2006年01月31日

ヤッチャー小

ヤッチャー小
やっちゃーぐゎー
yacchaa gwaa
お兄さん
語句・やっちゃーぐゎー 「やっちーyacchii」は士族の「お兄さん」の意味。「やっちー」(お兄さん)を親しく呼ぶ愛称化(お兄ちゃん)。たとえば「しーし(獅子)shiishi」は像になると「しーさー shiisaa」。


一、ヤッチャー小志情ど(さーよ)頼む(ヨ)情ねんヤッチャー小 頼みぐりしゃ
やっちゃーぐわーしなさきどぅたぬむ なさけーねーん やっちゃーぐわーたぬみぐりしゃ(括弧は以下省略)
yacchaagwaa shinasaki du tanumu nasakee neeN yacchaagwaa tanumigurisha
お兄ちゃん(には)情こそ頼む 情の無いお兄ちゃんは頼りずらい
語句・しなさき 情。 思いやり。情愛。 ・たぬむ 頼む、頼る <たぬむん  ・ぐりしゃ しにくい。


二、アン小達歌小てぃら(さーよ)ものや(ヨ) 深山鴬のふきるぐとさ
'あんぐわーたー'うたぐわーてぃらむぬや みやま'うぐいしぬふきるぐとさ
'aNgwaataa 'utagwaa tira munuya miyama'uguishi nu hukirugutoo sa
姉さん達の歌というものは深山鴬のさえずるようなものさ
語句・てぃらむぬ というものは。 ・ふきるぐとー ふきる<ふきゆん さえずる+ぐとー ごとく。連体形の後につく。


三、 一期何時までもくまに居ら(さーよ)りゆみ(ヨ) うみはまて里前救てたぼり
'いちぐ'いちまでぃん くまに'うらりゆみ 'うみはまてぃ さとぅめ すくてぃたぼり
'ichigu'ichi madiN kumani'urarijumi 'umihamati satumee sukuti taboori
一生いつまでもここに居られまい?がんばって貴方私を救ってください
語句・いちぐ 一生涯、一期、一生。 ・くま ここ。 ・'うらりゆみ 居られまい? 居られない。 ・'うみはまてぃ はげむ 熱心に。


四、ちゃーすが思切らね(さーよ)なゆみ(ヨ) 例い志情や残てうてん
ちゃーすが 'うみちらねなゆみ たとぅいしなさきやぬくて'うてぃん
chaasuga 'umichirane nayumi tatui shinasaki ya nukute 'utiN
どうしてあきらめたいとなるのか?たとえ情けは残ってはいても
語句・ちゃーすが どうするか どうやって。 ・'うみちらねなゆみ <うみちら あきらめたい。 + ねー <に+や には。+なゆみ なるか?


五、行ちゅんな 行ちゅくとる(さーよ)立ちゅる(ヨ) 島んぞて胴一人小悔やで泣くな
'いちゅんな 'いちゅくとぅるたちゅる しま'んぞてぃどぅーちゅいぐゎ くやでぃなくな
'ichuNna 'ichukutu ru tachuru shima 'Nzoiti duuchuigwaa kuyadinakuna
いくのかい? 行くのだから旅発つのだ 村を出て自分ひとり悔やんで泣くな
語句・いちゅんな <いちゅんなー 「なー」は「のかい?」。・くとぅ だから。・んぞてぃ おそらく「んじゅん」(出る)の活用形。 (出て)なら「んじてぃ」だが、何故「Nzoti」になるかは不明。


六、喰はんさが飲みはんさ やーし小の酒も飲みはんち あぬひゃーカマド小も妻にしはんち
くぇーはんさがぬみはんさ やーしぐわーぬさきんぬみはんち 'あぬひゃーかまどーぐわーんとぅじにしはんち
kweehaNsa ga numihaNsa yaashigwaa nu sakiN numihaNhaNchi 'anuhyaa kamadoogwaaN tuji ni shihaNchi
食べ損ないが飲みそこない 椰子の実の瓶の酒も飲みそこない あいつカマドーちゃんも妻にしそこなった
語句・はんさ <はんしゅん 「外す。処理する」「(し)そこなう」【琉辞】。 「aa」がついて「しそなった人、しそこない」の意味。 ・やーしぐゎー 「椰子の実。実の外側のからは酒をいれる器として珍重されている」【沖縄語辞典】 ・'あぬひゃー あいつ。



「宮古根」系の唄。それほど古い唄ではないのではないか?
個々の歌詞も連携があるのではなく独立している。

琉歌のサンパチロクになっているのは三番だけ。ほかはサンパチロクを無視ししている。
そして、1番から5番までは同じ箇所に「サーヨ」と「ヨー」の囃子言葉がはいるが、6番は入らず、その部分にも歌詞が入る。
6番が一番歌うのが難しい。

