2006年05月31日

与那国ションカネー

与那国ションカネー
ゆなぐにしょんかねー
yonaguni shoNkanee
語句・ゆなぐに 与那国島。与那国方言では「どぅなん dunaN」。「どぅなんスンカニ」とも云われる。本島では「ゆなぐに」。八重山では「ゆのーん yunooN」。・しょんかねー これは与那国に赴任していた首里王朝の役人と現地の妾との「別離の悲しみ」を歌っている。「しゅんかにー」「すんかに」ともいわれる。【石辞】(石垣方言辞典)には「「歌謡の名。情緒纏綿とした、男女の愛情を歌った歌。語源に(1)元禄ごろの流行歌「しょんがえ節」から(2)人名からの二説があるという(集成琉歌新釈)。「トゥバラーマ」と並んで八重山の二大情歌といわれる。」。「しょうがない」からきている説もあるが不明としておく。

(「ï」 は中舌母音 ; 宮良康正氏のCDより聞き取り)


一、いとまぐいと思て持ちゅる盃や みなだあわむらし 飲みぬならぬ
'いとぅまぐいとぅむてぃむちゅるさかじきや みなだ'あわむらしぬみぬならぬ
'itumagui tu muti muchuru sakajii ya minada 'awamurashi numi nu naranu
いとまを請うと思い持つ盃は 涙があふれて(?)飲むことができない
語句・いとぅまぐい いとま請い 別れをつげること 「いとぅま」、おいとまをする、というときの「暇、いとま」。 ・みなだ 涙。 なみだ→語句が転倒してみなだ ・あわむらし 「泡盛らし」と当て字した歌詞もある。 原曲の「どぅなんスンカニ」には「あわむらち」とある。「涙が盃の落ちて泡でたくさんになった」と読める。

ンゾナリムヌヨー ハリ ションカネーヨー
nzo narimunu yoo hari shoNkanee yoo
貴女慣れしたしんだ人(よ) (はり)(不明)(よ)
語句・囃子言葉の訳は不明点も多く避けたいが、あえて訳した。・なりむぬ 慣れ親しんだ人。 本島の「なりゆん」に「慣れる、なじむ、親密になる」【琉辞】の意味がある。


ニ、片帆持たしば肝も肝ならぬ 諸帆持たしば諸目の涙落とし
かたふむったしばきむんきむならぬ むるふむったしばむるみぬなだ'うとぅし
katahu mutta shiba kimu ni kimu naranu muruhu muttasiba murumi nu nada 'utushi
(船が)片帆をあげれば心が(とりみだして)心ならぬ 両帆をあげれば両目の涙を落として
語句・むたしば あげると。 <むたしゅん 持たせる 帆を持つ=帆を上げる、であろう。 むちゅん(動詞)には「持つ 手に持つ 所有する 維持する 受けもつ とつぐ、結婚する 子どもが出来る 持続する 維持する」など。 

ンゾナリムヌヨ ハリ ナグリシャヨー
nozo narimunu yoo hari nagurisha yoo
貴女、慣れ親しんだ人よ (はり)名残惜しい(よ)
語句・なぐりしゃ <なぐりしゃーん 「名残惜しい」【石辞】。


三、与那国の渡海や池の水心 心安安と渡ていもり 
ゆなぐにぬとぅけや 'いきぬみじぐくる くくるやしやしとぅわたてぃ 'いもり
yunaguni nu tuke ya 'iki nu mijigukuru kukuru yashiyashi tu watati 'imori
与那国の海峡は池の水のようだ 心安心して渡っていらしてください
語句・とぅけ 海。海峡。<とぅけー ・いきぃぬみじぃぐくる 池の水のようにおだやかな状態。「くくる」とは「心」の意味ではなく「・・のような」。よく琉歌につかわれる。 与那国の海は非常に海の難所であったらしい。したがって「池の水」とは程遠い。しかし、そこは現実とは逆の理想を歌い、言葉にし、その言葉の力によって現実のものにしたいとする熱望の表現。・わたてぃいもり 渡っていらしてください。 <わたゆん わたる。 + いめーん 「居り・行き・来の尊敬語」 命令形。 つまり「行く」と「来る」の区別はなく、前後で判断する。したがって与那国から本島へ「行って」ください、という意味と与那国に「帰ってきてください」と両方の意味にとれる。

カリユシショーリ ハリ サトゥマイヨー
kariyushi shoori hari satumai yoo
航海の無事をお祈りしています (はり) 貴方様(よ)
語句・かりゆししょーり 「安全無事な航海をしてください」【石辞】。・まい 「敬意を表すために使う。『前』の意。」【石辞】。本島では「めー」(前)。


日本の最西端の与那国島の名曲。
かつては「どぅなん=渡難」ともいわれたほど航海の困難な海に囲まれた与那国島。

しかし「どぅなん」という島の呼び名は「渡難」からではない。

「よなぐに」の琉球語読み「ゆなぐに」の「yuna」を与那国語で発音するときに「Y」が「D」になることから「どぅなん」と発音することによる。


「ションカネ」は、琉球列島に伝播しているある系列を持つ歌。

宮古「多良間シュンカニ」、本島「遊びしょんがねー」、奄美「シュンカニ」。

囃子言葉「ションカネ」

石垣方言辞典
歌謡の名。情緒纏綿とした、男女の愛情を歌った歌。語源に(1)元禄ごろの流行歌「しょんがえ節」から(2)人名からの二説があるという(集成琉歌新釈)。「トゥバラーマ」と並んで八重山の二大情歌といわれる。

