2007年01月14日

与那国のまや小

与那国のまや小
ゆなぐにぬまやーぐゎー
yunaguni nu mayaagwaa
与那国の猫ちゃん
語句・まやー 猫。<まやー。・ぐゎー ちゃん。小(ぐゎー)は、①小 まや小・・子猫。②愛称 まや小・・猫ちゃん。③強意 くーてん小・・ほんの少し。④卑小化 妻小・・かかあ。などの用法がある。話し手の気分で自由。したがって子猫でも猫ちゃんでも、猫の奴、といった意味の多様な取り方がある。



参考「八重山古典民謡工工四 下巻」(大濱安伴 編著)。「八重山古典音楽安室流保存会工工四全巻」。


一、与那国ぬ猫小 鼠だましぬ猫小 ハリ二才だましぬ やから 崎浜ヨー主ぬ前ハリ ヨーヌヨーシュヌマイハリ シターリヨーヌ ヨーヌヨーシュヌマイハリ
ゆなぐにぬ まやーぐゎー うやんちゅ だましぬ まやぐゎー (はり) にーさい だましぬ やから しきはま (よー)しゅぬまい
(はり よーぬよーしゅぬまいはり したーりよーぬ よーぬよーしゅぬまいはり)
yunaguni nu mayaa gwaa uyaNchu damashi nu mayaagwaa (hari)niisai damashi nu yakara sikihama (yoo)shu nu mai
(hari yoo nu yoo shu nu mai hari shitaari yoo nu yoo nu yoo shu nu mai hari)
〔囃子言葉は以下略〕
与那国の猫ちゃん ネズミをだます猫ちゃん 青年をだましたやつ 崎浜 お役人様
語句・ゆなぐに「与那国」 の呼称。「おもろそうし」(1600年頃)には「いにやくに」という表記が見られ、また1609年の薩摩侵攻後の検地で「与那国」の呼称が定着した。さらに古くは「米、砂」の意味がある「よね」(ゆな)から来ているという説もある。石垣島では「ゆのーん」と呼ぶ。地元与那国では「どぅなん」と発音する。与那国島ではよく「Y」が「D」に入れ替わる。・にーさい 青年。若者。沖縄語の「にーせー」。・やから やつ。やから。・うやんちゅ ネズミ。沖縄語では「うぇんちゅ」weNcu。・しきはま 「さきはま」と発音するものもある。「八重山島民謡誌」によれば、「租納『ダデク頂(チヂ)』の南の下にある濱のこと」とあるが地図で確認できなかった。・しゅぬまい 士族、役人、旦那様の敬称。沖縄語では「しゅぬめー」。


二、底ぬ家ぬ犬小とぅ中ぬ家ぬ猫小とぅきざん橋 行かゆてぃミャウてぃば ガウてぃばし
すくぬやーぬいんぐわとぅ なかぬやーぬ まやぐわとぅ きーざんばし いかゆてぃ みゃうてぃば がうてぃばし
suku nu yaa nu iNgwaa tu naka nu yaa nu mayaagwaa tu kiizaNbashi ikayuti myau tiiba gau tibashi
底の家の犬ちゃんと中の家の猫ちゃんと石橋で出会って(猫が)ミャウと言えば(犬が)ガウと言って
語句・いんぐゎー 犬。・きざんばし 石橋。石で段が作られた橋。「きざ」は「刻む」から。「きざばし」とも言う。「きざぬ橋」から「きざんばし」。「太陽の橋」(てぃーだんばし)という歌詞もある。「島うた紀行」では「太陽の当たる端」と訳してある。・いかゆてぃ 出逢って。沖縄語の「いちゃゆん」(出逢う)に対応。・てぃば といえば。<てぃ と。+いい+ば。


三、西からや大嶺主 東からや八重山主だ 真中から目かかぬとびきてぃ はいりきたんとん
いりからや うぶんみしゅ あーり からや やーましゅだ まんなかから みかかぬ とぅびきてぃ はいりきたんとん
iri kara ya ubuNmishuu aari kara ya yaamashu da maNnaka kara mikaka nu tubikiti hairikitaN toN

西からは大見役人が 東からは八重山役人だ 真中から 醜いものが飛んできて驚いて入ってしまったとさ
語句・いり 西。・あーり 東。沖縄語では「あがり」。・みかかぬ 醜いの。


