じんだま

たる一

2016年09月22日 14:42

じんだま

作詞 上原直彦 作曲 松田弘一 唄 伊波 貞子


一、かなし銭玉小 綾色ん深く 肝にしみじみとぅ 染みてぃたぼり
かなしじんだまぐゎー あやいるんふかく ちむにしみじみとぅ すみてぃたぼり
kanashi jiNdama gwaa 'aya'iruN hukaku chimu ni shimijimi tu sumiti taboori
愛しい銭玉小(着物の柄の一種)よ 綾(模様)の色も深く心にしみじみと染めてください
語句・かなし 愛しい。<かなしゃん。かわいい。愛しい。・じんだまぐゎー 銭玉を模様化した琉球絣の柄のことを指す。穴の空いた硬貨を模している。・あや 本来は「縞」の意味。縦糸と横糸を織りなして作った模様。「美しい」の意味もある。・しみじみとぅ 沖縄語辞典にはない。「しんじんとぅ」(「しとやかにしているさま。静粛に控えているさま。しみじみとの転意か」【沖縄語辞典(国立国語研究所編)】(以下【沖辞】と略す))ならある。・たぼり 〜してください。<たぼーり。<たぼーゆん。「給う。下さる。」「口語としては命令形taboori(下さい)のみを用いる」【沖辞】


サーサーしゅらし しゅらし銭玉よ
さーさー しゅらし しゅらし じんだまよー
saa saa shurashi shurashi jiNdama yoo
(囃子※は以下略)
かわいい かわいい銭玉よ
語句・しゅらし かわいい。<しゅらーしゃん。「しおらしい。かわいらしい。愛らしい」【沖辞】。



二、あねる銭玉小 着物綾どぅやしが 真肌はだはだとぅ 抱ちゃいくぃゆさ
あねるじんだまぐゎー ちんあやどぅやしが まはだはだはだとぅ だちゃいくぃゆさ
'aneru jiNdamagwaa chiN 'aya du yashiga mahada hadahada tu dachai kwiyu sa
そんな銭玉は着物の模様であるが 真肌(「はだはだとぅ」不詳)を抱いたりしてくれるよ
語句・あねる 「そんな。そのような」【沖辞】。・ちん着物。・はだはだとぅ 「肌」を強調したものか。不詳。・だちゃい 抱いたり。・くぃゆさ あげるよ。くれるよ。<くぃゆん。「くれる。与える。やる。また、(・・して)やる。(・・して)くれる。」【沖辞】。



三、銭玉小着やい 踊いうみかきら かなしうむや小ん 見じゅんでむぬ
じんだまぐゎーちやい うどぅいうみかきら かなしうむやぐゎーん んーじゅんでむぬ
jiNdamagwaa chiyai 'udui 'umikakira kanashi 'umuyaagwaaN NNzuN demunu
銭玉の模様の着物を着て踊りをお見せいたしましょう 愛しい恋人もみるのだから
語句・ちやい 着て。・うみかきら お見せいたしましょう。<うみかきゆん。「お目にかける。ご覧に入れる」【沖辞】。の希望形。・んーじゅん 見る。・でむぬ 「・・であるから。・・なので」【沖辞】。



四、銭玉小ぬ情 かりすみやあらん 命ある間ぬ綾ゆでむぬ
じんだまぐゎーぬなさき かりすみやあらん いぬちあるいぇだぬあやゆでむぬ
jiNdamagwaa nu nasaki karisumi ya 'araN 'inuchi 'aru yeda nu 'aya yu demunu
銭玉模様の情けはかりそめではない 命ある間の綾(模様)なのだから
語句・かりすみ かりそめ。【沖辞】にはない。・ 不詳。文語では「を」。強調か。



この曲はCD「綾うた」に収録されている。
(正式な名称は「RBC創立四十周年記念盤 綾うた~上原直彦作詞集」)

YouTubeにあるのでリンクする。
https://youtu.be/_dOioyU_lQU

琉球絣の柄の一つ「じんだま」をテーマにしている。

絣の柄といえば、私などは自分が民謡を唄う時に来ている着物の柄やかりゆしウエアの柄を思い出す。


もちろんこれは本物の絣の織物ではなく、プリント生地を縫製したものだ。

では本物の絣とはどういうものか。
絣の柄とはどんなものかを見ていこう。

「織物のまち南風原町」のホームページがわかりやすい。http://www.haebaru-kankou.jp/texitile/ryukyu-kasuri.html

幾つかのサイトも参考にして絣というものについてすこしまとめてみた。

【絣の歴史】

絣(かすり)はインドで生まれた織物で東南アジアに広まった。
経糸(たていと)と緯糸(よこいと)をそれぞれ染めクロスさせることである模様(綾)を生み出す技法。

14〜15世紀頃大交易時代だった琉球にもたらされた。
琉球では庶民が着る着物は無地か縞柄(しまがら)だった。
一方で絣は王府に納める貢納布として、先島諸島や久米島、首里や那覇など各地のヒャクショー(平民)の女性たちの手によって織られた。決して自分達が着ることがないとわかっていても。
人頭税で納める米の代わりにこの絣が納められたこともある。