それから三線の音がおもしろい。
三下げだが、尺が低い尺(シ♭)と高い尺(シ)の二つがでてくる。
中が前後にある尺は低い尺(シ♭)。
「老尺七」という音配列は、めずらしい。

宮古根のように、歌詞は自由に並び替えたりもできるので
ひとつのストーリーを述べた唄というより、個々の歌詞の意味と、その並べ方の面白さを味わうのではないか。

6番の「ヤシの実」でできた酒の入れ物が東京国立博物館にあり、公開されている。





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Posted by たる一 at 22:27│Comments(5)や行
この記事へのコメント
ヤッチャ~小は、最高賞の曲なんで
もっと深く意味を知って歌い込んで
いきたいと思いますよ~~

尺七と押さえる箇所は本来は続けて押さえないで
弾くところらしいのですが、現在はそのまま
くだみながら弾くそ~ですね。
Posted by MAGI at 2006年02月01日 15:16
MAGIさん コメントありがとう。
そうだよね。次の課題曲なんだね。
この唄好きだったんだけど、なかなか取り組めずにいたのだけど、これがきっかけになりましたよ。

「くだみ」って、尺を押さえた小指で七まで踏みつけにするって意味ですね。
人生ドラマチックと感じる瞬間は、この三下げの尺(高い尺)と七を弾くときです。もちろん七は高い七。四をドとしたときのシの音です。
Posted by せきひろし at 2006年02月03日 00:42
おじゃまします。9日ぶりにスー見ぃしにきました。
「行ちゅんな 行ちゅことど立ちゅる」の訳文についてですが、これまで「行くのかい そうさ 行くからこそ席を立つのだ」という内容として聞いてきました。
ですからいささかの違和感があります。
「夫婦舟」についても気になる点がありましたので、不遜ながらこの場で意見を述べさせてください。
「いちゃる波風ん共どやゆる」の箇所です。「どんな波風が吹き荒れようとも夫婦は一緒(身一つ)だよ」という意味だと思いますが、その訳では、「どんな波風も一緒→どんな波風も同じで変わりがない」と受け取られかねないように感じます。{重箱の隅を突くような、とお叱りを受けそうですが、ついでに・・・・・。
「かりゆしの港」は「極楽の港」では表現が硬すぎるように思いました。「幸せの港」といった程度の訳文でいかがでしょうか。
以上、長々と失礼しました。今後ともご健筆をふるわれますようお祈り申し上げています。
(乱筆乱文、お許しください。ここを覗きにくる時はいつもほろ酔い気分でいるものですから。申し訳ありません)
Posted by Hi Shy at 2006年02月05日 13:31
Hi Shyさん いつもありがとうございます。
とても参考になりました。

まずヤッチャー小。「こと」kutuには「ので」という意味があります。したがっておっしゃられるように「行くからこそ立つのだ」という意味が自然ですね。
歌の訳の場合、それが情景描写なのか、心情の表現なのかがわからないときがあります。また、会話ならどちらの言葉なのか・・など。そういう構造もわからないで辞書だけを片手にやっています。

「立つ」tacyuNは解説でも書いたように「立つ」以外に「発つ」「起こす」「鳴らす」「浮かぶ」・・など無数の意味が表わされるようです。
ご意見の訳参考にさせてください。

夫婦船ですが、曲によってはどこまで踏み込んで直訳から意訳に近づけるか悩むところです。
夫婦船の歌詞は断定的で直訳では誤解を生むところもありますが、直訳主義を胤森氏から学んだ私としては、文章の並びに添って訳を置いています。

「夫は帆柱に(なり)妻は船の心だ どんな波風も一緒なのだ」
と訳しましたが
この「波風」と「とぅむ」の間に(の時も)を入れて誤解を防ぎたいと思います。

かりゆしの港。
これは私はずっと糸数カメさんのテープで聞いていましたので、彼女は「ゴクラクぬんなとぅ」と歌われています。
由絃會の工工四集には歌詞で「極楽の港」と書いて「かりゆし」と振り仮名がついています。
ご意見のように「幸せ」と飛躍なしに訳したほうがいいのでしょうねえ。
ただ、私はこの歌が「時がくるまで」と人生の終焉まで歌っているので「極楽」というある意味ドキっとする表現もありかなあ、と思いました。

いろいろご意見助かります。
参考にさせていただきますね。
Posted by せきひろし at 2006年02月05日 15:02
すこし歌詞を修正し、意味を加筆しました。
Posted by たるー at 2009年08月08日 14:50
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