四 大月と大太陽と上がる目や一つ 波座真の主と我との仲や一つ
うぶしきとぅ うぶてぃだとぅ あがるみや ぴーてぃーち はざまぬ しゅ とぅ ばんとぅぬなかや ぴーてぃーち
ubushiki tu ubutida tu agaru mi ya pitiichi hazama nu shu tu baN tu nu naka ya pitiichi
お月様と太陽と上がる目(道?場所?)は一つ 波座真の役人と私との仲は一つ
語句・うぶしき 大月。月の敬称、お月様。「しき」は「ちき」と歌う歌詞もある。・みー 「みー」には、目。穴。欠点。刻み目。境遇。順番を表す。中。間。実。命、運命。いっぱい。などの意味がある。「島うた紀行」では「場所」と訳してある。「運命」あたりがいいのではないだろうか。


五 大月ぬ欲しゃむぬ うしゃんぎどぅ欲しゃむぬ 波座真ぬ主ぬ欲しゃむぬ 女童欲しゃむぬ
うぶしきぬ ふしゃむぬ ふーたんぎ どぅ ふしゃむぬ はざまぬ しゅぬ ふしゃむぬ みやらび ふしゃむぬ
ubushiki nu husha munu huutaNgi du husha munu hazama nu shu nu husha munu miyarabi husha munu
お月様の欲しいものはウサギだけが欲しいもの 波座真の役人の欲しいものは娘だけが欲しいもの
語句・うしゃんぎ ウサギ。「ふたんぎ」と書いたものもある。・みやらび 娘。


六 八折屏風ぬ中なぎ 花染み手拭ば取り落とぅし うり取いが 名付き女童見舞いきたとん
やぶりべーぶ ぬ なかなぎ はなずみてぃさじ ば とぅりうとぅし うーりとぅいがなづぃきみやらび みまいきたんとぅん
yaburi beebu nu naka nagi hanazumitiisazi ba turi utushi naziki miyarabi mimaikitatoN
八折屏風の中に花染め手ぬぐいをわざと取り落として それを取るふりをして娘(を)見回りきている
語句・べーぶ 屏風。「びょーぶ」もある。・なじき 口実。言い訳。



(コメント)
先日の八重山民謡の「鳩間節」に続いての八重山民謡だが、与那国民謡。
「猫小節」(まやーぐゎーぶし)ともいう。

与那国島の東部、割目(ばるみ)という小字には、この歌碑がある。

与那国のまや小



歌碑は大川親雲上の墓の横にある。

与那国のまや小
▲大川親雲上の墓。

なぜここに歌碑があるのか、この歌碑に書かれている。

「その昔、与那国島に大川加仁と称する農夫がいた。 ある日のこと、 ウブンドゥ山で仕事をしていると、けたたましい猫の鳴き声が聞こえてきた。 駆けつけてみると小猫がヤシガニに足をはさまれて、穴の中に引きずり込まれるところであった。すかさず加仁がヤシガニから小猫を助け出すと、 小猫はなついて、 加仁と暮らすようになった。
この猫は利口で、鼠を捕るのが巧みであった。
その頃、首里王府の蔵では鼠が大発生し、 米俵が食い荒らされて非常に困っていた。対策に頭を悩ませていた王府は、 鼠を退治するのが上手な猫を徴用し、優秀な猫を献上した者には親雲上の位階を与えるとの布令を全島に発した。 そして、与那国島から選ばれたのが、 加仁の猫であった。 みごと一匹も残らず鼠を退治した猫の功績によって、 加仁は国王から親雲上の位階を賜った。 帰途の船中でうれしさのあまり謡ったのが、 この歌だと伝えられている。 しかし、 歌詞の内容は物語の猫とは全く縁遠いものに思われる。 往時の権力である役人の横暴とその社会の賄女制度の裏面を擬人体で謡っていることが考察される。与那国在藩宿舎の様相並びに役人と賄女等の関係の実態をあからさまに風刺した作と言えよう。」

参考:宮良保全 『遺稿集 与那国の民謡とくらし』

つまり、与那国には昔から伝わる大川という農民と猫との伝承があった。しかし、この「猫小節」の歌詞はそのことを詠ったものではなく、役人とその妾の横暴を猫にたとえたもの、というすこし複雑な関係であるということになる。

