2015年01月15日

トーガニー

トーガニー
とーがにー
語句・とーがにー 八重山民謡の「とーがにしぅざ節」から。「トーガニ」の意味についてはよくわかっていない。前回も書いたがおそらく宮古民謡の「トーガニアヤグ」の「トーガニ」から来ているのだろう。「トーガニ」も意味は現在でも不明とされている。仲宗根幸市氏によれば「一説には『カニ』という唐(中国)帰りの美声の若者がうたいはじめたことからきているという。しかし、それだけでは疑問はつのるばかりである。タウガニ、トーガニ、トーガリ(ガレ)は語源的に未解明。」(「島うた紀行」第三集。仲宗根幸市編著)


唄三線 登川誠仁(CD「STAND!」より筆者聴き取り)


一、トーガニスーザーや 宮古ぬ美ら島から流行りるトーガニスーザーよ 沖縄ぬ先から宮古ぬ先までぃ流行りるトーガニスーザーよ
とーがにすーざーや みゃーくぬちゅらしまからはやりる とーがにすーざーよ うちなーぬさちからみゃーくぬさちまでぃ はやりるとーがにすーざーよ
tooganisuuzaa ya myaaku nu chura shima mara hayariru tooganisuuzaa yoo 'ukinaa nu sachi kara hayariru toogani suuzaa yoo
トーガニスーザーは宮古の美しい島から流行っている トーガニスーザーよ 沖縄の先から宮古の先までぃ流行っているトーガニスーザーよ
語句・スーザー 兄。兄さん、のこと。宮古語では「すざ」。八重山民謡では「しぅざ」(sïza)と中舌母音を入れて発音するが【石垣方言辞典】(宮城信勇著)(以下【石辞】)には「しじゃ」とある。本島、ウチナーグチの「しーじゃ」に対応。「トーガニスーザー」は歌の名前。一方、八重山民謡の「とーがにしぅざ節」の「しぅざ」を「精選八重山古典民謡集」では「羨ましいなあ・いいなあ・めでたい」などの意味だとも解釈している。どちらが正解なのか不明。



二、あねるガジュマル木さぎどぅ つるばうれー 石ばかい抱ぎ ぷるでいくから うらとぅ我ぬとぅや うら抱ぎ我ぬ抱ぎ ぷるでーいくそー
あねるがじゅまるきーさぎどぅ つるばうーれー いしばかいだぎ ぷるでいくから うらとぅばぬとぅや うらだぎばぬだぎ ぷるでいくそー
'aneru gajumaru kii sagi du tsuru ba 'uree 'ishi ba kaidagi purude 'ikukara 'ura tu banu tu ya 'ura dagi banu dagi purude 'iku soo
あのようなガジュマルの木でさえもツルを降ろし 石を抱いて 育っていくので 貴方と私とは 貴方を抱き私を抱いて育っていくのだよ
語句・さぎどぅ でさえも。これは八重山語。「ざーぎ」でさえ。+どう。こそ。強調の助詞。・ぷるで 「成長して。育って」。八重山語の「ふどぅびん」(成長する)から。登川氏は「ぷるで」と歌われている。ウチナーグチでは「ふどぅ うぃーゆん」と言う。【石辞】には、現在では「ぷどぅーういるん」と言うとあるので、この歌詞は八重山語での現代読み。・いくそ いくのだよ。大和語の「行く」か、八重山語の「いくん」の活用形から。ウチナーグチ(「いちゅん」の活用形)ではない。+ そー。八重山語で「だよ」。念を押す終助詞。【石辞】・つる 八重山語で「つる」。ガジュマル木の気根、ヒゲ根のことだろう。ウチナーグチでは「ちるー」。・うら 八重山語で「貴方」。・ばぬ 八重山語で「わたし」。



三、夏ぬ昼間ぬ水欲さや 太陽ぬ入り 夜ぬいくかー 忘りるしーよー 加那様事ぬ朝ん夕さん忘りるならぬそー
なちぬ ぴらま ぬ みじふさやー てぃだぬいり ゆぬいくかー わしりるしーよー かなさまくとぅぬ あさん ゆーさん わしりぬならぬそー
nachi nu pirama nu miji husa yaa tiida nu 'iri yu nu 'ikukaa washirirusii yoo kanasamakutu nu 'asaN yuusaN washiriru naranu soo
夏の昼間に水が欲しいのは 太陽が沈み夜がふければ忘れる 貴方様の事は一日中忘れることはないのだよ
語句・ぴらま 八重山語で「ぴぅーりぅま」【石辞】。ウチナーグチの読み替えだろう。・ゆーぬいくか夜が更ければ。八重山語で 「夜が更ける」は「ゆーいくん」【石辞】。「かー」は動詞活用の条件形。



四、ゆんとぅりば 夢る見る 起きとぅりば 事ぬるうくりゆる 寝てぃん寝ららん 起きてぃんうららん かんちゃがなさや
ゆんとぅりば いみるみる うきとぅりばくとぅぬうくりゆる にてぃんにららん うきてぃんうららん かんちゃがなさや
yuN turiba 'imi ru miru 'ukituriba kutu nuru ukuriyuru nitiN niraraN ukitiN uraraN kaNcha ganasa yaa
夜休んでいれば夢を見る 起きていれば事が起きる 寝ても寝られない 起きてもいられない 貴方が愛しいことだ
語句・ゆんとぅりば 夜休んでいれば。<ゆん <ゆー 夜 +ん + とぅりば <とぅりゆん。 心が和む。→休めば。・かんちゃ貴方。 おそらく八重山語の「かぬしゃーま」から。<かぬしゃー 「男性からいう女性の恋人。『愛(かな)しき人』の意。



