2008年09月14日

あがろーざ節 (八重山民謡)

あがろーざ節
'あがろーざ ぶし
'agarooza bushï

《「'」は声門破裂音。「」、やか「ï」は中舌母音を表す。》


一、あがろーざぬんなかに ヤゥイ 登野城ぬんなかに ヤゥ ハリヌクガナ
'あがろーざぬ'んなかに よーい とぅぬすくぬ'んなかに よー はりぬくがな
'agarooza nu 'Nnaka ni yooi tunusuku nu 'Nnaka ni yoo hari nu kugana
東里村の真ん中に (囃子言葉) 登野城の真ん中に (囃子言葉)
(以下、囃子言葉省略)
語句・あがろーざ 「東里(あがりざと)村」という説があるがはっきりはしていない。 ・んなか 真ん中。 ・とぅぬすく 登野城。「石垣市旧四箇村の最も東の集落。かつては支庁、市役所などがあり、行政の中心地だった」【石垣方言辞典】(宮城信勇著)。・はりぬくがな 囃子言葉。「はりぬくが」と歌われる歌者もいる。


二、九年母木ば植べとぅーし 香さん木ばさしとぅーし
くにぶんぎば'いべとーし かばさんぎばさしとーし
kunibuNgi ba 'ibetooshi kabasaNgi ba sashitooshi
みかん(など柑橘類)の木を植えてあって 香り高い木が植えてあって
語句・くにぶんぎ 本島方言で「みかんなどの柑橘類の総称」。 石垣方言では「ふぬびゃーきー」という。・ を。 ・いべとーし 植えてあって。 <いびるん いびん 植える。 +し ・・して。 本島方言の「し」(「s(j)unの継続形qsiが弱まった形」(琉)」と同じ。多くの歌詞に「とぅーし」とあるが「とーし」と発音する。


三、九年母木ぬ下なか 香さん木ぬ下なか
くにぶんぎぬしたなか かばさんぎぬしたなか
kunibuNgi nu shïta naka kabasaNgi nu shïta naka
みかんの木の下に 香り高い木の下に
語句・なか に。本島方言の「なかい」と同義だと思われる。存在する場所を示している。


四、子守りゃ達ぬ揃るゆてぃ 抱ぐぃ姉達ぬゆらゆてぃ
ふぁむりゃだぬするゆてぃ だぎなだぬゆらてぃ
famuryada nu suruyuthi dagïnada nu yurati
子守り達が揃い寄って 子を抱くもの達が集まって
語句・ふぁむりゃ 子守り。<ふぁ<ふぁー 子。 + むりゃ<むりゃー 「むれー」とも言うが、「・・人」の意味の語尾を延ばす形(aa)かもしれない。・だぎ 子どもを抱くもの。「な」は「なー」(本島方言の「小」ぐゎーに相当)。「抱く」は「だぐん」。


五、子守りゃ達ぬ言葉ぬ 抱ぐぃ姉達ぬむにゃいぬ
ふぁむりゃだぬくとぅばぬ だぐなだぬむひゃいぬ
famuryada nu kutuba nu dagïnada nu munyai nu
子守り達の言葉は 子を抱くもの達の語ることは
語句・むにゃい語ること。 「むに」は「言葉」と同義。


六、腕ば痛み守りひゅうば かやば痛み抱ぎひゅうば
'うでぃばやみ むりひゅーば かやばやみだぎひゅーば
'udi ba yami murihuuba kaya ba yamidagi huuba
腕を痛むほど子守り(ひゅう・・不明)ので 手首を痛むほど子を抱き(不明)ので
語句・ひゅー 不明。


七、大人ゆなりとーり 高人ゆなりとーり
'うふぴとぅゆなりとーり たかぴとぅなりとーり
'uhupïtu yu naritoori takapïtu naritoori
大人になられよ 高い人になられよ
語句・なりとーり なられよ。 <なるん 成る。 連用形(1又は2)+ おーるん いらっしゃる。という補助動詞 命令形 おーり 


八、墨書上手なりとーり 筆取るぃ上手なりとーり
んかきじょーじなりとーり ふでぃとぅりじょーじなりとーり
shïNkakïjoojï naritoori hudïturïjoojï naritoori
筆達者になられよ 筆を取るのが上手になられよ
語句・んかきじょーじ 「筆達者。能筆。『筆書き上手』の意」(石)。本島の「墨」(しみ)=学問を意味するのと相似。筆書き上手=筆取る上手→筆達者→学問にすぐれた人。


九、沖縄旅受けおーり 美御前旅受けおーり
'うきなたび 'うけおーり みょまいたび'うけおーり
'ukïnatabï 'ukeoori myomaitabï 'ukeoori
沖縄本島への旅を お受けなさい 首里の王様への旅を お受けなさい
語句・うき 沖縄本島。当時の「沖縄」は本島のみを指している。 ・みょまい 首里の王様。王様への旅とは、首里王府に奉公すること。


