま使う。


唄三線 ザ フェーレー
語句・ふぇーれー 山賊。


宮古根

一、出じゃる三月に あら不思議さりてヨ (とーんまやさ とーうりやさ)五月の今も歩み苦りさ(あり小さんねー面ふっきてぃ くり小しーねー腹ふっきてぃ) 
'んじゃるさんぐゎちに[あら不思議]さりてぃよー (とー 'んまやさ とー'うりやさ)ぐんぐゎちぬなまん'あゆみぐりさ('ありぐゎさんねーちらふっきてぃ くりぐゎしーねーわたふっきてぃ)
'Njaru saNgwachi ni 'ara hushigi sariti yoo (too 'Nma yasa too nama yasa) guNgwachi nu namaN 'ayumigurisa('arigwa saNnee chira hukkiti kurigwa shiinee wata hukkiti)
去る三月に「あら不思議」されて (さあ あんただよ、さあその人だよ)五月の今も歩きずらい(あの子しなければ顔ふくれて、この子したら腹ふくれて)
語句・んま あんた。 ・うり 彼。その人。 ・わた 腹。 



二、あら不思議我蕾しんそちゃる人や 隣村やてれ 恩義そしが(ちりビラ畑ぬ赤みみじゃ フクシンかんとてぃ下ムクムク)
[あら不思議]わちぶみしんそちゃるふぃとぅや とぅないむらやてれ うんじそしが(ちりびらはたきぬ'あかみみじゃ ふくしんかんとぅてぃしちゃむくむく
'ara hushigi waa chibumi shiNsoocharu hwitu ya tunai mura yatere 'uNji soshiga ( chiribira hataki nu 'akamimijaa hukushiN kantoti shicha mukumuku)
[あら不思議]私の蕾(不明)した人は隣村であっても 恩義をするが (ニラ畑の赤ミミズ フクシン(不明)噛んで下ムクムク)
語句・しんそちゃる 不明。 ・チリビラ ニラ。 ・ふくしん 不明。



綱引きの夜にあら不思議さりて かぬちぼーがやたら うちちなとさ(ぐそーやありんあみあんま バーキばかいどやんてぃんど)
ちなふぃちぬゆるに あらふしぎさりてぃ かにちぼーがやたら うちちなとさ (ぐそーや 'ありん'あみ 'あんま ばーきばかいどどぅやんてぃんど)
chinahwichi nu yuru ni 'ara hushigi sariti kanuchiboo ga yatara 'uchichi natoosa (gusoo ya 'ariN 'ami 'aNmaa baaki bakai du yaNtiN doo)
綱引きの夜にあら不思議されて貫木(かぬち棒)であったのか 内出血になっているよ(あの世はあれもあるのかい?母さん 笊(ざる)ばかりしかないよ〔または〕笊計りしかないよ)
語句・かぬちぼー  「綱引きの雄綱と雌綱を繋ぎとめる棒」(琉) 「かにちぼー」ともいう。閂(かんぬき)から来ている。 ・やたら  ・・であろうか?。 ・うちち 打撲傷。内出血。 ・ぐそー あの世。「後生」から。「ぐしょー」ともいう。



四、初めてぃどやくとぅ たんきりよさしが 情けねんあふぃ小ぐふぃな不思議 (ちりみぬたんてぃーありゆーばん ありゆーばんぬんわたみちゅみ にーさん まーさん いりらちかみ とー今やさ)
はじみてぃどぅやくとぅ たんきりよ さしが なさきねん 'あふぃぐゎ ぐふぃな ふしぎ (ちりみぬたんてぃー 'あり ゆーばん
hajimiti du yakutu taNkiri yo sashiga nasakineN 'ahwigwa guhwina hushigi (crimi nu taNtii 'abi yuu waN 'abi yuu waNnuN watamichumi niisaN maasaN 'irirachikami too nama yasa)
初めて会ったので 「お大事に」と言ったが 情けのない兄さん そんなにたくさんの不思議 (切れ目の種まき あの夕飯 あの夕飯でもおなか一杯になるか?まずい おいしい(と云って)お代わりを頼めるか?さー今だ)



やーからすみ わんからすみ やーからしーねー わんねーちゃーすが でぃーあんせー交代交代
やーからすみ わんからすみ やーからしーねー わんねーちゃーすが でぃー'あんせー こーたいごーたい
yaa kara sumi waN kara sumi yaa kara shiinee waNnee chaasuga dii 'ansee kootai gootai
お前からするか 私からするか お前からすると 私はどうするか さあだから交代交代



かいされ


一回小どさしが 世間しりわたてしみたしが 不足ジントーヨー さしが迷惑スラヨジントヤルハジド
ちゅけんぐゎどぅさしが しきんしりわたてぃしみたが ふすく (じんとーよー) さしがみわく (すら じんとーよー やるはじどー)〔括弧は以下省略〕
chukeNgwa du sashiga shikiN shiriwatati shimitaga husuku sashiga miwaku
一回だけしたけれど世間に知り渡ってしまったが あやまちをして不名誉
語句・ちゅけん <ちゅけーん 「けーん」は回の意味。一回。 ・ふすく 「①不足。足りないこと。②落度。あやまち。③神仏・祖先の祭祀を怠ること」(沖)。・みわく <みーわく。 「不面目。不名誉。恥さらし。」(沖)。



