唐船ドーイ
とーしんどーい
tooshiN dooi
◯
中国からの船だぞー!
語句・
とーしん 「唐船。中国から来る船」【沖縄語辞典(国立国語研究所編)】(以下【沖辞】と略す)。中国を「唐(とー)」と呼んだ。・
どーい どー。「ぞ。だぞ」【沖辞】。「い」は強調。
唐船ドーイさんてーまん いっさん走えーならんしや(ゆいやねー*)若狭町村ぬ(さー)瀬名波ぬタンメー (ハイヤセンスルユイヤナ)
とーしんどーい さんてーまん いっさんはーえーならんしや(ゆいやねー)わかさまちむらぬしなふぁぬたんめー
tooshiN dooi saNteemaN 'issaN haaee naraNshi ya (yuiyanee)wakasa machimura nu (saa)shinahwa nu taNmee
《()は囃子言葉。以下省略。》
*(ゆいやなー yuiyanaa)というのもある。
◯
唐船だぞーい と言ったところで 一目散に走ることができない者は若狭村の瀬名波のおじいさん
語句・
さん 言った。<しゅん。すん。言うの過去形。否定形も同じなので注意。・
てーまん 「ても。とて。…したところで。」【沖辞】。・
いっさん「一散に走ること。一生懸命走ること。一目散。」【沖辞】。・
ならんし ならない者は。できない者は。「し」、前の言葉を名詞化する。・
しなふぁ 地名(読谷村にある)ではなく屋号か?・
たんめー士族の祖父 おじいさん
平民のおじいさんは'うしゅめー'ushumee「タンメーは短命(タンメー)からきている」というまことしやかなジョークを時々聞くが 士族のお父さんをあらわす ターリーtaarii に 尊敬のmee前がついて ターリーメー、それが短縮しタンメーになったという説が有力。
音に豊まりる大村御殿ぬシンダン木 那覇に豊まりる久茂地ぬほーいカジュマル木
うとぅにとぅゆまりるうふむらうどぅんぬしんだんぎー なふぁにとぅゆまりるくむじぬほーいかじまるぎー
'utu ni tuyumariru 'uhumura'uduN nu siNdaNgii nahwa ni tuyumariru kumuji nu hooi kajimarugii
◯
音にも名高い大村御殿の栴檀の木 那覇で名高い枝が這うように伸びたガジュマル木
語句・
うとぅにとぅゆまりる 名高い。有名な。<とぅゆまりゆん。「(評判が)鳴り響く」【沖辞】。・
うふむらうどぅん 琉球王族の一人北谷王子朝愛を始祖とする一族の構えたお屋敷。首里にある。「耳切り坊主」
http://taru.ti-da.net/e990777.htmlの唄や伝説で有名。・
しんだんぎー・センダンの木。栴檀。・
ほーいがじまるぎー 這って長く伸びたガジュマルの木。ほーい <ほーゆんhooyuN 這う。
座ちょてぃぐま急じ裸なてぃチブイ 首里にうち向かてぃ那覇に登る
ゐちょーてぃぐまいすじ はだかなてぃつぃぶい すいにうちんかてぃ なふぁにぬぶる
yichooti guma'isuji hadaka nati thibui sui ni 'uchiNkati nahwa ni nuburu
◯
座っていてちょっと急いで 裸になって尻からげ 首里にうち向かい那覇に登る
語句・
ゐちょーてぃ 座っていて。<ゐゆん。座る。発音注意。グロッタルストップ(声門破裂音)がない。・
ぐまいすじ 小急ぎして。ちょっと急いで。・
つぃぶい 「壺折り。着物の裾を折りからげること。尻からげ。裾全体を折り曲げて帯にはさむ。」
《その他よく唄われる歌詞》
東方でむぬ唄ぬ負きやびみ はまてぃ弾ちみそり ぬしてぃさびら
あがりかたでむぬ うたぬまきやびーみ はまてぃひちみそり ぬしてぃさびら
'agarikata demunu 'uta nu makiyabiimi hamati hwichimisoori nushitisabira
◯
東の者であるから唄は負けますまい 一生懸命弾いてください (唄を)のせましょう
語句・
あがりかた 昔、村を東方と西方に分けて綱引きをしたり、唄で競い合ったりしたことから。「東方」という早弾きの曲もある。・
はまてぃ <はまゆん。「はげむ。没頭する。」【沖辞】。