十、月ぬ形買いおーり 星ぬ形買いおー
ぬかたかいおーり ふしぬかたかいおーり
chïkï nu kata kaioori hushï nu kata kaioori
月の模様(の服)を買いなされ 星の模様(の服)を買いなされ
語句・かた 模様。


十一、産しゃる親とぅゆまし 守りゃる姉名とぅらし
なしゃる'うやとぅゆまし むりゃる'あんまなとぅらし
nasharu 'uya tuyumashi muryaru 'aNma na turashi
生んでくれた親を有名にせよ 子守りしてくれた母の名を上げよ
語句・なしゃる 生んでくれた。 <なしん 産む。 ・とぅゆまし 世に鳴り響かせよ→有名にせよ。 <とぅゆましん 轟かせる。 命令形。 ・とぅらし 与えよ。取らせよ。 <とぅらしん 与える。取らせる。(石) 命令形。



八重山民謡。

この歌は1842年、「鷲の鳥」を作ったとされる大宜味信智が、大川の東の村(東里)の子守歌(ユンタ)をもとに工工四を発表したとされている。(「八重山民謡誌」)
しかし宮古島には「東里真中」(あがす゜ざとぅんなか)という歌があり、ルーツ論争がある。(「島うた紀行」)

ともに子守歌ではあるが、宮古の「東里真中」は、東里の真中に蜜柑の木を植え、それを念入りに育て大きく実らせてその下で守り育てたものが蜜柑玉で遊ぼう、というような内容。
こちらの「あがろーざ」では、蜜柑(九年母木)は子守の情景の一部で、その下での子守りをするものに、そだてた子どもが大人になり勉強に励み、首里に仕え、出世してお土産に綺麗な模様の服を買ってきて、親や子守りをしたものの名をあげよ、という内容。

メロディーは似ているというが、みなさんはどうであろうか。
工工四を弾いてみるが、あまり似ている感じがしない。
歌詞は共通点が多いが、上述したように観点が違う。
昔は同根であった歌が、時代と風土が違う中で変化したものなのだろうか。

いくつか疑問、問題点を列挙しておく。

歌者の間でも「ハリヌクガニ」と「ハリヌクガナ」の囃子言葉が違う。

また二番、「とぅーし」と書かれた歌詞ばかりだが、歌は多く「とーし」と聞える。

六番、「ひゅーば」の「ひゅー」は不明である。


しかし、ゆったりとした情のこもったみごとな八重山歌。
子どもへの夢も歌にこめられ、さぞかし子守の疲れも癒せる歌であったのだろう。




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Posted by たる一 at 08:16│Comments(14)あ行
この記事へのコメント
タルーさんおひさしぶりです
あがろーざに反応しました

大工先生に教えていただいたことですが
2番は「とぅーし」ではなく「とーし」と発音して歌う事。
「クガニ」には大工先生が故・宮城文さん(石垣方言辞典、八重山生活誌著)に
生前うかがった折「てっちゃん、あがろーざはクガナあらに、クガニど」と教えていただき、
その教えを守ってクガニと発音しているとお聞きしました。
Posted by コバ at 2008年09月14日 11:17
コバさん
おひさしぶりです。
コメントありがとうございます。

「とーし」を「とぅーし」と書いたり
「とーら」を「とぅーら」と書いたりするのは
どうしても表記法に混乱があるのでしょう。

そのようなことを故胤森さんから教えられました。

宮城文さんは、石垣方言辞典を書かれた宮城信勇氏の母親ですね。

参考になります。ありがとうございます。
Posted by たるー(せきひろし)たるー(せきひろし) at 2008年09月14日 22:31
「ひゅうば」は「何々しているから」くらいの意味だとは推測できます。
「~して」を、「~しー」と宮古方言では言いますが、離島方言の一部では
「~ひー」と発音しています。

守り+ひー+うい+ば

と、品詞分解できそうですがどうでしょう。

あくまで仮定の話ですが、参考になるかどうか。
Posted by あとぅを at 2008年10月14日 21:24
あとぅをさん
おひさしぶりです。

あ、なるほど!と思い 
早速「石垣方言辞典」をひらくと
「ひー」には
「疑問文につく。(中)『かねえ』に当たる」とだけありました。

「かねえ」ではすこしあいませんね。

ところで、余談ですが
「・・してあげるから」と訳しているものは「島うた紀行」です。
「してくれた」と訳しているのは「八重山古典民謡歌詞集」(新城寛三)。

「ば」は「・・ので」ですから後者はすこし簡素化しすぎですね。

うーん。
やっぱりわかりません。

でも参考になりました。ありがとうございます。
Posted by たるー at 2008年10月15日 19:00
あがろーざ節、大好きです!絶対唄いたい唄!のひとつです。
この間から何日もCDを聴き、工工四とにらめっこして、やっとなんとか
最後までメロディーがなぞれるようになりました(嬉)しかし、最初に出てくる「あがろ〜ぉ〜」の「七」の音がきちんと出なかったり、きちんと取れなかったりして、早々に玉砕してしまいます(恥)高音の声の出し方、悩んでいます。
最後の「クガナ」と「クガニ」て発音が違うだけ?意味は変わらないんでしょうか?私は「クガナ」って教えてもらったので、そう唄っています、奥が深いんですね〜言葉って…てこのブログを読んでいて思います。親が子供を愛おしみ育てる、とっても優しい唄、大切に唄いたいです。
Posted by ナオ at 2008年11月28日 12:11
ナオさん

