茅打ちバンタ

たる一

2020年03月14日 11:00

茅打バンタ
かやうちばんた
kayauchi baNta
「茅打ちバンタ」という地名
語句・かやうちばんた「はんた」とは崖、つまり崖っぷちのことである。沖縄本島の北部、国頭村の辺戸岬の手前にある崖の名前で高さ100メートルほどの高さがある。茅の束を上から落とすとバラバラと音をたてて落ちることからそう名付けられた。


作詞 前田義全  作曲 山内昌春    唄三線 古謝 栄仁



一、音に豊まりる茅打ぬハンタ 昔戻る道 なまや変わて (なまや変わて)
(カッコは繰り返し。以下省略)
うとぅにとぅゆまりる かやうちぬはんた んかしむどぅるみち なまやかわてぃ
‘utu ni tuyumariru kayauchi nu haNta ‘Nkashi mudurumichi nama ya kawati
有名な茅打ちバンタ 昔の戻る道は今は変わってしまって
語句・うとぅにとぅゆまりる有名である。・むどぅるみち茅打ちバンタに行くには昔、宜名真漁港からの登る一本道しかなかった。岩の裂け目にある狭いその道は人がすれ違うことも困難で、どちらかが譲って「戻る」ことから「戻り道」とよばれた。



二、茅打ぬハンタ 何時ん白々と 波の花咲かち 足ゆ止みて
かやうちぬはんた いちんしらじらとぅ なみぬはなさかち あしゆとぅみてぃ
kayauchi nu haNta ‘ichiN shirajira tu nami nu hana sakachi ‘ashi yu tumiti
茅打ちバンタ(から見る景色は)いつも白々と波の花が咲いたように見えて 足を止めて(眺めている)



三、茅打ぬハンタ 遊ぶ美童女ぬ 唄声ぬ清らさ 目笑美らさ
かやうちぬはんた あしぶみやらびぬ うたぐぃぬしゅらさ みわれちゅらさ
kayauchi nu haNta ‘ashibu miyarabi nu ‘utagwii nu shurasa miiwaree churasa
茅打ちバンタで遊ぶ娘の歌声のかわいらしいことよ!笑顔が美しいことよ!
語句・しゅらさ<しゅらーさん。可愛い。・うたぐぃ会話での発音は「うたぐぃー」。・ちゅらさ<ちゅらさん。美しい。という形容詞が「ちゅらさ」と体現止めになると「なんと美しいのか」という感嘆の意味になる。



四、朝夕うす風に むまりやい居てん 茅打ぬハンタ 千代ぬ姿
あさゆうすかじに むまりやいうてぃん かやうちぬばんた ちゆぬしがた
‘asa yuu ‘usukaji ni mumariyai utiN kayauchi nu haNta chiyu nu shigata
朝夕毎日のそよ風にもまれていても茅打ちバンタは昔からの姿のままだ
語句・あさゆ<あさゆー。「毎日」のことである。・うすかじ「そよ風」




コメント
観光地としては辺戸岬に向かう途中にある景勝地を讃えたウタである。
作曲の山内昌春氏は「赤犬子」「一番友小」などの作者であり民謡歌手である。
作詞の前田義全氏はあまり知られていないが多くの琉歌の作者であると同時に元ハンセン病の患者である。

2016年頃、那覇の楽器店でたまたま見つけたレコード。150円だった。作詞をされた前田義全さんとはご存命中の2015年に知り合い、ご自宅のある沖縄愛楽園で泡盛を交わして琉歌について色々と教えていただいたことがあった。

そこで「茅打ちバンタ」のことについても伺っていた。前田義全さんの作られた琉歌は数知れないが、そのうちのいくつか。

屋我地島浦の白波の美らさ
浮る島々の影んのどか

道やりば里前 近道(くんちり)
んゆたさ
人生の道やりば誠肝いりて

岩間走ゐ松ぬ下枝ゆくぐて
出じ船ぬ美らしゃ 運天ぬ港


想いや景色を琉歌に即興的に歌い込めていくことが、ハンセン病や差別との苦しみの中で大きな支えになったと義全さんは泡盛を片手に語ってくださった。

「沖縄のウタは泥の中から生まれた。良い暮らしの中から生まれたものではない。皆苦労して生まれてきたウタ。だから、どんなに打たれてもひどいことをされても人を恨むことはない。人を助けるのが沖縄のウタなんだ」

「確かにウタには裏も表もある。しかし金儲けや人気とりや、人を蔑むためのものじゃない。そんな悪い心を持ってウタを歌うものじゃない」


茅打ちバンタを聴きながら義全さんの言葉の重さを感じる。




2015年愛楽園にて。筆者と前田義全さん。


前田義全さんが自作の琉歌を綴られたもの。何冊もご自宅にはあった。


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