五、真夜中どぅやしが 夢にむい起くさりてぃよ 覚みてぃ恋しさや 無蔵が姿
まゆなかどぅやしが いみにむいうくさりてぃよー さみてぃくいしさや んぞがしがた
mayunaka du yashiga 'imi ni mui ukusarithi yoo samiti kuishisa ya Nzo ga shigata
真夜中であるが夢に起こされて 覚めて恋しいのは貴女の姿



六、うばが家とぅ我んたが家とぅ隣やたんば 主 今日ん見り明日ん見り 愛し里前よ
うばがやーとぅばんたがやーとぅ とぅないやたんばしゅー きゆんみりあちゃんみり かなしさとぅまいよー
uba ga yaa tu baNta ga yaa tu tunai yataNba shuu kiyuN miri 'achaN miri kanashi satumai yoo
貴方の家と私の家とが隣だったらね 貴方 今日も見て明日も見て愛しい貴方様よ



七、ばぬちゃかいりょがばよ 里前 下から入りょらばん 上から入りょらばん 足音いざすんなよ 下やハーメー 上やタンメー 中座や我ぬ人うり
私の(ちゃかー不明)入るときは 貴方様 下から入っても上から入っても足音立てないでよ 下にはおばあさんが 上にはおじいさんが 中座には私の人がいるから
語句・はーめー おばあさん。「平民の祖母または、平民の老女をいう」【沖縄語辞典(国立国語研究所)】(以下【沖辞】)。・たんめー 「士族の祖父。また、士族の老翁。おじいさん。」【沖辞】。平民の祖父はウシュメー。・なかざ



トーガニーについて

登川誠仁さんは好んでこの「トーガニー」をあちこちで歌われている。

(CD「STAND!」)

CD以外では「ビデオ 嘉手苅林昌独演会」で「泊高橋」をチラシに歌われている。



「トーガニー」は本島で色々な方が歌われて現在でも人気のある民謡のひとつである。

三線の手は、歌持ち(ウタムチ=前奏)に、カチビチ(掛き弾き)が多いのが特徴。
「富原ナークニー」を少し彷彿とさせる。

この登川誠仁さんの歌は、八重山民謡「とーがにしぅざ節」からきている歌詞から、真剣に最後まで聞けば、7番では、いわゆる「夜這い」を題材にしていて、そこでも聴衆を笑わせる仕組みになっている。

「トーガニー」を「ジビター小」と呼び換えて、さらにきわどい歌詞や聴衆受けする内容を唄に乗せて「春歌」として歌う場合もある。

「ジビター」とは「下品」とか「卑猥」という意味だ。

「春歌」を「文化の荒廃」として批判される方もおられようが、適量を守った「飲酒」と同じで、場所と時をわきまえて節度を保てば「春歌」や「狂歌」も庶民の生活に潤いをもたらす「唄」と言えよう。


トーガニーとナークニー

拙ブログでは本島で歌われる「あやぐ節」 のルーツを探して、宮古民謡の「宮古のあやぐ」、「トウカニー節」と見てきた。

「あやぐ節」を宮古民謡「トーガニアヤグ」と工工四を照らし合わせて比較してみたが、音階においても多くの共通点があり、「あやぐ節はトーガニアヤグをヒントに作られた」ということを裏付けてもいることも見た。

ただしどちらが先でどのような経過で唄が変遷してきたかまでは調べる由も無い。

私の問題意識は前にも書いたが本島の「ナークニー」が宮古の「トーガニアヤグ」や八重山の「とーがにしぅざ節」を元にして作られたという「トウカニー節」などから生まれてきたものだという説にある。

音階の比較

今回の「トーガニー」のメロディーは、八重山の「とーがにしぅざ節」とよく似ているし、宮古の「とーがに兄節」とも少し似ている感じはある。

宮古の「とーがに兄節」はどちらかというと「クイチャー」系のメロディーと構成になっていて、その意味では「ナークニー」と「クイチャー」との関連を予想させるところがとても面白い。

本島の「あやぐ節」 、宮古の「宮古のあやぐ」、本島の「トーガニー」、八重山の「とーがにしぅざ節」、そして宮古の「トーガニあやぐ」「とーがに兄節」、さらに「クイチャー」も含めて音階を比較すると、

四、上、中、工、 五、七、八
(ド、レ、ミ、ファ、ソ、シ、ド)

「上」(レ)が沖縄音階の例外になるが、どの曲にも含まれている特徴的な音になっている点が非常に面白い。(余談だが、本島では「かいされー」の音階とも似ている。)


次回、八重山の「とーがにしぅざ節」や、宮古の「とーがに兄節」などの歌詞なども見ておきたいと思う。



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Posted by たる一 at 10:13│Comments(0)た行沖縄本島
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