七、八、九と音程を正しくだすのは大切ですよねえ。
苦労する部分です。
聞き手もそこを心地よく聞きたいと思っているからでしょうね。

あがろーざ、それぞれの人が自分の子どもをそだてる想いを
こめて味をだせればすばらしいですね。

がんばってください。
Posted by たるー at 2008年11月29日 07:48
アガローザはやはり1966年版の安室孫師版工工四では
〇あがろーざとんなかにヤゥ
と記載されていますし、喜舎場版「八重山歌唱誌」にも記載があります。
ただ原曲とされる登野城字の「あがろーざゆんた」もありますが、更に東の宮良字は橋が掛かるまえは「あんがろーま村(東間村)」とも呼ばれており、現在も宮良字には「あんがろーまゆんた」が存在します。
正直現在の三線唄が50年前のスタンダードと同一なのかすら怪しいとおもわれますね。ちなみに大工哲弘さんが若い頃に録音された音源のCDの「八重山民謡集」では当然に当時安室孫師版八重山民謡工工四を使用して勉強されていたようなので「あがろーざとんなかによー」と明確に唄われていますね。
Posted by くがなー at 2011年03月07日 04:16
あけましておめでとうございます。
新年早々我が第一子が生まれ、抱く度に「あがろーざゆんた」や「こーねま」や「月ぬ美しゃ」や「はららるで」など謡いながらあやしています。
子守しながら謡うとやはり「揺り篭」のようなリズムに(習った通り)なりますし、「節歌」に化けた歌い方では赤子は泣いてしまいます。
やはり「子守唄は子守唄の唄い方」が一番肝心ですね。
Posted by くがなー at 2012年01月07日 16:31
くがなーさん
謹んで初春おお喜びを申し上げます。

そして第1子誕生!おめでとうございます!

お祝い事続く、とはいいますが、新年早々のおめでたですね!

子守唄の歌い方と節唄の歌い方、そういう意識を持って音源も聞いてみたいものです。

また、今回もたくさんコメントをありがとうございます。

いつも勉強になるコメントでうれしい限りです。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。
Posted by たる一たる一 at 2012年01月07日 18:45
たるーさん、初めまして。
お願いがありポストする事にしました。
「川原山節」(八重山民謡)の解説を探しているのですが、なかなか見つかりません。お願いできませんでしょうか。
楽しみにしています。なおみ
Posted by 神谷 なおみ at 2014年06月05日 01:50
たるーさん、宮古島の東里真中は二種類ありますよ。
字平良の東里真中と、池間民族の東里真中です。
字平良の東里真中は短いですけど、池間民族の東里真中はながいです。
字平良の東里真中は、守姉が子供の成長
及び立身出世を祈念し蜜柑の木を育てる意味の歌ですけど、池間民族の東里真中は、守姉に子供を預けてみると、役人の
子供が泣くと、蜜柑をとって遊ばせて、下人の子供が泣くと、木の棒をもって脅し、役人の子供には、おにぎりをあたえ、下人の子供には、粗末な食べ物を与えたそうです。
それを見ていた下人の子供のお姉さんが 子供を連れ帰って、泣きながら、大きくなったら沖縄へ行き偉い人になりなさいよ、お姉さんが心を込めて子守りをするからねといったそうです。
東里真中とゆう歌はとても悲しい歌です。
Posted by いーつ at 2014年06月18日 11:34
神谷なおみさん
返事が遅くなりました。
見てみます。
Posted by たる一たる一 at 2015年01月02日 10:17
いーつさん。
コメントありがとうございます。

池間の東里真中の悲しさ。
少し調べてみたいと思います。
去年初めて宮古に行き、伊良部の神歌を
ツカサンマから聴かせてもらいました。

今後ともよろしくお願いします。
Posted by たる一たる一 at 2015年01月02日 10:38
いーつさん。
コメントありがとうございます。

池間の東里真中の悲しさ。
少し調べてみたいと思います。
去年初めて宮古に行き、伊良部の神歌を
ツカサンマから聴かせてもらいました。

今後ともよろしくお願いします。
Posted by たる一たる一 at 2015年01月02日 10:38
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