とーがにすぃざ節

たる一

2015年01月28日 10:39

とーがにすぃざ節
とーがにすぃざ ぶすぃ
toogani shïza bushï
語句・とーがにすぃざ 宮古民謡の「とーがに兄」(とーがにすざ)を八重山語読みしたもの。「とーがに」については不明。伝承では「中国から来たカニという青年」つまり「唐ガニ」からというのもある(「島うた紀行」第三集。仲宗根幸市編著)。「すぃざ」は、宮古語の「兄」(すざ)から、という説が有力だが、八重山語の「羨ましいなあ・いいなあ・めでたい」という意味もあるという指摘(「精選八重山古典民謡集」當山善堂編著)(以下【精選】)もある。なお八重山語の中舌母音の表記については「すぃざ」(う段中心)と「しぅざ」(い段中心)の二つがあるが、ここでは前者(う段中心)を採用。発音は同じ「shï」。


《歌詞及び発音においては「精選八重山古典民謡集」(當山善堂編著)と「八重山の古典民謡集」(小濱光次郎著)を参考にした。》


一、とーがにすぃざ 宮古ぬ清ら島からどぅ 出でぃだる とーがにすぃざよ 沖縄から八重山迄ん流行りたる とーがにすぃざよ
とーがにすぃざ みやくぬちゅらずぃまからどぅ んでぃだ とーがにすぃざよ うくぃなーからやいままでぃん はやりた とーがにすぃざよ
tooganishïza miyaku nu churazïma kara du 'Ndidaru tooganishïza yoo 'ukïnaa kara yaima madiN hayaritaru tooganishïza yoo
《下線部の発音、前掲の著書で當山氏は「る」、小濱氏は「るぃ」としている。》
トーガニ兄 宮古の美しい島からこそ出たトーガニ兄 沖縄本島から八重山までも流行っているトーガニ兄よ



二、一本松ぬよ 実ば落てー 二本生やー 唐船ぬ柱なるとぅん 貴方が上に 横肝持つぁでぬ 我やあらぬ
ぷぃとぅむとぅまつぃぬよ なるぃばうてぃ ふたむとぅむやー とーしんぬ ぱらーまるとぅん うらがういに ゆくくぃむ むつぁでぬ ばぬやあらぬ
pïtu mutu matsï nu yoo narïba 'uti hutamutu muyaa tooshiN nu paraa narutuN 'ura ga 'ui ni yukukïmu mutsadenu banu ya 'aranu
一本松の実が落ちて二本生えて唐船の柱になっても 貴方に邪(よこしま)な気持ちを持つ私ではありません



三、あねーるぃがじまる木ざーぎどぅ 髭ば下れー 石ば抱ぎ 育べー行くさー 貴方とぅ我とぅや 貴方抱ぎ我抱ぎ 育べー行からー
あねーるぃがじまるきーざぎどぅ ぴにばうれー いしばだぎ ふどぅべーいくさー うらとぅばんとぅやうらだぎばぬだぎふどぅべーいからー
'aneerï gajimarukiizagidu pini ba 'uree 'ishi ba dagi hudubee 'ikusa 'ura tu baN tuya 'ura dagi banu dagi hudubee 'ikaraa
あのようなガジュマルの木でさえ気根を下ろし石を抱き育っていくよ 貴方と私はお互いを抱いて育って行こうねえ
語句・あねーるぃ あのような。語句・ざーぎどぅ 「ざーぎ」→でさえ。・ふどぅべー 育って。<ふどぅびん。育つ。「成長する。大きくなる。『程生(お)ひる』の意。」【「石垣方言辞典」(宮城信勇著)】(以下【石辞】)。「ふどぅべーいくさ」→「そだっていくよ。」。「ふどぅべーいから」→「育っていきましょう」。「いから」いきましょう。いきたい。→希望や呼びかけ。



