ノーウーマンノークライ

たる一

2018年10月11日 07:32

ノーウーマンノークライ

原曲 (作詞 作曲 ヴィンセント・フォード。歌 ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ)

作詞 知名 定男 うた ネーネーズ



NO WOMAN NO CRY NO WOMAN NO CRY
NO WOMAN NO CRY NO WOMAN NO CRY


里前に千惚りアヒ小に万惚り思い思まーてぃ五年
毛遊びぬ歌声ぬ秀らさ 三線弾ちゅる姿ぬ秀らさ
此ぬ世ぬ果報な者や我んどぅやてーる

(発音)
さとぅめに しんぶり あふぃぐゎーにまんぶり うむいうまーてぃ ぐにん
もーあしびぬうたぐぃーぬ しゅらさ さんしんふぃちゅるしがたぬ しゅらさ
くぬゆーぬ くゎふーなむん や わんどぅやてーる
satumee ni shiNburi 'ahwiigwaa ni maNburi ’umui ’umaati guniN
moo’ashibi nu ’utagwii nu shurasa saNshiN hwichuru shigata nu shurasa
kunu yuu nu kwahuuna muN ya waN du yateeru
(意味)
彼に千も惚れ 兄さんに万も惚れ(彼に惚れきってしまった)想い思い焦がれて5年 毛遊びでの歌声が愛しくて 三線弾く姿が愛しくて この世で幸せ者と言えば私しかいないって
語句・さとぅめー 女性から愛する男性に対する呼称。愛する貴方。・あふぃぐゎー 兄さん。ここでは里前と同人物。【沖縄語辞典(国立国語研究所編)】(以下【沖辞】と略す)には「一番下の兄。すぐ上の兄さん。平民についていう」とある。・しんぶり千惚れ。この語句は沖縄語辞典にはない。「まんぶり」は「首ったけ。まる惚れの意」【沖辞】とある。つまり、「しんぶり」は「まんぶり」に「万惚れ」と当て字をすることで出来た造語ではないだろうか。つまりワンセットで「千ぶり万ぶり」、かなり惚れていること。・もーあしび「農村で夜、若い男女が野原(moo)に出て遊ぶこと」【沖辞】。・しゅらさ <しゅーらーしゃん。しゅーらーさん。「しおらしい。かわいらしい。愛らしい」【沖辞】。体言止めなので「なんと愛しいことよ!」。・わんどぅやてーる 直訳すれば「私だけだって」。「てー」は「って」「だって」間接話法。



NO WOMAN NO CRY NO WOMAN NO CRY
NO WOMAN NO CRY NO WOMAN NO CRY


里前に千惚り アヒ小に万惚り思い思まーてぃ五年
久葉ぬ下に約束どーやー たがんなヨ
太陽ぬ落てぃれー急くに来ーよー たがんなヨ
此ぬ世ぬ果報な者や我んどぅやてーる
毛遊びぬ前立ちアヒ小 あんうぃりきさ舞ーゆがや
他島ぬ人んくーよーくーよー アンマーんくーよーくーよ
掛き弾ち小ぬちびらーさ あんうぃりきさ弾んちゅがや
他島ぬ人んくーよーくーよー 主アンマーんくーよーくーよ

(発音)
さとぅめに しんぶり あふぃぐゎーにまんぶり うむいうまーてぃ ぐにん
くばぬしちゃに やくすく どーやー たがんなよー
てぃーだぬ うてぃれー しぐにくーよー たがんなよー
くぬゆーぬ くゎふーなむん や わんどぅやてーる
もーあしびぬ めーだちあふぃぐゎー あんうぃーりきさ もーゆがや
たしまぬちゅんくーよーくーよー すーあんまーんくーよーくーよ
かきびちぐゎーぬちびらーさ あんうぃりきさ はんちゅがや
たしまぬちゅん くーよーくーよー すーあんまーんくーよーくーよ
satumee ni shiNburi 'ahwiigwaa ni maNburi ’umui ’umaati guniN
kuba nu shicha ni yakusuku doo yaa tagaNnaa yoo
tiida nu ’utiree shigu ni kuu yoo tagaNna yoo
kunu yuu nu kwahuu na muN yaa waN du yateeru
moo ’ashibii nu meedachi ’ahwigwaa ’aN wiirikisa mooyu ga yaa
tashima nu chuN kuu yoo kuu yoo suu ’AnmaaN kuu yoo kuu yoo
kakibichigwaa nu chibiraasa ’anwirikisa haNchu ga yaa
tashima nu chuN kuu yoo kuu yoo suu ’AnmaaN kuu yoo kuu yoo
(意味)
彼に千も惚れ 兄さんに万も惚れ(彼に首ったけになって)
クバの木の下で会う約束だよ 間違えないようにね
太陽が落ちたらすぐにおいでね 間違えないようにね
この世で幸せ者と言えば私だってば
毛遊びで前に立っているお兄さん あんなに愉快に踊るかねえ
他の村の人もおいで!おいでね!お父さんお母さんもおいで!おいでね!
掛け弾き(三線のテクニック)の素晴らしい事!あんなに楽しく弾(はじ)くかねえ!
他の村の人もおいで!おいで!父さんも母さんもおいで!おいで!