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Posted by たる一 at 10:55│Comments(13)や行八重山民謡
この記事へのコメント
「なぎ」は宮古では不特定の位置を表わします。あそこらへん、ここらへん、『〜あたり』くらいの意味ですか。八重山ではどうつかうかわからないですが、少し共通していますね。

問題は辞書ですよね。
たしかめられないのが、もどかしい。
Posted by オレ at 2007年01月14日 20:55
オレさん
コメントありがとうございます。
宮古の方ですか?
八重山口の辞書が無いので、酒を我慢するか、どうしようか思案中です(笑)

しかし参考になります。
また、今後もよろしく!
Posted by たるー at 2007年01月14日 21:54
はじめまして。おじゃまします。。
みるくゆがふ で検索したらHITしました。

すごい!学びたい 覚えたい 私には
とても魅力的な内容です。
よろしければ、お気に入りに加えさせていただけませんか?
Posted by りょう虎 at 2007年01月15日 01:24
りょう虎さん
おはようございます。

お気に入り、にどうぞ加えてください。
今後ともよろしくおねがいします。
Posted by せきひろし at 2007年01月15日 06:03
『結風(ゆいかじ)』という曲があります。
SUZIE(スージー)さんという方が唄っていらっしゃいます。
とても素敵なので、機会がありましたら
お聴きになってみて下さい。
Posted by りょう虎 at 2007年01月15日 11:12
りょう虎さん
機会があれば聞いてみますね。
ご紹介ありがとう!
Posted by せきひろし(たるー) at 2007年01月16日 18:32
どうもこんばんわ。
八重山古典民謡歌詞集によると、
「ふたんぎ」は「十五夜の餅」となっていました。
「あがる目」は「上がるところ」となっております。

ちなみに「うやんちゅ」はこの本でもパーシャクラブの歌詞カードの訳でも鼠となっております。

歌詞集だと
(与那国の可愛い小猫は鼠を騙し捕まえるのが優れた小猫で若者も騙す、
強者の小猫でも合った。その詳細を聞いて下さい緒役人様。)


パーシャの歌詞訳だと
(与那国のプリティキャットは鼠を騙して捕まえる。
ついでに若い男もだましちゃったりして・・・)

となっております。


「目かかぬ飛びきて入りきたん」はどちらも訳が違っていて、

歌詞集だと
「醜女・醜男がだしぬけに飛び出て引っ込んだ」
で、
パーシャだと
「飛び出てびっくらこいたいたずら好きの小猫ちゃん」
です。

全くもって意味が違ってますね。
現地の人の訳が違うのに私には分かるはずもありません・・・
Posted by 李 at 2007年01月21日 22:09
李さん
こんにちは。
返事が遅くなりました。

訳の比較、面白く拝見しました。ありがとうございます。

まず、「ふーたんぎ」ですが、実は私も沖縄語辞典に

「ふちゃぎ」
hucagi [吹上餅]菓子の名。長円形の餅の回りにあずきを付けたもの。八月十五夜のお供えとする。

とあるのに気付いていました。

hucagi とhuutaNgiは 「た」と「ちゃ」が入れ替わり、
Nが有る無しの違いで、そういう違いはよくあります。
「お月様が欲しいものは」という歌詞ですから、かなり当たりに近いと思いました。

しかし、手許に八重山口の辞書がなく直接調べることが今はできないために、慎重に「不明」としました。

「うやんちゅ」ですが
確かに「ネズミ」と訳したものを多くみます。

振り返ると
黒島口説では三番で「ネズミ」がでてきます。
私が訳したのは由絃會工工四集の歌詞で、それには
「うぇんちゅ」とあり、
これは沖縄語で、まさに「ネズミ」です。

うぇんちゅ、と うやんちゅ
確かに似ていると思います。
さて、どなたか八重山口をご存知の方に伺いたいものです。

CDなどの歌詞の訳については、読む人が面白くなるように
意訳がしてあります。それはそれでいいと思います。
脚色が施されているので、参考にすることはあれ、それをそのまま信じると落とし穴にはまります。