四、貴方とぅ我とぅや天からどぅ夫婦なりで ふき結いたぼーれーる 後から見ーりゃん 前から見ーりゃん夫婦生りばしー
うらとぅばんとぅや てぃんからどぅ みゆとぅなりで ふきゆいたぼーれーる しーからみーりゃん まいからみーりゃんみゆとぅまりばしー
'ura tu baN tu ya tiN karadu miyutu naride hukiyui tabooreeru sii kara miiryaN mai kara miiryaN miyutu maribasii
貴方と私とは天から夫婦になれと縁を結んでくださった 後ろから見ても 前から見ても夫婦として生まれているよ
語句・うら 「貴方。男女どちらからも言う。歌の中でよく使われる。対等もしくはそれ以下に対して言う。」【石辞】。・ばん 通常は「ばぬ」(私が)として使われる。・みゆとぅなり 夫婦になれ。命令形。・ 〜と。・ふきゆい 「ふき」は「境界を示すために立てる目印・しめ(標、注連)」【精選】。転じて「縁を結ぶ」。・しー 八重山語で「後ろ」



八重山の「とーがにすぃざ節」

「あやぐ節」のルーツを探して、八重山の「とーがにすぃざ節」まで来た。

前回みた本島でよく歌われている「トーガニー」が、「タウカニー節」や「トウガニー節」と同じ根を持ち、その根がどうやらこの八重山の「とーがにすぃざ節」のようである。

この「とーがにすぃざ節」の歌詞一番では

「宮古の清ら島から出たとーがにすぃざ節が、沖縄から八重山まで流行っている」

というのだから、この唄の前に宮古の「とーがにすぃざ」という唄があったことを示唆している。

歌詞を参考にした「精選八重山古典民謡集」(當山善堂 製作/編著)ではこんな「伝承」がある、と紹介されている。

「すなわち、八重山民謡の〈あがろーざ節 〉節が宮古に伝授されて〈東里真中〉となり、お返しに宮古民謡の〈とーがにしぅざ〉が八重山に伝授されて〈とーがにしぅざ〉になったという。その真偽のほどはさておき、八重山の〈とーがにしぅざ節〉と関連があると思われる宮古民謡には〈とーがに兄(すぅざ)〉と〈とーがにあやぐ〉があるが、いずれなのかは判然としない」(「精選八重山古典民謡集」〈三〉P128)

「あがろーざ節」が宮古に伝承されて「東里真中」となったという伝説には諸説あり、また「ルーツ」を巡る論争もあり定かではないが、宮古と八重山の二つの「とーがにしぅざ」は関連があると見るのは当然だろう。
《参照「あがろーざ」》


ここまでのまとめ

「昭和戦前・戦後 黄金期の名人が甦る 沖縄民謡全集」に収録されている「トウカニー節」ライナーノーツにある解説にこうあった。

「八重山民謡の『トーガニスーザー節』を元に、歌詞の後半は沖縄本島方言に書き換えられ、見事なまでに昇華させた名優、多嘉良 朝成(たから ちょうせい)(1884年〜1944年)の歌声である。この歌は後に『沖縄本島のあやぐ』『新宮古節』『中城情話』『奥山の牡丹』等すべてこの曲がもと歌であり、広い意味では沖縄民謡の代表曲『ナークン ニー』もこの曲が源である。昭和5年頃の収録。」

八重山の「とーがにすぃざ節」を聞くと、1930年頃に多嘉良 朝成氏によって歌われた「タウカニー節」の歌詞との類似、そして三線の手、工工四、メロディーもよく似ている。

ただ、それぞれの歌がいつ頃作られたものかは全くわからない。

八重山の「とーがにすぃざ節」は八重山の古い歌詞集にもみあたらない、比較的新しいのではないか、と「精選八重山古典民謡集」で當山善堂氏は述べている。


これらのことから

宮古民謡「とーがに兄」、「とーがにあやぐ」

→八重山「とーがにすぃざ節」

→本島「タウカニー節」「トーガニー節」

→?「あやぐ節」


という一応の系譜が仮定されるが、読者の皆さんはどう思われるだろうか。


宮古の「とーがに兄」、「とーがにあやぐ」や、今日歌詞にもバリエーションが本島の「トーガニー節」「トゥーガニー」、さらにはナークニーとの関連などについては今後の検討課題としたい。












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