語句・やくすく 約束。・たがんなよー 間違えないでね。<たがゆん。「違う。たがえる。『たがう』に対応する」【沖辞】。否定の命令形。・めーだち 前に立つ。「めー」には空間的な「前」だけでなく、敬意を表す意味、時間的な「前」「最初」という意味もある。・うぃきりさ 面白いことよ!愉快なことよ!<うぃーりきさん。'wiirikisaN 「面白い。楽しい。愉快である。」形容詞で、体言止め「さ」で終わると感嘆表現ではあるが、ここでは「愉快に」「面白く」と副詞的に訳した。・たしま 他の村。シマとは村のこと。・ちゅ 人。「っちゅ」という発音にもなる。・くーよー 来いよ。<ちゅーん。来る。の命令形は「くー」。・すー あんまー お父さん、お母さん。・かきびちぐゎー 三線の弾き方のテクニックの一つ。爪を引っ掛けるように弾くがそのタイミングや速さなどで熟練を要する。・はんちゅがやー 弾(はじ)くかねえ。<はんちゅん。「はじく。弾力によってとばす」【沖辞】。


テンシトゥリトゥテンヨーテンヨー テンシトゥリトゥテンヨーテンヨー
テンシトゥリトゥテンヨーテンヨー テンシトゥリトゥテンヨーテンヨー
テンシトゥリトゥテンヨーテンヨー テンシトゥリトゥテンヨーテンヨー
テンシトゥリトゥテンヨーテンヨー テンシトゥリトゥテンヨーテンヨー

teeN shituritu teeN yoo teeN yoo
語句・しとぅりとぅてん 三線の擬音。・てんよー 「てんよー節」の囃子に「てんよーてんよーしとぅりとぅてん」があり、それを模した囃子言葉だろう。

あんすかな
あんすかなー
’aNsuka naa
そうするかい?
語句・あんすかなー あんす<あんしゅん。あんすん。そうする。+なー。「かい。かねえ」【沖辞】。

NO WOMAN NO CRY NO WOMAN NO CRY NO WOMAN NO CRY NO WOMAN NO CRY

待ちかんてぃーしみんなよーNO WOMAN NO CRY
まちかんてぃー しみんなよー
machikaNtii shimiNna yoo
私を待ちぼうけにしないでね
語句・まちかんてぃーまちかねる→待ちぼうけ。・しみんな させないで。<しみゆん。〜させる。の否定の命令。


待ちかんてぃーしみんなよーNO WOMAN NO CRY
待ちかんてぃーしみんなよーNO WOMAN NO CRY
NO WOMAN NO CRY NO WOMAN NO CRY




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解説

知名定男さんがネーネーズ(初代)のために、「ノー・ウーマン、ノー・クライ」(ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ)の曲にウチナーグチの歌詞を乗せた。軽快なレゲエのリズムの曲とウチナーグチの歌詞が絶妙にマッチしている。

原曲の「ノー・ウーマン、ノー・クライ」の意味は、Wikipediaによると、
『繰り返されるフレーズ「No Woman, No Cry」はジャマイカ・クレオール語に直すと「No, woman, nuh cry」と表記される。「nuh」は「don't」を縮めたジャマイカの言葉。つまりマーリーはこの曲で「No, woman, don't cry」と歌っていることになる』

したがって「泣かないで」ということだ。

民謡「てんよう節」の囃子「てんよう てんよう しとぅりとぅてん」を元にしたと思われる「てんしとぅりとぅ てんよう てんよう」が実に効果的なリズムを醸し出している。

歌詞には、夜に野原で若い男女が遊んだモーアシビの光景と、女性の彼氏への熱い想いが描かれている。

女性である主人公の想う人はモーアシビの「めーだちあふぃぐゎー」(前に立つ兄さん)というのは「モーアシビ の頭(かしら)」とも言われ、モーアシビ の場で踊らせても一番うまい、そして三線では民謡を奏で、舞踊の地謡も務める三線弾き(さんしんひちゃー)のリーダーのことであろう。

少し横道にはそれるが、そのモーアシビ の情景とはどんなものだったのだろうか。

このウタの理解のために、当ブログの「越来節」で取り上げた「モーアシビ のイメージ」を一部再掲する。

モーアシビのイメージ

『しまうた』(一九二二年)所収『ヤンバル今帰仁のモーアシビ(玉城鎮夫)』より。
このパンフレットには1930年代以前のモーアシビの様子が描かれている。

「兼次部落の毛遊び」
まず毛遊びについての呼称について
(イ)毛とは野原の呼称である。
(ロ)場所は第一条件として部落のはずれ
(ハ)部落民の安眠の妨害にならない距離その他地形の平坦地であること。
(二)月夜が多く実施され闇の夜の星空の下で、たまには灯火もあった(砂糖小屋の中で)
(ホ)時刻、夏は9時半ごろから10時ごろまでには集合した。その他の季節はそれより平均して1時間か1時間半くらい早く集まった。
(ヘ)製糖期や田植前後の準備と田植えの諸作業期には中断が多かった。
(ト)人員は20人から特別に多い時は30人くらい。
(チ)三味線弾きは二、三名が多かった。
(リ)集合隊形は男女対向と円座形で座った。
(ヌ)毛と雖も芝生や雑草の少ない所にはその近くから草を手で千切って敷いた。
(以下略)』

こうしたモーアシビは1930年代からの日本の軍国主義への傾注とともに「風紀を乱す」と言う名のものとに取り締まりの対象となり警察などによって存続できなくなった。


初代ネーネーズのアルバムから最近のネーネーズのアルバムにも収録されている。




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