あこがれの唄
作詞・作曲 普久原 朝喜
[題名は「あこがれのうた」と標準語読みだと思われる。「あくがり」をウチナーグチに直すと「うむいくがりゆん」となり「あくがり」とは読まない理由で。]
一、
行ちぶさや大和 住みぶさや都 あさましや沖縄 変わいはてぃてぃ 変わいはてぃてぃ
いちぶさややまとぅ すみぶさやみやく あさましやうちなー かわいはてぃてぃ かわいはてぃてぃ
'ichibusa ya yamatu sumibusa ya miyaku 'asamasi ya 'uchinaa kawai hatiti kawai hatiti
〇
行きたいよ本土 住みたいよ都 あさましいよ沖縄 変わり果ててしまって
語句・
ぶさ <ぶしゃん。ぶさん。 ・・・したい。 「fus(j)anの連濁」【琉球語辞典】。・
あさまし <あさまさん。あさましい。「あさましい」とは国語辞書に「卑しい」「見苦しい」「予想外の結果に驚きあきれるようす」とある。
二、
大和世に変わてぃ アメリカ世なてぃん ぬがし我が暮らし 楽んならん 楽んならん
やまとぅゆーにかわてぃ あみりかゆーなてぃん ぬがしわがくらし らくんならん らくんならん
yamatu yuu ni kawati 'amirika yuu natiN nugashi waga kurashi rakuN naraN rakuN naraN
〇
日本(支配)の世に変わって アメリカ支配の世になっても どうして我が暮らしは楽にならないのか
語句・
ゆー 「世、代」【琉辞】。・
ぬがし 「nuu+ga+[強意助詞]si」【琉辞】。どうして。「どう」という意味もある。
三、
戦場ぬ後や かにんちりなさや 見るん聞くむぬや 涙びけい涙びけい
いくさばぬあとぅや かにんちりなさや みるんちくむぬや なみだびけい なみだびけい
'ikusa ba nu 'atu ya kaniN chirinasa ya miruN chiku munu ya namida bikei namida bikei
〇
戦場の後は こんなにも情けないものよ 見るもの聞くもの 涙がでるばかり
語句・
いくさば 戦場。単に場所のことだけでなく「戦争」そのものを指すこともある。・
かにん<かに。「斯(か)く、かように」【琉辞】。口語では「かん」。+ん 強調の「も」。こんなにも。・
びけい ばかり。「しか」と、限定する場合にも使うが、「くらい」と程度を表すこともある。(cf.南洋小唄)ここでは前者。・
なみだ 普通は「みなだ」「なだ」、文語で「なみだ」という場合もある。
四、
自由に我ん渡す 舟はらちたぼり 若さあるうちに 急じ行かな 急じ行かな
じゆにわんわたす ふにはらちたぼり わかさあるうちに いすじいかな いすじいかな
jiyu ni waN watasu huni harachi tabori wakasa 'aru 'uchini 'isuji 'ikana 'isuji 'ikana
〇
自由に私を渡してくれる舟を走らせてください 若さあるうちに急いで行きたい
語句・
じゆ 「じゆう」jiyuuと発音することもあるが歌、琉歌の場合は「じゆ」。・
はらち <はらしゅん。はらすん。走らせる。・
たぼり <たぼーゆん。たぼーいん。 下さる。 の命令形。してください。
CD「徳原清文の世界」にもある。「あこがれの歌」
沖縄戦で荒廃した沖縄への悲嘆とアメリカ支配の下での苦難を歌にしている。
四番の「急いで行きたい」というのはどこだろうか。
行きたいよ大和、と言っているのは、荒廃した沖縄とアメリカの支配にあえぐ人々の「できれば逃げ出したい」という本音であろう。
沖縄戦もいわば本土決戦を遅らせる「捨石」だったし、今も70%以上の米軍基地を押し付けている日本の政治構造は変わっていない。
その意味で私たちは、この歌のように「逃げたい」という気持ちを蔑むこともできないし、憐れむこともできないのである。
昨日国会で「秘密保護法」が成立した。
この歌のような荒廃と混乱をもたらす「戦場」が再び到来しないとは言えなくなった。
米軍基地があり、また中国に一番近い場所沖縄は、この秘密保護法の適用がもっとも多くなる場所。
「あさましい」のは、またまた沖縄に高い負担を押し付け、隣国との戦争への準備を多数の力を使って推進する政治家たちである。
秘密保護法成立に抗議して、この歌を訳した。
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