17〜18世紀には、さまざまな手法が生み出されて開花する。

その絣の柄は王府の絵図奉行の絵師たちの手によって「御絵図帳」(みえずちょう)にまとめられ宮古、八重山など先島諸島、各地での絣の柄を統制・指導する際に用いられた。

約600種類の柄が描かれているという。誰がそのデザインを生み出したのか、は不明。

しかしその御絵図帳で庶民が織った絣は王府、士族の女性たちの着物となった他は中国(明、清)への朝貢品として、また1609年の薩摩侵攻以後は薩摩、江戸への貢納品として使われた。
その事を通じて絣の技術や柄そのものが本土に広がっていき大きな影響を与えた。

【絣の種類や呼び名】

いくつか絣の綾(模様)をピックアップしてみよう。
(図は筆者が描いた)

まずはこのウタのテーマ「じんだま」





▲細長い形のものもある。



▲中央は四角形の穴である。

これらは実際に琉球で使われた貨幣の形を模したものだ。


▲大宜見、久米島のものは左上の細長い貨幣を模したものだろう。

「銭」つまり貨幣が使われ始めたのは琉球が統一される前の中山の察度王(1321〜1395年)と言われている。琉球が統一されて貨幣経済は琉球に広がって行った。

絣柄「ジンダマー」は現在では「ドーナッツ紋」とか「丸紋」と呼ぶこともあるようである。



また、自然を模した柄も多い。



▲トゥイグヮー、鳥あるいは小鳥。千鳥とかツバメとも最近は呼ばれるようだ。呼び名も時代とともに変化している。琉球時代より以前から「鳥」はあの世とこの世を結ぶ連絡係のようなもの、と信じられてきた。あの世からのメッセージであり、こちらから想いをあの人に伝える伝令のようなものだった。
その意味では鳥を模した柄にも琉球の精神世界の反映があるのかもしれない。



▲星を模したもの。星が身近なもので、方位や時間、季節を星で計っていたからだ。
航海や農業、遊び全般で星は重要な「時計」「カレンダー」代わりの役割があった。



▲星が五つ、かと思いきや、インヌフィサー、つまり犬の脚、足跡という意味だ。
ユーモラスでもあるが、どんな思いを込めていたのだろうか。



生活に使われた道具なども多い。


▲バンジョウ。番匠と書く。建築などを仕事とする大工が非常に大切にしたという直角になった金属の定規。直角が測れなければ正確な建築はできない重要な道具だ。



▲このバンジョウを組み合わせて作った芭蕉布の柄。なんとも清楚で美しい。昔は庶民の着物。しかしお値段は。。書くまい(笑)



▲ウシヌヤマ バンジョウと呼ばれる柄。牛のヤマとは、田や畑の土を掘り起こす時に使う犁(すき)のことで、牛(水牛)に引かせた。


▲ウシヌヤマ(「『沖縄の民具 』上江洲均著」を参考に筆者描画)

それとバンジョウの組み合わせなのかどうか解らない。この農具の形だけでもウシヌヤマバンジョウではある。どちらにせよ、両方とも生活では非常に必要度の高いものの組み合わせである。デザインとしても単調ではなく、アクセントが加わって柄も生き生きしてきそうだ。
ちなみに上の私のかりゆしウエアにもこの柄がある。



▲いわばS字フックである。台所や服をかけるときなど今でも何かと便利なものである。これも柄としては面白い。繋げても良いし単独でもいい。



▲豚の餌箱を模した柄。

それにミミ(取っ手だろうか)がつくと


▲もう現在ではフールー(豚小屋)が家にあるお宅などまずは無いと思うが、昔はよく見られた。ということでこの柄は現在では「虫の巣」と呼ばれるようである。



▲人間も動物も植物も水がなければ生きていくことができない。サンゴ礁の島琉球には大きな川も湖もあまりなく、水は湧き水、つまりカー(井戸)のお世話になってきた。そして水はいろいろな祭祀においても重要なアイテムとなる。

さらに井戸はその形によってもまたステキなデザインとなって人々を助けている。


【まとめ】

琉球王朝の「御絵図帳」には600種類の柄があるので到底全部を紹介するわけにはいかないが、上にあげたものだけでも、絣の柄が人々の自然と共にある暮らしや祭祀などの精神世界と密接に関係していることがよくわかる。

そう考えていくと、このウタ「じんだま」の四番

「銭玉小ぬ情 かりすみやあらん 命ある間ぬ綾ゆでむぬ」

を唄う時、また聴く時、感慨深いものが湧いてくる。

この絣の柄として人々の身体を覆ってきたジンダマを着て生活をし、
また踊る時、想いを伝えたい人への深い愛情を込めているのだということを。

本土の絣の文化に深い影響を与えただけでなく、世界にも広がっているという絣。

今も新しい絣を生み出し、それを楽しみ慈しんでいる沖縄の人々の文化の深さにも感銘するばかりである。



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