しかしいろいろあるものですねえ。
Posted by せきひろし at 2007年01月22日 23:35
久しぶりに遊びにまいりました。
おせっかいかもしれませんが、私の知ってる「島言葉」を書いてみます。
ねずみ=うえんちゅ  犬=いん  猫=まやー  豚=おー(おんた)
馬=んま  鳥=とぅるぃ  からす=がらさー  ゴキブリ=くむす
やもり=ざがー  牛=うすぃ  蝶=はびる  魚=いず ヒヨドリ=ぴーす
ハエ=ぱい  蚊=かざん(がじゃん)  蟻=あーら  雀=いしとぅんなま
等等・・・。
私の地方で言われている動物偏の島言葉でした。

また勉強させていただきます。
Posted by 八重山人 at 2007年02月26日 07:44
八重山人さん
おひさしぶりです。
ねずみ=うえんちゅ。ですか。
うやんちゅではなく?
では、うやんちゅ、は八重山の島(村)言葉ですか?

またいろいろ教えてください。
Posted by たるー at 2007年02月26日 23:29
ねずみ=うえんちゅ。です。
うやんちゅは、他の村(島)で言ってるところもあると思いますが、
私の村(島)では「うえんちゅ」です。

一キロも離れていない村(島)でも島言葉が違ってきます。
島の人も聞き分けるのに大変です(笑)

ちなみに「島(すぃま)=村」です。
Posted by 八重山人 at 2007年02月27日 23:44
はじめまして。
本格的に島唄を取り上げておられるようで、感服いたしました。

1番の歌詞ですが、僕は、「うえんちゅだましぬまやーぐゎー」と歌います。
うえんちゅには、「えんちゅ=ねずみ」と「うえんちゅ=上人(偉い人)」を掛けていると個人的には思います。

与那国の猫(女)は、ねずみ(役人)をだまくらかす。若者を騙す崎浜主を騙してやったそうだ。

と訳せば、後の囃子に通じると思うのですが。

2番の「きさん橋」は、「てぃーだんばし」と歌う場合もあるので、只の固有名詞だと思います。僕は、3番でこの詩を歌いますね。

4番の「あがるみやぴでぃーつ」は「上がる方向(東)は一つ」の意味だと。
本島では、「方」を「む」と読みます。「東方」は「あがりむ」という具合です。
「む」が、八重山では「み」に変わるのは十分考えられるのではないかと思います。「み」=「前」としても意味は同じになりますね。

5番は、僕は、「ふたんぎ」でなく、「うーしゃんぎー」と歌います。
ウサギのことで間違いないと思われます。

6番の「なぎ」は、「長」ではないでしょうか。距離のことで、つまり、屏風の中程に手拭じを落としたという風ではないかと。

長々とすいません。
個人的な解釈なんで間違っているかも知れませんが。
他の歌についても勉強したいので、また寄らせてもらいます。
Posted by だいすけ at 2007年03月18日 08:38
だいすけさん
はじめまして。
いろいろご指摘、ご意見ありがとうございます。

「うやんちゅ」ですが、「石垣方言辞典」によると
石垣では
ねずみ=うやんちゅ 'uyaNchu
とありました。
しかし、石垣でも島言葉がさまざまですから
八重山人さんがいわれたように
「うえんちゅ」もあるのでしょう。

「うえんちゅ」=上の人=役人 とかけていることは十分考えられます。

「てぃーだんばし」と確かに歌う方のおられますね。
このへんは、どれが正しいとか、もういえなくなっているように思えます。

「あがるみ」ですが
沖縄語辞典、琉球語辞典では「方」を「む」と読むことは確認できませんでした。「東方」を「あがりむ」という言い方も私はしりませんでした。

「東方」を「あがりむてぃ」といい、「方向」を「むてぃ」という言い方はあります。
琉球語辞典には「面omote」から来ているとあります。三母音化で
omote→umuti→(uの脱落)mutiむてぃ  となったと考えられます。

「む」が石垣では「み」となること、どうなんでしょうか。私にはわかりません。
ただ「前」は本島では「めー」ですが石垣では「まい」です。

「道」かとも思いましたが「みちぃ(中舌母音)」で、「みー」というものは見つかりません。
ということで私にはいまだ不明です。

「なぎ」ですが、石垣方言辞典では
「長さ」とありました。ご指摘のとおりですね。
Posted by せき ひろし(たるー) at 2007年03月18日 17:18
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