海のガマガマや タコの住み所 姉小ガマガマや 二才が住家
'うみぬがまがまや たくぬしみどぅくる 'あんぐゎがまがまや にせがしみか
'umi nu gamagama ya taku nu shimi dukuru 'aNgwa gamagama ya nise ga shimika
海の穴(洞窟)は蛸の住むところ 姉さんの穴は青年の住み家
語句・がま 洞窟。ほら穴。「ガマガマ」と重ねたのはゴロあわせだろう。



あら不思議ちぶみ やでどぅふぎやびる 痛まなあかりゆみ たいが仲や
'あらふしぎちぶみ やでぃどぅふぎやびる 'いたまな 'あかりゆみ たいがなかや
'ara hushigi chibumi yadi du hugiyabiru 'itamana 'akariyumi tai ga naka ya
あら不思議 蕾 痛くしてこそ穴があきます 痛まなければあかないでしょう 二人の仲は
語句・やでぃ <やぬん 痛い。 連用形。 ・ふぎやびる <ふぎゆん (穴が)開く。九州、宮崎では「ほげる」という。同系。 + あびーん 丁寧。


いくさしぬじゅんでぃ ガマに隠りたれ あら不思議 さりてぃ あぃえな ゆくんいくさ
'いくさしぬじゅんでぃ がまにかくりたれ 'あらふしぎさりてぃ'あいえな ゆくん 'いくさ
'ikusa shinujuNdi gama ni kakuritare 'ara hushigi sariti 'aienaa yukuN 'ikusa
戦争をしのごうと洞窟に隠れたら あら不思議をされて あら困った!ひどくなる戦争
語句・しぬじゅ <しぬじゅん しのぐ。避ける。・んでぃ ・・と。・かくりたれ <かくりゆん 隠れる。 過去形 かくりた +れー <り +や ・・たら。 隠れたら。 ・あいえな 困ったときなどにつかう感嘆詞。 ・ゆくん <ゆく 副詞 もっと。 +ん もっと。一層。



赤火なるまでぃん ちぶみ花散らち しなさきぬ言葉てぃーちんねーらん
'あかびなるまでぃん ちぶみばなちらち しなさきぬくとぅば てぃーちねらん
'akabi narubadiN chibumi bana chirachi shinasaki nu kutuba tiichi neraN
赤い火になるまでも蕾花を散らせて やさしい言葉の一つもない



(囃子)スラヨ やり袴ぬ裾 うぇんちゅぬうちゅくゎてぃ 天井までぃすんちゃー からから
すらよ やりばかまぬすす 'うぇんちゅぬ'うちくゎてぃ てぃんじょーまでぃ すんちゃーからから
surayoo yaribakama nu susu 'weNchu nu 'uchi kwati tiNjoo madi suNchaa karakara
愛しい人よ 破れ袴の裾 ネズミがかじって 天井まで引きずる者 (からから 不明)
語句・やり <やりゆん 破れる。 ・すんちゃー <すんちゅん 引きずる。→すんちゃー 引きずる人 (「馬車すんちゃー」馬車曳き。)  


狂歌とは、江戸時代中期に流行した社会風刺やパロディーを主にした短歌。
琉歌(8,8,8,6文字)で表現した沖縄の狂歌もある。

ここにあるのは男女の機微、下ネタ、戦争風刺などなど。
フェーレーのCDに「あら不思議宮古根」として収録されている。

「あら不思議」は意味深である。
それぞれの歌に「あら不思議」でさす事柄が違うので、具体的な訳は避けた。
もちろん私の力量不足もあるのだが、読者のみなさんがそれぞれ意味を想像していただけたらよいと思う。

しかし、狂歌が人々の笑いを誘い、納得を誘うためには
曖昧な表現とは正反対に、あらわれてくる事実は的確でなければならない。

「あー、あのことか!」「うんうん、そうだ」と人の共感を生むからこそ
その歌がいまだに伝わっている。
伝わるが、ある人々にはまったく意味がわからない。
だから「狂歌」といわれるのだろう。

かいされーの
いくさしぬじゅんでぃ ガマに隠りたれ あら不思議 さりてぃ あぃえな ゆくんいくさ

この歌、ヤマトゥンチュに向けて歌われているいるのではないことははっきりしている。
しかし、あの戦争で日本軍が沖縄の人々にしたことは「あら不思議」だったのだ。

圧倒的な米軍の戦力を前にガマに逃げ入る沖縄の住民。
日本軍もガマに逃げ込んだ。そこでの出来事は
映画「GAMA 月桃の花」でも描かれているが
人々はガマから追い出され、暴力を振るわれた。

戦争からのがれて逃げ込んだ、でも戦争は激しくなった。
「いくさ」にはじまり「いくさ」に終わる歌。

ヤマトゥンチュの私たちに向けた歌詞ではないだけに
逆に胸につきささる。

その前後の歌詞も意味深。
色気のある唄ととるべきか、「いくさ」の歌を補完する他の意味があるのか。

笑いとは、刃物よりするどい力がある。
するどい刃物でも人の心にはとどかない。
笑いには、時代を超えて人の心を押し開く力があるのかもしれない。

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Posted by たる一 at 11:38│Comments(0)あ行
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