エイサー小や習てぃ まにんかてぃ行ちゅが 足ぬ向くままに 向かてぃいちゅさ
ゑいさぐゎやならてぃ まーにんかてぃいちゅが あしぬむくままに んかてぃいちゅさ
yeisaagwaa ya narati maa ni Nkati 'ichu ga 'ashi nu muku mama ni Nkati 'ichu sa
◯
エイサーを習ってどこに向かって行くのか 足が向くままに向かって行くよ
語句・
まー どこ。疑問となる語に「が」がつく。・
んかてぃ向かって。
東あかがりば 墨習れが行ちゅい 頭結てぃたぼり 我親がなし
あがりあかがりば しみなれーがいちゅい かしらゆてぃたぼり わうやがなし
'agari 'akagariba shiminaree ga 'ichui kashira yuritabori wa 'uya ganashi
◯
東の方が明るくなったので勉強に行きます 髪を結って下さい ご両親様
語句・
しみなれー 便利。学問。「てぃしみがくむん」とも言う。・
が に。…するために。・
かしら 髪。「頭」と当て字があるが、毛髪のこと。・
わうやがなし 「私の親」を敬意と愛情を込めて呼ぶ言葉。「かなし」は「かなしゅん」(愛する)から。
くぬしんか揃てぃ 御祝はじみりば 明日からぬあさてぃ まさる御祝
くぬしんかするてぃ うゆえーはじみりば あちゃからぬあさてぃ まさるうゆえー
kunu shiNka suruti 'uyuwee hajimiriba 'acha kara nu 'asati masaru 'uyuwee
◯
この仲間が揃って御祝いが始まったので 明日からずっと盛り上がる御祝いになる
語句・
しんか「臣下。手下。」【沖辞】。仲間という意味で使われることもある。・
あちゃからぬあさてぃ 直訳では「明日からの明後日」だが「今日からずっと」という意味もある。
【カチャーシーの代表曲】
エイサーや宴会、民謡酒場などで必ずといっていいほど演奏される「ゾメキ歌」(賑やかに場を盛り上げる歌)のひとつ。
カチャーシー(かちゃーすんkachaashuN かき混ぜる)の曲としては今や代表曲だが、昔はゆっくりだったと言われる。
昔の毛遊びでの早弾きといえば「加那よー」や「あっちゃめー小」「山原汀間とぅ」「汀間とぅ」など。
「唐船ドーイ」が、早く弾かれるようになったのもそれほど昔ではないようだ。
【歌詞について】
歌詞は無数にある。
琉歌なら場の空気にそぐえばなんでも唄になる。
その歌詞の多様さ、延々と人を躍らせ弾き歌う技量にウタサー(唄者)の真価が問われる。
歌詞は無数といっても「唐船どーい さんてーまーん。。」から始まるのが普通だ。
「唐船」とは「中国からの船」と辞書にはあるが、当時中国の船を模して造られた日本の船もそう呼ばれた。
琉球では東南アジアなどとの交易には、中国の船を模した山原船=ジャンク船という帆船を用いた。
(山原船。筆者描画)
中国(明朝)は琉球国に対し30隻ほどの中国船(軍艦)を与えて、それが中国との交易などに利用されていた。
ここで言う「唐船」が、そのうちどれを指すのかは想像の域をでないが、その唐船が港に入港したという知らせが、街の中に響き、人々がチムドンドン(ワクワク)している様子が二拍子のカチャーシーのリズムと沖縄音階を少し崩した音階で表現されているのは間違いない。
面白いのは、その歌詞「唐船どーいさんてーまーん。。」はサンパチロク(八八八六文字ー琉歌)ではないこと。
もちろん琉歌形式をとらない唄もすくなくはない事はいうまでもない。
さらに上にあげた歌詞では「音にとぅゆまりる。。。」の歌詞も、琉歌形式ではない。
字余りでワクワク感を表現したいのか、どうなのかは作者も年代も不明の民謡の場合、知る由もない。
どんな琉歌でもこの「唐船どーい」の曲に乗せて歌うことは可能だが、
逆はほぼ唄うことはないと言ってもいい。
つまり、この「唐船どーいさんてーまーん。。」という歌詞が別の曲で歌われることはまずない。それほどこの曲との深い結びつきがあると言える。
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