海のチンボラー

たる一

2005年11月29日 10:13

海ぬチンボーラー
うみぬちんぼーらー
'umi nu chiNbooraa
語句・ちんぼーらー 「海産の小さい巻貝の名。ほら貝型のきわめてちいさい貝。にしの一種」【沖縄語辞典(国立国語研究所編)】(以下【沖辞】と略す)。実はどの貝を指すのか諸説ある。地方によってどの貝をこう呼ぶかは偏差があるからだ。だいたい次の2種類になるのではないか。「にしの一種」とすればにし貝。または尖っている事を基準にすればリュウキュウウミニナ



一、海ぬちんぼーら小、さかなやい立てぃば足ぬ先々危なさや
うみぬちんぼーらーぐゎー さかなやい たてぃば ふぃさぬ さちざち あぶなさやー
'umi nu chiNbooraa gwaa saka nayai tatiba hwisa nu sachizachi 'abunasa yaa
海のチンボーラーがさかさまに立っているので足の先々があぶないよ
語句・ぐゎー 【沖辞】によると①小さいものへの愛称。(例)鳥小(とぅいぐゎー)=鳥ちゃん。②子どもの名前の愛称。(例)たるーぐゎー。=太郎ちゃん。③少量。(例)くーてんぐゎー=ほんの少し。④軽蔑。妻小(とぅじぐゎー)=かかあ。など。ここでは①。・さかなやい 逆さまになって。<さか。逆さま。+なやい<なゆん。なる。・たてぃば 立っているので。<たちゅん。已然形+ば。 〜なので、訳す。・ふぃさ <ふぃさ。ふぃしゃ。ひさ、ともいう。「足。足首より下をも足全体をもいう。『ひざ』に対応する語か」【沖辞】。・あぶなさやー あぶないよー。<あぶなしゃん。


(囃子)
したくぬ悪っさや すばなりなり さー浮世ぬ真ん中 ジサジサ ジッサイ 島ぬヘイヘイ ヘヘイ(以下同じ)
したくぬわっさや すばなりなり さー 'うちゆぬ まんなか ジサジサ ジッサイ しまぬへいへいへへい
shitaku nu wassaya suba narinari saa 'uchiyuu nu maNnaka jisajisajissai sima nu heihei hehei
恰好が悪いねえ、側にどけどけ(又は、妾になれ) サー浮世の真ん中ジサジサジッサイ島のヘイヘイヘヘイ
語句・したく「①支度。用意。②身支度。着物を着て装うこと。」【沖辞】。・すばなり すば。「①そば。かたわら。また、わき。〜najuN. イ.そばに寄る。そばに近づく。ロ.わきへのく。車馬などをよけてわきにのく。②妾(めかけ)」【沖辞】。二つの意味にとれる。・しま 沖縄では「しま」といえば、いわゆる「アイランド」の島よりも、「①村里。部落。②故郷。出身の部落」【沖辞】。という意味合いが先にくる。「しま」は「住む」(すむ)、又は「住まい」から来ているという説もある。



二、海ぬさし草や あんちゅらさ なびく 我身ん里前にうちなびく
うみぬさしぐさやーあんちゅらさ なびく わみんさとぅめにうちなびく
'umi nu sashigusa yaa 'aNcurasa nabiku wamiNsatume ni 'uchinabuku
海のさし草は あのように美しくなびく 私も彼氏にうちなびく。
語句・さしぐさ アワユキセンダングサ。キク科で、接触すると、多数の種が服などに付着する。解説本などでは「海草」と書いたものも多く、私もそれに従っていたが、アワユキセンダングサとする。・あんちゅらさ あのよう美しく。・なびく なびく<なびちゅん。なびく。



三、海ぬチンボーラ小恋する夜や 辻ぬ姉小達ん恋すらど
うみぬちんぼーらーぐゎー くいする ゆるや ちじぬあんぐわーたーん くいすらどー
'umi nu chiNbooraagwaa kui suru yuru ya chiijii nu 'aNgwaataaN kui sura doo
海のちんぼーらーちゃんが恋する夜は 辻の姉さん達も恋するだろうぞ
語句・ちじ 辻。<ちーじ。那覇の三大遊郭の一つ。「本土人・中国人・首里那覇の上流人を相手とした高級な遊郭であった」【沖辞】。



四、辻やインド豆 仲島や 豆腐豆 恋し渡地 いふく豆
つぃじやいんどぅーまーみ なかじまや とうふまーみ くいしわたんじ いふくまみ
thiji ya 'iNduumaami nakashima ya toohumaami kuishi wataNji 'ihukumaami
辻はえんどう豆 中島は大豆 恋しい渡地はいふく豆
語句・いんどぅーまーみ えんどう豆。・なかしま 那覇の三大遊郭の一つ。「首里・那覇相手」【沖辞】。・とーふまーみ 大豆。 ・わたんじ 三大遊郭の一つ。「いなか相手の下等な遊郭」【沖辞】。・いふくまーみ 不明。



五、辻のインドー豆 食でんちゃんな二才達 食でやんちゃしが 味やうびらん
ちじぬいんどーまーみ かでぃんちゃんなー にーせーたー かでぃやんちゃすぃが あじや うびらん
chijinu 'iNdoomaami kadiNchaNnaa niiseetaa kadiyaNchasiga 'ajiya 'ubiraN
辻のえんどう豆(を)食べて見たのかい? 青年達よ 食べてはみたが 味は覚えていない
語句・かでぃんちゃんなー 食べてみたかい?<かでぃ。<かむん。食べる。+んちゃん<んーじゅん。みる。+なー 「かい。かねえ。の。軽く尋ねる場合に用いる」【沖辞】。・うびらん 覚えない。覚えていない。<うびゆん。覚える。


(囃子)かーぎぬ悪っさや 取ってー投ぎ投ぎ さー浮世の真ん中 ジサジサ ジッサイ 島ぬヘイヘイ ヘヘイ
かーぎぬわっさや とってーなぎなぎ(以下略)
器量の悪いのは取って投げろ投げろ(以下略)
語句・かーぎ「①姿。また、容貌。」「②陰。日陰など。」【沖辞】。「かーぎぬわっさん」は器量が悪い。



(コメント)
伊江島の古い民謡が那覇の遊郭に伝わり、歌詞もメロディも変化して今日に伝えられている。
歌詞は チンボーラーという巻貝の話から海藻、辻、中島、渡地というかつて那覇にあった遊郭で豆を食べたとか内容は荒唐無稽。
したがってエロチックに受け取ろうがコミカルに感じようが、歌い手も聞き手も自由。
意味も一部不明なところがある。
とくに囃子の部分。

CDでは嘉手苅林昌さん、登川誠仁さんの歌うこれは、まじめそうでいてこちらがニヤリとしそう。楽しくなる。
「赤山'akayama」を続けて唄う場合が多い。


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