「しょんがえ節」でよくしられているのは「梅は咲いたか 桜はまだかいな 柳ャなよなよ 風次第 山吹ャ浮気で 色ばっかり
しょんがいな」

本土に広く広がったこの曲は、各地にいまでも残っている。
その囃子言葉は「しょんがえ」「しょうがえ」「しょんがい」「しょんがいな」など。
意味は「そうだねえ」「そうかね」などとされる。

それと同系ということは「ションカネ」は「しょうがない」という意味よりも「そうだねえ」という相槌をうつ囃子ということになる。
「デンサー」「ジントーヨー」などと同じ意味を持つということになるが、どうだろうか。

歌の背景

本歌が「どぅなんスンカニ」であり、それを与那国に赴任した八重山の氏族が節歌として作り直したものといわれている。
その役人が島を離れるときの、現地妻(妾)との別れの悲しみを歌った情唄である。
当時は、人頭税の取立てのため首里王朝は先島(宮古、八重山地方)に役人を派遣した。単身でなければならなかったために
現地の娘を「まかない人」という名目で現地妻にした。
「八重山安里屋ゆんた」でも解説したが、当時首里王府が離島を管理、支配するため派遣した「与人」(村長に相当)、「目差」(助役に相当)らが実際の妻は首里に残し、赴任先では「賄い方」という名の「現地妻」を持っていたこと、その選定に拒否はできなかったばかりか、村では「賄い方」に選ばれた女性は「村の誉れ」とされていたこと。役人が首里に戻る時には土地などを褒美として受けとったことなどが背景にある。実際クヤマさんも与人から土地を受け取ったという。

そして役人らは税の取立てとともに首里に帰還する。その時の別れを歌った歌。
本歌の「どぅなんスンカニ」を役人が作り変えたものといわれている。

曲も抑揚が、トゥバラーマ、ナークニー、トゥーガニアヤグなどと並び賞賛されるほどに、美しく、豊かなメロディーラインがある。
本島の宮古根や下千鳥も抑揚の感じがよく似ている。




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Posted by たる一 at 00:16│Comments(11)や行八重山民謡
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三線 初心者クラスが終了しました!【のんびり沖縄三線】at 2007年02月28日 17:25
この記事へのコメント
はじめまして。八重山古典民謡を習い始めて、半年になります。歌詞が難しくて、唄っていても意味も分からない・・・なんてことがほとんどです。このブログ、参考になります。琉球民謡だけでなく、八重山民謡も取り上げて、歌詞を解説してくださることを願っています。
Posted by snkawaka(うちなーへの道) at 2006年05月31日 19:34
今、すっごく気になっている曲があるんです。
それが、わたしが、高校生のときに(10年前)聞いたきょくなんですけど、
すごく、題名を知りたいのです。

特徴としては、
①民謡っぽい
②女の人が歌っている
③♪ちど~り~ ちゅいちゅいな~ というフレーズがあり、
 とちゅうに、「ちゅらかーし(かーぎ?)と聞こえることころがある

 ♪ちゅいちゅいな~ ちゅいちゅいな~
 とも~に(←そう聞こえる) ちゅいちゅいな~

 というフレーズもあり、「ちゅいちゅいな~」がよく出てくる。

心にしんみりとくる曲です。
ごぞんじないですか~~??
Posted by まりい at 2006年05月31日 22:25
snkawakaさん
ありがとうございます。
私は本島の民謡を主にやっていますので八重山民謡は専門外ということなんですが、できるだけ取り組んでみようと思っています。
ブログですから、今後分かったことを追加していきますのでお気づきのことがありましたら教えてくださいね。
Posted by せきひろし(たるー) at 2006年06月01日 06:13
まりいさん
ありがとうございます。

そうですねえ。浜千鳥という歌の歌詞に似てます。
http://taru.ti-da.net/e573330.html

どうでしょうか。
Posted by せきひろし(たるー) at 2006年06月01日 06:17
たるーさん朝早いですね。(^o^)/
濱千鳥節
http://www.voiceblog.jp/oyakata/59325.html

携帯で変換したらハマチ盗りなんか出て来ます(・_・;)携帯にもATOK入れたい。
Posted by ふーちゃん at 2006年06月01日 08:33
ふーちゃんさん
朝早いですよ~夜は遅いですが(笑)
寄る年ですかね~

音声ブログ、私もちょとしたらはじめますね。

ハマチ取り、でなく「盗り」。PCでもなかなかでてこない(笑)
Posted by せきひろし(たるー) at 2006年06月03日 00:14
おっ!音声ブログ楽しみにしてます(*^_^*)
Posted by ふーちゃん at 2006年06月03日 01:16
はい、寝起きで録音しました。
まだ声が出ていない・・・
世宝と浦波です。
http://www.voiceblog.jp/tarugany/140165.html
Posted by せきひろし(たるー) at 2006年06月03日 12:17
開設おめでとうございます。さっそく3曲もアップしてますね。
ヽ(^0^)ノヾ(^^へ)ヾ(^^へ)ヽ(^0^)ノヾ(^^へ)ヾ(^^へ)ヽ(^0^)ノ
ポッドキャストに入れました。
Posted by ふーちゃん at 2006年06月05日 21:46
コバさんや、ふーちゃんに習い私も始めたのですが、
聞きながら、ありゃー、と思っています。
練習あるのみ。
Posted by せきひろし(たるー) at 2006年06月06日 18:47
石垣方言辞典を、故胤森さんから「永久に貸」していただいたので
それをつかって、すこし更新しました。
Posted by たるー(せきひろし)たるー(せきひろし) at 2009年06月21日 11:25
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