染みなし節

たる一

2005年11月03日 18:26

染みなし節
すみなしぶし
suminashi busi


一、思いざましざま 思出す夜や 童声ゆたてて泣かんびけい
'うむいざま しざま 'うびじゃするゆるや わらびぐうぃゆ たてぃてぃ なかんびけい
'umuizaama sizama 'ubi('N)zasuru yuruya warabigwii yu tatiti nakaNbikeei
思い迷う姿(を)思い出す夜は子供声出して泣きたいばかり
語句・ざま 迷う。途方にくれる。<じゃーま 迷って途方にくれること。 ・しざま さま。ざま。[よくない哀れなありさま](琉)。・なかんびけい 泣きたいばかり。泣いたってしかたない。 <なかん <なちゅん 泣く。の未然形+ん 強調。泣きたい。 + びけい[<ばかり bakari] 「琉球戯曲辞典」(伊波普猷)によると「かまはない。かまふものか。結ばはんばからひ には、結べヾ結べといふ氣持ちがある」 すこし投げやりな気持ちを含み、自分ではどうしようもない気持ちになった心境を表すようである。


二、何がうんじょ何やが もの思い顔しちょる 思事のあらば語て忘り
ぬーがうんじょーぬーやが むぬみがうしちょる'うむくとぅぬあらば かたてぃわしり
nuu ga 'uNzoo nuuyaga munumiigau sicooru 'umukutunu 'araba katati wasiri
一体あなたはどうしたの 心配顔している 悩むことがあれば語って忘れなさい
語句・うんじょ あなた。敬語。<うんじょー<うんじゅ[あなた]+や[は] 融合して→ うんじょー。長母音である。「うんじゅ」は女性が男性に。また目上に使う。


三、語て忘らりる思いやてからや 色にあらわりて ゆすにしゆみ
かたてぃわしらり'うむいやてぃからや 'いるに'あらわりてぃ ゆすにしゆみ
katati washirariru 'umuiyatikaraya 'iruni 'arawariti yusuni shiyumi
語って忘れられる思いであれば 顔色にあらわれて他人に知られるか?
語句・いる 顔色。・ゆす 他人。


四、思いてしやれば心安々と いらなこがれゆみ闇の蛍
'うむいてぃしやりば くくるやしやしとぅ 'いらなくがりゆみ やみぬふたる
'unui tishi yariba kukuruyashiyashitu 'iranakugariyumi yaminu hutaru
思っているということであれば心やすやすといえないで焦がれるか 闇の蛍
語句・うむいてぃし 思っているということ。 「し」は「・・して[s(j)unの接続形qsi(して)が弱まった形](琉)。 ・いらな いえないで。 <ゆん[言う]の未然形 いら。の否定形 ・くがりゆみ 焦がれるか?自問で「焦がれないだろう」の意味を含む。


これも様々な歌詞や節があるし、難しい曲である。
情け歌であり、唄者は歌情け心('utanasakigukuru)を表現しないといけない。
そのためには三線や節回しのテクニックに加えある程度の意味を理解する必要がある。

私がもっている音源で一番古いものは小浜守栄が歌うもの。

最初の歌詞は以下。

一、真夜中どやしが夢に起くされて覚めて恋しさや ありが姿
まゆなかどぅやしが'いみに'うくさりてぃ さみてぃ'ありがしがた
mayunaka du yashiga 'imi ni 'ukusarithi samiti kuishisa ya 'ariga shigata
真夜中であるが 夢に起こされて 目覚めて恋いしいのは あの人の姿

なるほどこの歌詞をよむと少し情景が見える。

さて、この唄の理解は非常に難しい。

一番。
「思いざましざま」を、ある協会の解説では
「思いを覚ますと同時に」と訳している。
「思いざまし」「ざま」と理解されているようである。

しかし語句に書いたように、
思い迷う姿(を)思い出す夜は と訳すべきだろう。

四番。
「いらなこがれゆみ・・」には
問題が残っている。
胤森さんは生前、私がこの訳を尋ねた折に「琉歌大成」(清水彰)を調べてくださり
似たような琉歌のなかから

思い身にあらば事のよしあしも言やな焦がゆみ闇の蛍

つらさ身にあまてことのよしあしも言やな焦がれゆみ闇の蛍


を探してくださり、「いらな」は「言やな」の間違いではないか、とおっしゃられた。

しかし、私は「いらな」を「いえないで」と訳すことで解決すると今は思っている。

一方「いらな」を「不必要な」と訳したりするのは間違いだろう。


この歌は具体的な様子ではなく、悩んでいる様、励ましている相手をウタの独特の表現で描いたものであろう。
そこに自分や他人の事をそれぞれが具体的に当てはめていけば良いのだと思う。

「闇の蛍」は孤独に思い悩み、心の熱い思いを燃やしている個人を表し、少しでもその思いが想う人に、あるいは誰かに届く事を願いながら暮らす様子とも言い換えられる。






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