花口説
花口説
はなくどぅち
hana kuduchi
語句・
はな 「①花。草木の花。②美しいこと。はなやかなこと。」「③遊女 zuriの美称」【沖辞】とある。
一、
辻仲島渡地とぅ 三島かさにてぃ花ぬ島 夜々に恋路ぬ花ざかい
ちーじなかしまわたんじとぅ みしまかさにてぃはなぬしま ややにくいじぬはなざかい
chiiji nakashima wataNji tu mishima kasaniti hana nu shima yaya ni kuiji nu hanazakai
〇
辻、仲島、渡地(那覇の三大遊郭の地名)三つの村を重ねて遊郭の村 夜々に恋路が花盛り
語句・
やや 夜々。「夜」はウチナーグチでは「ゆー」だから「ゆゆ」になるが、口説は大和口を混ぜることも多い(「上り口説」など)からか。
ニ、
昔たといぬ糸柳 風ぬ押すままなりすみる 梅の匂いや辻村
んかしたとぅいぬ'いとぅやなじ かじぬうすままなりすみる 'んみぬにうぃやちーじむら
Nkashi tatuinu 'ituyanaji kaji nu 'usu mama narisumiru 'Nmi nu niwi ya chiiji mura
〇
昔例えた糸柳(のように)風が押すまま親しくなる 梅の匂いは辻村
語句・
なりすみ なれそめ。恋のきっかけ。
三、
玉ぬ夜露にたゆてぃ咲く 花ぬ色数みじらしや 日々ぬ営みぬいくぃてぃ
たまぬゆちゆにたゆてぃさく はなぬ'いるかじみじらしや ひびぬ'いとぅなみ ぬいくぃてぃ
tama nu yuchiyu ni tayuti saku hana nu 'irukaji mijirashi ya hibi nu 'itunami nuikwiti
〇
玉のように美しい夜露に頼って咲く花の種類の珍しいことよ 日々の営みを乗り越えて
語句・
みじらし 珍しい。<みじらしゃん ・
いるかじ 「種類。種類雑多」【沖辞】。
四、
最早恋路ぬ夢の間に くらす男ぬ遊び場所 酒や男ぬ匂いすいてぃ
むはやくいじぬ'いみぬまに くらすうぃきがぬ'あすびばす さきやうぃきがぬにうぃすいてぃ
muhaya kuiji nu 'imi nu ma ni kurasu wikiga nu wikiga nu 'asubi basu saki ya wikiga nu niwi suiti
〇
もはや恋路は夢の間に(過ぎ去り)暮らす男の遊び場所 酒は男の匂いを添えて
語句・
すいてぃ 添えて。<すゆん 添える。活用では「すてぃ」。
五、
年に一度ぬ二十日ぬ日 辻に首里那覇御万人ぬ 揃てぃ遊ぶるにぎやかさ
にんに'いちどぅぬはちかぬふぃ ちーじにすいなふぁ'うまんちゅぬ するてぃ'あしぶるにぎやかさ
niN ni 'ichidu nu hachika nu hwi chiiji ni sui nahwa 'umaNchu nu suruti 'ashiburu nigiyakasa
〇
年に一度の二十日の日 辻に首里、那覇多くの人が揃って遊ぶにぎやかなことよ!
語句・
はちかぬふぃ 「二十日正月」(はちかしょーぐゎち hachikashoogwashi)「旧暦の正月二十日。この日を正月の最後の祝日として、簡単な御馳走を作り、一日を遊び暮らした。またこの日にzuri'Nma[尾類馬](その項参照)の行事が行われた」【沖辞】。 またこの「尾類馬」とは「hachikasjoogwaci(二十日正月…旧暦正月二十日)に遊郭中総出で行う祭りの名。各楼から選ばれたzuriが'Nmagwaa[馬小](板に馬の形を彫ったもの)を前帯にはさみ行列の先頭となり、続いて、装いをこらしたzuriが長蛇の列を作って踊り歩いた。(省略)」【沖辞】。
六、
琴や三線音揃てぃ 唄や踊いにまじりやい 飲むる梅酒匂いまさてぃ
くとぅやさんしん'うとぅするてぃ 'うたやうどぅいにまじりやい ぬむる'んみざきにうぃまさてぃ
kutu ya saNshiN 'utu suruti 'uta ya udui ni majiriyai numuru 'Nmizaki niwi masati
〇
琴や三線の音が揃って唄や踊りに混ざって飲む梅酒の匂いが香り高く
七、
琉球自慢ぬ髪形 挿ちょる銀ぬみぐとぅさみ 花に例いてぃ梅ぬ花
りゅうちゅーじまんぬかみかたち さちょるなんじゃぬみぐとぅさみ はなにたとぅいてぃ'んみぬはな
ryuuchuu jimaN nu kamikatachi sachoru naNja nu migutusami hana ni tatuiti 'Nmi nu hana
〇
琉球自慢の髪形 挿した銀の(かんざしが)見事であるぞ 花に例えると梅の花
語句・
なんじゃ 銀。ここでは「じーふぁー jiihwaa」(かんざし)の素材。
八、
花とぅ露とぅぬ物語 知らす浮世ぬ結び口 人ぬ最後や義理情
はなとぅちゆとぅぬむぬがたい しらすうちゆぬむしびぐち ふぃとぅぬさいぐやじりなさき
hana tu chiyu tunu munugatai shirasu 'uchiyu nu mushibiguchi hwitu nu saigu ya jirinasaki
〇
花と露との物語 知らせる浮世の結び口 人の最後は義理と情け
語句・
はなとぅちゆ 「男と女」の比喩。
七五調の「口説」のひとつ。
曲はよく知られている、嘉手苅林昌さんの「時代の流れ」や「サイノー節」にもつかわれている。
以前からこの工工四と歌詞が欲しかったが、「正調琉球民謡工工四」(滝原康盛)にもなく、いろいろ探していたが、偶然購入したCD「徳原清文の世界」にこの曲が収録されていた。
「花口説」の「花」は、尾類小(じゅりぐゎ)と呼ばれた女郎達のことを比喩したもの。
一番にあるように、那覇には「辻」(ちーじ)、仲島(なかしま)、渡地(わたんじ)の三大遊郭があった。
1609年薩摩藩の琉球侵攻後、厳しい租税の負担から農村の生活も厳しくなり、遊郭に身売りされる娘が増え、その受け皿として1672年に辻、仲島の遊郭が作られたという。
約千人ほどの尾類(じゅり)が家族同様の生活をし、売られてきた少女も、親アンマーと呼ぶ女性が、遊郭の厳しいルールから唄三線などまで教育していたようである。
歌詞に出てくる二十日の日は、旧暦の一月二十日に、選ばれた女性たちが「尾類馬 じゅりんま」という踊りと唄を外で披露する。
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